もも

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1/1/2024, 11:10:55 AM

『新年』
暗闇から徐々に光が上る。
眩しいのだろうか、薄く目を細めながら初日の出を見るあいつの顔を見て、俺は思わず吹き出した。

「お前今凄い顔してる。」

俺の言葉にあいつはすぐに剥くれっ面を見せて、ぽかぽかと俺の胸を叩いて抗議してくる。出会ったときよりは遥かに短くなった水色の髪の毛がさらさらと揺れて、そんな姿までが可愛いなんて思うのは明らかに惚れた弱みだ。

「なによー!こんなに可愛い私に酷い!」

可愛いなんてこれっぽっちも思ってないくせに、わざと虚勢をはって、自分は一人でも大丈夫だなんてボロボロの心を持ったまま他人の心配をしていたこいつの本質に気づけなければ、今こいつはどうなってたんだろ。

「って、なんか言いなさいよーっ」

俺が黙って見てたら、ほらもう不安になってる。
不安になると眉を下げるのが癖なんてもちろん知ってる。
だから頭を撫でれば剥くれながらも、安心した表情を浮かべた。
一度親に捨てられたこいつは自分は役立たずだなんてずっと心に傷を付けたまま誰にも言わないつもりだろうか。
俺も、こいつのお兄さんに聞いたから初めてしったのだ多分何かないと俺にも話すつもりは無いのかもしれない。


「ほら、初日の出見たんだから、一回家帰るぞ。
後でお兄さんに挨拶もいくんだろ?」
「うん!お兄ちゃんがちゃんと新年迎えてるかな心配…。
なんか急に一生懸命頑張ってて怖いんだ」

最初はうざいやつなんて思ってたけど、ちょっとずつ話してけば考えもしっかりしてたし、何よりほっとけなくなったのは誤算だった。安心しきった可愛い表情を浮かべるこいつの手を握りながらお兄さんの心配をする顔を見る。
お兄さんが不安定なのは多分俺のせいだと思うがまだ言えない。
新年を迎えたこの日。俺はこいつにプロポーズをしようとしてる。
それを一足先にこいつのお兄さんに言ったから、護るものがわからなくなったお兄さんがちょっとだけ不安定になってしまった。

けれど、『ありがとうございます。君が妹と結婚してくれるならもう何も心配はないんです。ただ一つお願いがあります。妹も僕も少し壊れてしまってるので、どうか必ず愛してあげてください。』

なんて素直に微笑んでくれた姿を見ると、お兄さんからこいつを護るという重荷を取れたのかもしれない。
重荷が取れたお兄さんがどう生きるかはお兄さんの問題だから、俺はこいつとたまに見守ればいい。

「お兄さんなら多分大丈夫だろ。たまには会わないとすねそうだけど…。
それより帰ったら凄い大事な話が有るから、ちゃんときいてほしい」

「えー?改まってなに?凄い気になる!」

俺がやることは、お兄さんの代わりにこいつを護ること。
多分プロポーズに答えてくれる自信はある。
後はかっこよく決められるか。
どうかタイミングを邪魔されませんように。
そう新年のお祈りをしながら二人手を繋ぎ帰宅するのだった。

12/31/2023, 10:26:03 AM

『良いお年を』

今年は色々とありましたね。
まずはフランスから日本に帰って来て、知り合いがいない中お店を開いてここには居場所がないかもしれないと孤独を味わいました。
人形作家として名前が売れてるのは海外の一部、日本ではまだまだ名前どころか人形という存在が恐れられてあまり見て貰えなくて、必死にあがいて結局ただの空回り。
別の趣味の方が職業としてなりたってる現状に苛立ちと、悲しさでどうにかなりそうなのに話せる相手が誰もいなかったんです。
話したかった。誰かに少しだけ寄りかかりたかった。
だから友人を増やそうとあちこち顔を出してみたら、以外にも優しくて、ちゃんと俺を心配してくれる人がいました。
しかも人形も怖がらなくて温かく受け入れてくれて、ガラスのケースの中から見てるような世界が一瞬で鮮やかになって、俺の世界の見る目が変わったんです。
今まで俺の作品が残れば俺自身はどうでもよくて、だからこそ魂を移すように人形を狂ったように作ってました。
俺をみて欲しい。
俺を色んな意味で愛して欲しい。
俺自身にそういう自信はないから。代わりに俺の人形をと。
けれど、色んな人にであって名前を呼んでくれて少しはこの世界に俺がいてもいいんじゃないかって思えたから、俺と話してくれる人たちの為に自分を大切にしようと思えたんです。

過去が邪魔をして誰かを愛すなんて出来ないと思ってたけど俺も出会えた人をしっかりと『大切な人』だと思えたんですよ?
きっとこんな思いを誰もみないかもしれないけれど、俺は友達の皆の笑顔を来年もみたいんです。
また来年も話せますように。
来年皆さんがいい笑顔でいられますように
俺に笑顔を分けてくれますように

そう祈りながら誰にも届けるつもりのない手紙を書いとこうと思います。

今年もありがとうございました。
良いお年を。

12/30/2023, 10:28:47 AM

『1年間を振り返る』

はぁ?1年を振り返えれだぁ?
なんちゅう面倒臭い事を…。どうしてもっていうんだろ?
分かったよ。ちゃんと話してやるから聞いとけ。
俺はある魔女に商品を届ける商人をしてんだけど、今年はまぁ、俺の使いが荒かった。
やれ美味しい食べ物を持って来いだの、綺麗な石がみたいだの、挙げ句の果てにはあっと驚くような酒が欲しいなんて我が儘し放題。
まぁ俺もあっちの世界、こっちの世界、あちこち旅に出れたからいいんだが、なんだ。世界ってのは色々あってその世界によって違うから俺が俺でいるってのも辛いときもあんだな。

一番辛かったのは猫が悪魔とされてる世界だ。
俺は猫の耳が付いているから、いつ頭の帽子をとって下さいなんて言われるかヒヤヒヤしたぜ。
何でもその世界で猫を見かけたら皮を剥いて、楽器の一部にしちまうらしい。
そんなの嫌だから、そうそうに魔女さんのご希望のなんかの油?を手に入れて持っていったら、『あら、ありがとう。』だけですまされちまった。
こっちとらかなり命懸けな気がすんのにそんなんだぜ?
いやになる。

逆にここは離れたくないなぁって思った世界は、何でもまぁるい世界だったな。
普段四角いものまで丸くて、一日中コロコロしてても飽きなかった。でも、魔女さんの為に希望品を持ってかなきゃ魔女さんが何をされるか分からないから、しかたなしに魔女さんに荷物を届けたんだ。こんときゃあちゃんと『ありがとう。大好きよ。』なんて俺にマタタビをくれたから…まぁ帰って来て良かったなんて思ったな。

何で文句言いながら商人を続けるかって?
そりゃ魔女さんが俺を助けてくれたからだよ。
死にかけの猫に命を与えて、いろんな世界を見せてくれた。
本人は外に出れねぇから俺がちゃんと世界をみて話を聞かせてやりゃいつも楽しそうに笑うんだ。

だからかないつもいつも、無茶難題を出されたって答えたくなっちまう。
多分来年もあちこち動き回ると思うから、暇なら来年の今頃1年を振り返ってやるよ。
そんときまでまた魔女さんの為あっちこっち世界見てきてやっから楽しみにしてな。

12/29/2023, 11:53:04 AM

『みかん』
「何で俺の家にいるの?りっぱな我が家あるじゃん」
六畳一間のワンルームのメンバーの家、俺に向かって物語担当のメンバーが不満げに炬燵の中で足を蹴ってくる。
大学に入って自分達が何か表現出来るんじゃないかって集めたグループは、いつの間にか遊びから本気に変わってた。
俺の目が良かったのか、ただ単に皆が凄かったのか、冗談半分で『癒しを届けよーぜ』なんて俺が言った言葉を皆が動画、音楽、イラスト、物語で形にしてくれて、いっつもまず俺が癒されるのはどんな事があっても絶対内緒。
そんなあいつらの為に俺が出来ることなんてたかがしれてて、ただ人の輪を作ってこいつらは凄いんだよーって伝える事ぐらいしかできない。

「いやー…。炬燵置けないからお前んち本当好きなんだわ。
他のメンバーも炬燵置いてないし、みかんもないしー」

「いや、せまいじゃん。二人で炬燵なんてしてたら結構いっぱいいっぱいだぞ。
みかんて…そんなの実家から送られてくるもんだし俺は珍しくも無いんだけど。
てか、減らしてくれるからありがたい。」

もうすぐ新しい年がくる。ただ広い部屋で一人詰まんない時間を過ごすくらいなら、狭い部屋こいつと炬燵を囲んで過ごすこの時間の方が遥かに楽しい。

「じゃああいつらも呼ぼー!ほら、みかん凄いへる!」
「いや、それは狭いだろ…!お前んちと俺んちは違うの」
「ちぇー」

みかんの消費が困ってるみたいだから、残りのメンバーも呼ぼうとしたら怒られた。
しょうがない、今日は二人で明日また俺んちで鍋パーティーでもしよう。
グループに鍋パしよ!物語担当がみかんに困ってるらしい!
と打ち込みながら、まだまだこいつらと楽しい時間が過ごせるのが嬉しい。

大学を卒業したら俺は家を継ぐために動かなきゃならない。
もうばか騒ぎも出来ないだろうし、自由もなくなるだろう
だから、今自由にうごける内にこいつらは凄いんだ!ってできるだけ伝えたいんだ

『いくー』
『参加。』
『みかん!やったー』

なんて残りのメンバーの連絡を口許を緩め見ながら俺は炬燵の上にあるみかんを一足先に頂くのだった。

12/28/2023, 10:54:25 AM

『冬休み』

僕の住んでるアパートの大家さんは可愛い物好きで、イベント事が好きな人だ。
たまに羊のぬいぐるみを買ってきてる姿を見るし、季節事に暇な住民を巻き込んで何かをやっている。
今年の夏は竹が手に入ったからと皆で流しそうめんをした。
ぶっきらぼうだけど、とってもいい人なのに皆怖いって大家さんを遠ざける。

だけど僕は知ってるんだ。

昨日から雪も降っていてとても寒い冬休みのある日。
真っ白な世界の中、大柄な大家さんが何かをしてるのが部屋から見えた。雪掻きかな?なんて思ってたんだけとスコップは持ってないし、雪が積もる地面にしゃがみこんでるから違うってわかってしばらく見ていたら、雪だまを転がしているみたいだった。
無表情で小さな雪だまをだんだん大きくしていく大家さんが、雪だるまを作ってるんだってわかればその光景が凄い可愛くて、可笑しくてついつい笑ってしまう。
だから、思わず温かい格好をして僕も外に出てた。

「僕も一緒に作らせて下さい!」

あんまり話したことのない大家さんだけど、僕が声を掛ければ驚いた様子を見せながら

「いいよ。」

なんて笑ってくれたから、やっぱり大家さんはいい人だと思う。
小学生ぶりくらいに作った雪だるまは、二人で作ったからとても大きくて、可愛い物になった。

「可愛いね。付き合ってくれてありがとう」

やっぱり無表情なんだけど、雪だるまを眺める大家さんはどこか誇らしげで嬉しそうに見えて僕も嬉しい。
これから怖がらずに大家さんに話しかけていいのかもしれない。

今年の僕の冬休みは意外な人の意外な一面が知れた嬉しい冬休みになった。

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