「消えない灯」
あの日、初めて知った感情。何事にも夢中に取り組むことができなかった私が、初めて夢中になり、必死に上達を目指した。しかしその努力の結晶はいとも簡単に打ち砕かれ、粉々になった。
あの日から私の心には悔しさという灯が灯り続けている。
この灯が私の生きる意味であり原動力だ。
何があっても絶対に、この灯が消えることはないだろう。
「きらめく街並み」
太陽が沈み、街路樹が輝きを放ち出す。外を少し歩けば陽気な音楽が流れ、楽しげな雰囲気が街を包み込んでいた。
きらめき浮き足立つ街の様子は微笑ましく、こちらまで楽しい気持ちにしてくれる。でも私には、そんな街並みがひどく遠く感じた。
光が強ければ強いほど、闇も濃くなる。
街が明るく賑やかになるほど、私の心の闇が強く意識される。
楽しそうに横を通り過ぎていく人たちが眩しくて見えない。
きらめく街並みが、私と彼らとの住む世界の違いを浮き彫りにするのだ。
「秘密の手紙」
拙い文章で懸命に君への気持ちを綴ったあの手紙は、誰に読まれるでもなく今も私の机の引き出しで眠っている。
あの日、放課後に渡そうと準備していた手紙だったけれど、渡せなかった。否、渡せなくなったのだ。
「あの、この手紙、受け取ってもらえませんかっ!それで、返事をしてくれないでしょうかっ?」
上擦った声で緊張気味に手紙を差し出したのは私ではなく君だった。そう、先を越されてしまったのだ。嬉しいような、ちょっと悔しいような、そんな複雑な感情になったことをよく覚えている。
そうして結局読まれたなかった手紙を、捨ててしまうのはもったいなくて何となくしまったままにしている。でも、うっかり君に見られないようにしなくては。
だって今なら、あの時よりも上手な言葉で毎日君への想いを直接伝えることができるのだから。
「冬の足音」
背後から私の体温を奪って逃げていく冷たい北風。気がつけばもう12月だった。冬の足音はいつも近づかないと聞こえなくて、聞こえ始めたと思ったらもう既に一歩後ろの方まで迫っている。やっと訪れた嬉しさを感じている間にいつの間にか隣に並んでいて、その楽しさを噛み締める間もなくどんどん私を置いて前へと行ってしまう。遠ざかっていく冬の足音を聞きながら、桜の香りと共にやって来る春の足音。こうして季節は巡ってゆく。
でもやっぱり、冬にはもうそこし長く隣を歩いてほしいんだけどなぁ。
「贈り物の中身」
シンプルな水色染められ、真っ赤なリボンが飾られた小さな箱。
今まで贈り物とは無縁の生活をしてきた私には、とても眩しく輝いて見えた。開けてしまうのが、もったいなく感じるくらいに。
「開けないの?」
ずっと箱を眺める私に、君が笑いながら尋ねる。
「こんなに綺麗な箱、開けてしまうのはもったいなくて……。ほんとにこれ、もらってもいいの?」
もらったことは嬉しいが、こんなに素敵なものをもらってしまうと私なんかが本当にもらってしまっていいのかと不安になる。
「もちろん。君のために用意したんだから。それに、本当の贈り物は箱の中身の方だからね。」
君の言葉に頷き、私はそっと箱を自分の方へと引き寄せた。そっとリボンの端を掴み、ゆっくりと解いていった。
飾られた綺麗な箱も、その中身ももちろん大切で嬉しいものだった。でも何より、嬉しかったことは、こんな私に贈り物をしてくれる人がいること、それが君だったこと。きっと私はこの瞬間を一生忘れないだろう。
そして今度は、私が君に贈り物をするのだ。