昼間から飲むビールは格別だ。
普段なら口にしない酒だが、今日だけは気分が舞い上がっている。
雲一つない晴天、いや、爆天。
働いている人たちにちょいと失礼して、一口ぐいっと喉に流し込む。いやー最高ですなww
今日は"お祭り"だ。
屋台もチラホラ、花火だって最後には上がる。
ただちょっと普通のお祭りと違うのは、音楽が聴けるということ。
そう、今日は推し盤のフェスなのだ。
浴衣の下に水着を着ているのは、どんなに聖水を被っても構わないという下心(寧ろ浴びたい)
日本を跨いだ世界各国からも来ているファン。
同志よ…!
言葉の違いはあるだろうけど、皆気持ちは同じである。推し盤の推しの歌が聞きたい!推しが見たい!!
それだけで充分だ。
やっぱり夏といえば、フェス。
そして、ライブがわたしの中の熱いお祭りだ。
俺の前に神様(?)が舞い降りてきて、こう言った。
「自分は神と申す者。いや、……神だ!」
真昼間からヤベェ奴が来た。
「…いや、何?あんたも何かの宗教?」
俺は思わずそう答えてしまった。
あと数秒、俺の思考回路が通常運転だったなら、そうはならなかったのかもしれない。だがこの時は寝起きでこのヤバい奴が来る前に、もう一件エセ宗教的なものが来て、追い返した直後のことだった。
この件は日頃から断り続けてもしつこく勧誘しに来る。自分の部屋が一階にあるのもいけないかもしれない。ほんとによくもまぁ、めげずに毎回来ると思う。
良いモン食ってやがるんだろうなぁ…とその身なりから思うが、今回の件は…どう見ても、普通…だ。
男は言う。
『俺が、神だ!』
…いや、なんかその…アレだよね。
マジヤバいよね。どれくらいヤバいかっていうと、
マジヤバい。
自分は神だ!…なんて言い切っちゃう奴。
生まれてこの方『俺がガンダムだ!』のネタくらいしか知らんぞ。あとポプテ。
あと、なんかコンビのネタ、そゆのあったよね?
リアルでいい大人が言い切れるっていうのは、本気と書いてマジと呼ぶヤバい奴か、超合金の心臓を持つやばい奴。…あ、それ両方ヤバい奴だった。
俺は持っていたスマホでワード検索をする。
『私は神だ』…と。
ググって出てきた記事には、
『聖職者が「私は神だ」とか言い出したら完全にアウト』と出てきた。
(…デスヨネー)間一髪入れずその言葉が出る。
もうタイトルまんまじゃん。…あ、でもコイツ、聖職者なんか?いや、聖職者でも超一般人でも、ヤバいよ。どれくらいヤバいかっていうと、マジヤバイ。
そうそう、聖職者じゃなくても一般ピーポーでも、距離を置くべきだよね。だって「いや、神じゃねーよ」つっても大抵の場合話は通じないからさ。
肯定を否定で返してはどうにもならないのなら、
肯定をすべて肯定で返してみてはどうだろうか?
俺の中で何かが閃いた瞬間だった。
「お前だったのか、気づかなかったぞ。…全然」
(どうだ…?これ)
俺は検索した画面をチラ見しながら男に言葉を返す。
すると男は言った。
「暇を持て余した…神々の」
「遊び」
俺がそう返した時、男の顔が少し綻んだかのように思えた。男は、何も言わずただ頷くと、自らドアを閉めて去っていったのだった。
…え?コント?
後に残された俺は、そのまま暫く途方にくれた。
(アイツはいったいなんだったんだーーー?!!)
そしてその後も、
相も変わらずに勧誘は来る。
だが、あの時の俺の閃きが功を成した…かに思えたが
、どうやら奴らにも転機というものが訪れたようだ。
『私も、神です!』
『いや、俺が神だ』
『神は、私です』
…信者が増えていた。
どうやら訪問してくる奴らとマジヤバイ奴の意見が何かどう間違えたのか、合致したらしい。
…そろそろ俺も、インターホンカメラ付きのセキュリティ完備のとこに引っ越そうと思っている。
まさかの暇を持て余しすぎた神々の遊びによって
こんな事になろうとは…。
光のモヤは断固として俺が生きていた場所へと送り返す気だ。だが俺は、断固として首を縦に振らなかった。
もうどれくらい経ったのかわからない。…此処は、時間の概念がない場所らしい。俺の体感じゃ既に数時間は経っているといっても過言ではない。
俺は生前、所謂この世という場所で、生まれた時から孤児であり、親はなく身内すら知らない存在だった。物心ついた時から、犯罪を重ねてきた。
窃盗、人身売買、薬物、殺人…。この世の罪を重ね、重ねてきたのだ。俺を諭す者は誰一人としていなかった。
それがどうだ。今此処でようやく俺に説教をしてきやがったのは、人間ではない、だと?
光のモヤは言う。
「うーん、君は物事を確実なものにしないと理解しないってことだね。わかった。…でもちょっと考えてみてほしい。もしも体の中の機能が自分勝手に動き出したらどうする?」
「なんだ、そりゃ」俺は頭を捻る。
光のモヤは言う。
「君自身の体のことさ。君の身体の中の臓器が、個を主張して自分勝手に好き放題し出したら、君は、君として機能するのかい?」
「いや…言ってることがよくわからんが。」
「君たちの身体の中には、臓器があるよね。臓器に限らず、頭、首、胴、手、足。細かく言えばもっとある。でもそれらの機能たちが君の意思とは別に勝手に動き出したら、どうする?
お互いに協力し合わず、それぞれが勝手な行動をし始めるんだ。」
うんうん、とその光るモヤは自分で納得しながら話している。
俺は、そんな事は無いと答えた。
そんなものは、絶対にありはしない。
俺の為に動かねぇなんざ、不要だと。
光のモヤは言う。
「でも、困らないかぃ?
機能が"機能"しなくなるんだよ?
君という個体は、君の身体の中の機能があってこそなんだと、思わないかい?それに、この臓器や四肢たちは、君の意志で働いてきたと思うのかい?」
なにが言いてぇんだ。
「…あぁ、そうだろうよ。俺の為に動いているからな。」…当然の事だろうが。
「いやいや、違うよ。君の中の機能たちは、自分のために生きているのさ。正確に言うと、君の中には無数の微生物が生きている。君たちには、見えないだろうがね。
その微生物が何のために?と考えたことはあるかな?答えは簡単さ。自分のために、だ。
じゃあもし、その微生物に脳があったらどうかな?君たちのように色々と考えて、他の個体のために働くなんてバカバカしいって思う個体も出てくるんじゃないか?
数が多ければ多いほど、色々な考えを持つ個体が現れる。君たち人間と同じさ。
平和的に生きる者、他人に攻撃して生きる者(君のように、ね)、自分のために生きる者、誰かのためになるならばと生きる者。…まぁ、後者は偽善だよね。だって君たちは慈悲深い。僕たちにはそういう気持ちはないからね。…まぁこれは余談だけど。」
光のモヤは続ける。
「君たちはその動物的本能から子孫を残す行為をするだろうけど、微生物も同じさ。彼らのために、君は生かされているんだよ」
俺は手足を見る。
俺のコイツらが俺の意志に反する…?
人の心を読んだかのように、光のモヤは
「うーん、でもまだ君は確証を得てないような顔をしているな。じゃあ、実際にやってみるとしようか!」と言った。
その瞬間、俺の身体に異変が起こり始める。
…うっ、ぐ…な、なんだこれは…
俺の腕が…左手が…
腕はしだいに細くなり干からびていく。手は徐々に力が抜け始め、弱々しくなっていく。それだけじゃない。俺の意志とは正反対に動く。指一本ずつが意思があるように俺の意志では無い個体が、動いている。
これは…麻痺や痙攣ではない。俺の身体中が震えている。まるで無数の何かが、俺の中で暴れているのだ。
や、やめてくれっ!
思わず叫んでしまった。
何も出来ない自分がひどく情けなかった。
…こんな感覚は今まで感じた事がない。
「分かってくれたかなぁ?
君の意志で動く、なんて思っていただろ?みんな目に見えないものは信じないんだ、特に君たちは。まぁそれは無知というのだがね。
それはいいとして、どうだった?
他人の為に動いたことがない君は、身体が動かなくなってどう感じた?君が殺した人たちと対して変わらなかっただろ?」
光のモヤは言った。
意志に反して固体となった俺の中の機能は、突如反乱が起こったかのようだった。そして俺は、体の中の機能が初めて働かなくなって抱いた。この不甲斐なさは、俺がこの手で血に染めてきた人間の、感情なのか…?
「君が、君の意志だけで動いた結果、殺されていく人たちの意志は無になるんだ。殺された者は、どう思おうが、死者は口を開かない。それは体の機能がやがて死に向かい、その人の意志ではもう動かなくなってしまうんだよ。
君が今、体験したことと同じになってしまうのさ。
でも…そんな君に大チャンスさ!
…君は、選ばれたんだ!
こんな機会、滅多にないことなんだよ。どうだぃ?今度は、誰かのために生きてみないかぃ?」
俺はずっと社会を恨んで生きてきた。
この恨みは、誰かが作った誰かの社会に矛先を向けて、他者が生きる社会に対し、俺は絶望を勝手に抱いていたのかもしれない。
思い上がって生きてきたのだ。
俺は真っ直ぐ光のモヤに視線を向ける。
「…ふむ。考えは纏まったようだね。良い顔だ。
では、これから君に"生"を与える。…大丈夫。今度はきっと上手くやれるさ。なんたって、僕の加護を受けたのだから」
俺は、頷く。
…あぁ、今度は真っ当に生きてやるさ。
--では、送り出そう!さよなら、だ!
光のモヤと同じに辺り一面が輝き出す。
そして、俺の意識は小さく細く、そこで途切れた。
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光のモヤは、天を見上げる。
最後の意志を残してくれたことに、感謝しながら。
…そう、これが誰かのためになるならば、僕は……。
いや、俺は、俺自身のために"俺"を送り返そう。
……かつての俺の罪を償うために。
卵にみえるそれは、壁の上にちょこんと乗っていました。
乗っている、というより置かれている。と、ありすはおもいました。思わず、『ほんとに、たまごそっくりなのね!』と声に出してしまいました。
慌ててありすは言い直します。
「たまごそっくりに見えるって申し上げたんです。世の中にはすごく綺麗なたまごもあるじゃないですか!」
その卵にみえるそれは、大層に顔を真っ赤にして、いいます。
『世の中には、赤子よりも常識のない、奴らもいるんだからな!』
ありすは何も答えることができませんでした。その言葉は宙を舞うように、ありすに目を向けて放った言葉ではなかったので。
ー-それで?あんたは、どうしたい?
ふいに聞かれたありすは、ええ、なにがどうして、とすぐさま答えることができず、その後に続く卵にみえる彼の言葉を待ちましたが、どうやら彼はありすの答える番だと此方を待っているようでした。
仕方なくありすは、何がーーですの?と丁寧に答えます。
「いや、まったくこりゃひどい話だ!」
卵にみえる彼はいきなり、憤怒にかられて叫びました。
ありすにはなにがなんだかわかりません。どうして怒られなきゃいけないのか?こんなわけもわからない卵なんかに!
「おまえさん自分のことなのに、自分のことがわからないとはな!」
卵にみえるそれは、大層憤慨して言いました。
「おまえさんは、大きいのになりたいのか?小さいのになりたいのか?それとも、ふつうがいいのか?」
ありすは答えます。
「ふつう、がいいですわ。だってその方が都合がいいもの」
「どうして?」とすかさず卵。
「だって、みんなだって困りますわ!大きかったらすぐ見つかっちゃうし、お家にも入れなくなっちゃう。それに小さかったらお食事だってマトモにとれやしない。」
『おまえさんは、どうなんだい?』
「?」ありすはまた首を傾げます。
卵のような彼は、フンと鼻であしらいながら
「やってみなけりゃ、わからないだろ。あんたは、ほかの人間とえらくそっくりだからねぇ」と答えます。
「ふつうは顔で見分けるものですけど」とありすは慎重に答えます。
『わたしが言ってるのも、まさにそういうことだよ。あんたの顔ときたらほかのみんなとまるで同じだ。目がふたつ、鼻、口、ときてる。おまえさんも、たとえば、目がふたつとしても、片っぽに寄ってるとかすれば、--あるいは口がてっぺんにあるとか--それならちったぁ見分けがつこうってもんだがね。大きいとか小さいとか、他人にとってふつうが都合がいいとか、おまえさんが思うよりもずっとくだらないものなのさ』
「それじゃ、みっともないでしょう」とありすは反対しましたが、卵にみえるそれは、ただ目を閉じて「試してもないくせに」と言っただけでした。
ありすはしばらく待っていましたが、卵のそれは、それ以上それ以下にも反応せず、ありすをまったく意に介する様子もなかったので、さようなら、と言ってみました。
そしてそれにも返事がなかったのでした。
--して、ありす イン ワンダーランド。
鳥かごの中にいるのは、どちらでしょう?
きっかけは小さな実りだ。
それが枝分かれして、恋や愛にそしてさらに憎み嫉み恨みにも裂けていく。
しかし、友情とは言い難い。もう25年以上も経つとその情とやらは、やがて腐ちる。
そんな仲を多分お互い死ぬまで続けていくだろう。
わたしには、そういう人間がこの世に一人だけいる。
友情なんて、生ぬるいものではない。
友の情なんて、気にかけてやるほどでもなくなるのだ。
お互いに言いたいことを言い合って喧嘩し、連絡は2年に1回程度しかない。去年は正月の挨拶LINEで仲違いまでした。
ただ、お互いの深い事情を知り、他人には言えない心の傷までも知る。お互いの家庭環境を他人にまで話せる人間はそうはいない。
同じ歳である時代を生きて、
同性であるからわかること。
数少ない友人の中で、彼女は唯一のわたしを知る人間だ。
奴は天邪鬼でさえあるし、お互いの意見が合意することは滅多にない。…いや、ない。好きなものも違うし、一緒に遊ぶことや会うことさえもないけれど。