「君を照らす月」
「本当にちゃんと、帰ってきてくれる?」
暗闇が支配していた部屋の中に、月の光が入ってくる。さっきは見えなかった君の表情が、月の光に照らされて露わになった。
不安そうに唇をキュッと噛み締め、瞳は涙で潤み、雫が月明かりできらきらと輝いている。
「……うん。ちゃんと無事に帰ってくる。そうしたら一緒に暮らそう。」
もう少しだけ、月が雲に隠れていればよかったのに。
君のそんな表情を見てしまったら嘘をつくしかなくなってしまう。本当のことなど、言えるはずがない。
必死に嘘をつく僕の顔は、月の光に照らされて、君の瞳にどう映っているのだろうか。
「木漏れ日の跡」
鮮やかな緑が、太陽の光に照らされて、きらきらと輝く。地面に映し出される木漏れ日は、木々が風に揺れるたびに形や大きさを変えている。
雨が降れば地面に染みという跡を残すが、木漏れ日は何も残さない。太陽が雲に隠れると、何もなかったかのように消えてその形も大きさも分からなくなってしまう。
いつか私も、木漏れ日のように何も残さず、そこにいたことさえ誰にも知られずに消えてしまうのだろうか。
暖かくてきれいなはずの木漏れ日は、私の目には少しだけ寂しげに映った。
「ささやかな約束」
部屋を片付けていると、ふと、昔の約束を思い出した。幼い頃に交わした、ささやかな約束。
それでもその約束は、私の中にしっかりと刻まれ生きる希望となっていたはずだった。けれど時が経ち、様々なものが変化していく中ですっかり記憶から消えかかってしまっていた。
約束の相手からの連絡も、途絶えてしまってから久しい。きっとあちらも忘れてしまっているのだろう。
忘れていたことが、忘れられてしまったことが寂しくて、切なくて胸が締め付けられるように痛んだ。
守られなかった約束は、心に小さな傷を刻みつけて静かに消えていった。
「祈りの果て」
私は、この祈りの果てに、希望など一切ないことを知っている。
それでも、自然と空を見上げてしまう。無意識に手を合わせてしまう。もう結果が分かっていることなど、祈ったところでその果てには何もないというのに。
それでも、どうか。
彼がまた、ただいまと笑ってこの家の扉を開けてくれますように。
「心の迷路」
彼の一言が私を心の迷路に閉じ込める。きっと彼は何気なく言ったのかもしれないけれど、その言葉は私に迷いを与えるものだった。
終わりのない迷路をぐるぐると彷徨っている私を出口に導いてくれたのは、彼女の言葉だった。何でもないことのように発せられた言葉は、私には出口までの道を照らす眩い光のように感じられた。
いつだって、私を心の迷路に閉じ込めるのも、そこから救ってくれるのも他者。
自分で抜け出せるくらい、強い人間になれたらな。