過去のLINEを見返す。会話の始まりはいつもたいてい、君からだ。わたしはいつも、それに返事を返すだけ。
「うん」「わかった」「了解」「大丈夫」「いいよ」「OK」
言葉少なな返事たち。君はいつだって色鮮やかな言葉たちをわたしに届けてくれたけれど、生憎と無骨なわたしには、そんなわたしに相応しい言葉しか紡げない。
最近は、君からのLINEも随分と減った。そろそろ愛想を尽かされてしまっただろうか。無理もない。それを嘆く資格はわたしにはない。
過去に縋るように、また、LINEを見返す。大嫌いなわたしがそこには居た。いっそすべてを消してしまおうか。そんな風にも思う。
それすらもできずに、データの君を見返して。
今日もわたしは、待っている。
テーマ「君からのLINE」
一生懸命な君を見るのが好きだった。
同じ日に、同じ病院で生まれて、同じ街で育ち、同じ学校に通った。ずっと一緒だった。だから君のことは、よく見ていた。
君は負けず嫌いで、負けるとすぐに頬を膨らませていた。諦める、なんて言葉を知らないように、まっすぐでひたむきで。
眩しかった。目がくらみそうで、それでもやっぱり、君から目が離せなかった。僕は君のようにはなれない、だなんて落ち込んだりもしたけれど。結局、君を疎ましいとか、嫌だとか、そんな風に思ったことは一度もなかった。
きっと僕は、君のことが好きだった。
なんて。
もっと早く、言えばよかったな。
君は病に侵されて尚、それでも毅い人だった。僕は苦しむ君に、好きだ、なんて告げる勇気を持てなかったけれど。弱気な僕に比べ、君はどこまでも強くて、眩しくて、うつくしい存在だった。――最期まで。
今も夢に見る光景がある。真っ白い部屋の中、痩せこけた頬を擦りながら笑う君の姿。痩せちゃった、太り甲斐があるね。そんなことを言っていた。
君は炎だった。魂を懸命に燃やすような、そんな生き様だった。燃え尽き、残った僅かな灰を、僕はみっともなくも掻き集めている。灰に残った微かな火種を、探すように。
僕の冷え切った心にもいつか、君の力強くも温かな炎が灯されるようにと願いながら。
テーマ「命が燃え尽きるまで」
朝はまだかまだかと待ち焦がれながら窓辺に立つ。
今日も、夜から逃げ出すように朝を追いかけている。地平線からほんのりと光が洩れる。嗚呼。
暗い場所は嫌いなの。蛾のように光を求めて、けれども、ここで、動けないまま。
夜明けを待っている。
テーマ「夜明け前」
恋人と別れた。わたしのこと、本気で好きじゃなかったんでしょ、というナイフとともに、あっけなく終わりを迎えたのが昨日のこと。
彼女を愛おしいと思っていた。大切だとも。けれど、この想いはどうやら彼女には伝わっていなかったらしい。翌日はさぞや最低な気分の朝を迎えるだろうと思っていたのだけれど、目覚めは殊の外快適で、心は不気味なほどに凪いでいた。
――本気で好きじゃなかったんでしょ。
……そう、なんだろうか。
そうではないはずだ。確かに大切にしていた。けれども。揺れる様子のない心の水面に、一縷の不安を感じていた。これが偽物の恋だというのなら。あの安らぎは、ぬくもりは。一体何だったというのだろう。
本当に、ぼくは君を愛していた。これが本気の恋でないというのなら。
きっと、ぼくに恋はできない。
テーマ「本気の恋」
大切な日には、丸を。本当はハートマークにしたかったけれど、気恥ずかしいので、すこし、歪な丸。
大切な日は増えていく。大切な誰かの誕生日だとか、記念日だとか、色々。
今日も、とても嬉しいことがあった。だから、今日という日に丸をつける。来週も、大切な約束ができたので、大切に、大事に、丸をする。
そうして大切な日に大切なんだという印をつけて、また、捨てることのできないカレンダーが増えるのだ。
テーマ「カレンダー」