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「秘密の手紙」

 拙い文章で懸命に君への気持ちを綴ったあの手紙は、誰に読まれるでもなく今も私の机の引き出しで眠っている。
 あの日、放課後に渡そうと準備していた手紙だったけれど、渡せなかった。否、渡せなくなったのだ。
 「あの、この手紙、受け取ってもらえませんかっ!それで、返事をしてくれないでしょうかっ?」
 上擦った声で緊張気味に手紙を差し出したのは私ではなく君だった。そう、先を越されてしまったのだ。嬉しいような、ちょっと悔しいような、そんな複雑な感情になったことをよく覚えている。
 そうして結局読まれたなかった手紙を、捨ててしまうのはもったいなくて何となくしまったままにしている。でも、うっかり君に見られないようにしなくては。
 だって今なら、あの時よりも上手な言葉で毎日君への想いを直接伝えることができるのだから。

12/4/2025, 2:09:42 PM