「ところにより雨」
「ところにより雨」。そんな予報が出た時、大抵君の住む街で雨が降っている。ピクニックをする時も、ドライブデートをする時も君といる時はいつも雨だった。そう、君はまごうことなき雨男だ。それもなかなか強力な。小雨に困っている地域に行けばさぞかし喜ばれそうな存在だが、当の本人は、雨のせいで彼女に振られるし花見もできないし大変だ、と嘆いていた。
けれど、私は雨が好きだ。雨が降るおかげで君と相合傘ができるし、傘の中では雨音と君の声だけしか聞こえない。晴れている時には見えない景色、できない体験を君とできる。
「全国的に晴れですが、ところにより雨が降るでしょう」
そんな気象予報士の声を聞きながら服を選ぶ。雨の中、今日は君とどこへ行こうか。
「特別な存在」
みんなが私を怖がり、時に暴力を振るう中で、君は私に近づき怪我を治した。初めて人間の温もりを知った。
人間の言葉を返せない私に様々な話をし、何度も撫でてくれた。
君も私と同じように他の人間たちから疎まれ嫌われているようでいつも寂しげな顔をしていた。そこにまた親近感を感じた。
私にとって君は特別な存在だ。数百年生きてきて、役に立ちたい、守りたいと思った人間は君だけだ。
だから、人間を滅ぼしたくなったら言って欲しい。君のためなら全ての力を使って他の存在をみな滅ぼすことだって厭わないから。
「バカみたい」
君にとって私って、たくさんいる友人の一人だったんだ。
今日やっと、そのことに気づいた。君から送られてきたのは、かわいらしい女の子と並んで笑う写真。
添えられた文には、彼女ができたという報告とそっちはまだ彼氏はできないのかというお節介な一言。
「あーあ、バカみたい」
君の好みに合わせた長い髪も、一生懸命勉強したメイクも。私だけが必死になって、君の一挙手一投足、わずかな視線にすら一喜一憂して。
「ほんとに、バカみたい。いや、バカ、なんだろうな」
自分のバカさ加減に、乾いた笑いが込み上げる。かと思えば、雫が一滴、頬を伝って落ちた。
しばらくは、君の幸せを願えそうにない。
「二人ぼっち」
「あなたさえいれば他に何もいらない」
歌詞やセリフによくあるそんな言葉が、私は嫌いだった。そんなわけはない、それで生きていけるわけがないと。でも、実際にそうなると、意外と満足している自分がいることに気づいた。
この集落には、もう私とあなたしかいない。主のいなくなった家々と広大な緑の中に二人ぼっちだ。けれど寂しくはない。あなたが隣で笑ってくれるから。二人だけでも、いやむしろ、二人だけの方が邪魔者もいなくていい。
私はもう、あなたさえいれば他に何もいらない。
「夢が醒める前に」
夢の中でいいから会いたい、言葉を交わしたい。そんな願いをし続けて何度目の夜だろう。でも、そんなことはもうどうでもいい。やっと君が私の夢に現れてくれたのだ。君はあの頃と変わらない優しい笑顔を浮かべて、私の話を聞いていた。嬉しくて嬉しくて、涙を流しながら話をする私を、時に抱きしめてくれた。
やがて、君の姿はぼやけ曖昧になり始める。終わりの時が近いのだろう。その前に、伝えなければならないことがある。
夢が、醒めてしまう前に。
「あのね!私はずっと君のことが好き。これからも変わらない。でも、ちゃんと前を向いて生きて、行くから!だからきっと、きっと、待っててね」
伝えてしまえば認めることになる。けれど、これ以上君に心配をかけたくないと、いつか夢で会えたら伝えようと心に決めていた。
私の言葉に、君が何かを呟いた。その声はもう聞こえなかったが、ありがとう、と言ってくれた気がした。