植物は人の言葉をよく聞いている。
記憶をしている、という実験報告もあるらしい。
人に対して良い意味の言葉は、
植物には解らないかもしれない。
ありがとう、頑張れ、などの人を応援する言葉は
ひょっとすると、人の発音によって捉えているのかもしれない。
否定的な言い放つ言葉は、語尾を強く落とす。
その微妙な違いを植物は感じ取っているのだろうか。
職場に前職者が残していった胡蝶蘭がある。
毎年5月から綺麗な花を見せてくれる。
『胡蝶蘭は暑い地域の花だから、水やりは3ヶ月に一回程度でいいのよ。』
放ったらかしの方が植物は強く育つんだそう。
確かに、何十年も前から、ずっと毎年同じ時期に花を咲かしている。
水やり…というより、土に水が浸透するまでビニールポットのままバケツに浸けておくだけだ。
斬新なやり方だが、本当に枯れもせずツルも伸びてその先々から今年の花が咲く。
一応手入れもする。
手入れといっても、枯れた葉っぱを切るだけだ。
栄養剤…?今まであげたことはないらしい。
この事務所は日当たりが抜群に良い。
胡蝶蘭は暑い地域の花だから、ちょうどいいのかもしれない。
手入れする時、様子を見る時、必ずわたしは
葉を撫でながら植物たちに話しかける。
植物の知識はゼロだ。でも、もう3年も一緒にいると、
いくら植物の知識はなくとも胡蝶蘭たちがどうして欲しいのか解ってきたような気がする。
かといってやっぱり人の言葉を解らないはずなのに
毎日少しずつかける同じ発音はきっと自分のために掛けられる音だと理解している…?
全般にはそうでない個体もいるかもしれないが、
動物も植物も、そして勿論人も、撫でられるのが好きな生き物だから触れる事と同時に、目を向けた先のその発音がきっと良い事だと解ってくれているのかもしれない。
今年も胡蝶蘭の花咲いて、綺麗な元気をもらうことがわたしのささやかな喜びだ。
『当選おめでとうございます。厳しい審査を乗り越えた貴方。これからあなたには、我が社が開発した《タイムマシーン》によって、過去へ飛んでもらいます。そして、出来るだけ且つ単純に、彼らを誘えば良いのです。』
---たった、それだけなのですよ。
初心者でもできる簡単なお仕事です。
と、言って男は笑顔を作った。
男の鞄から取り出されたそれは、
1つだけ赤い大きなボタンが埋め込まれた、
銀色の箱。
どうぞ、こちらへ…。
そうして男によって誘われたわたしは、
まだ進化していない猿も同然の我ら祖先の元へと飛び、彼らが道具を使うよりも以前に、
この赤いボタンを前にして、いかに恐怖や危険を感じ悟る潜在能力を持たせないようにさせるか。
そして、いかにこのボタンの扱いを容易くさせることが出来るかの任務を与えられた。
このボタン一つで、何かが変わるかもしれないし、何も変わらないかもしれない。もしこの計画がうまくいっても行かなくとも未来が作られることは造作もないはずだ。
だが、もしかしたら、
赤いボタンを押す権利のある国が出てきた時に、迷わずボタンを押すことがあるかもしれない。
それはこの計画が成功したと言う証でもある。
だが、わたしはこの計画がうまくいくことを期待してはいない。中には反乱を起こして戦いを真っ当から否定する国も出てくるだろう。進化とは、遺伝子とは何処から枝分かれしていくかわからない。
記憶の刷り込みにわたしがもし成功したとしても、所詮は異論を唱える者も少なかれ出てくるだろう。
そして、わたしは所詮、莫大な金で雇われた身だ。
解ったフリをして適当な相槌だけをし、金だけ受け取ってあとはおさらばすれば良い。
当初はそんなことを考えていたわたしは、甘かった。
男は作った笑顔のまま銀のスーツケースの中を開け、
前金としてあなたに渡す、という。
これからこの男の会社が考案したというカリキュラムをみっちり密着学習させられた後、《タイムマシーン》と名付けられたシステムに乗り、過去へと飛ばされる。
ーー逃げられない。と気づいた時は既に遅かった。
前金を受け取るよりも前に、自分の命はもう決まっていたのだ。
もしかしたらもう、帰ってはこれないかもしれない。
金欲しさで釣られた過去の自分。もしもこのタイムマシーンに乗って戻ることができるのなら…
わたしは、覚悟を決めた。
未来は、私の手にかかっているーーー。
ただくだらないことを呟けるアプリを使いたくて
ここ数日探し回った。
でも、なかった。
あったとしても、悪い噂があるものばかり。
Twitterは気の許せない知り合いがいるから使いたくない。似たようなグラビ○○は個人情報を抜き取るというあくまでも噂だ。
他人のバズりなど見たくない。
ただ淡々と自分の思いを吐き出したいだけだ。
毎日些細なことを書く場所はある。
読者もいて、顔は見えないけれど程良い反応を貰えている場所だ。
そして、自分の最も曝け出せる場所もある。
読者もいる。敢えて反応は拒否している場所だから誰かが見てくれているのなら、それで充分だ。
匿名で呟けるアプリを長年使っている。
他の日記では書けないどうしようもない愚痴を吐いても匿名だからお咎め無く書けるところがいい。
趣味の日記もある。
今、欲しいもの?
もし、今日始めたこの場所が自分の場所になれたら
自分にとってそれはまた別の生きる場所になれるような気がする。