いす

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12/16/2023, 2:19:32 PM

愛などお前は知り得ないくせに、優しさなどお前は持ち得ないくせに、その丸々とした眼から溢れるなみだがこの身に落ちて熱を奪う。この頭の痛みが、喉の痛みが、胃の痛みが、節々の痛みが、この部屋で唯一私たちの体を受け止めるゆりかごのようなソファに揺られている。地獄である。楽園である。ただの現実である。お前の人ならざるただの人の涙が、私をただの適温にし、ただの人にする。

12/15/2023, 6:06:00 PM

雪の降らない南国に雪の降る恋のうたがある。お前を待つときに何となく思い出す。歌えやしない。その土地の言葉とその土地の節で歌われるそれはどうにも難しい。だからお前を待つときに何となく思い出している。目の前にいないお前を想像のなかに描くのはそのくらい難しい、という話だ。だから消えないでくれよ、という話でもある。うたえないうたのために何となしに宙で指揮を振る。お前を待っている。お前を。

12/15/2023, 6:54:06 AM

この素朴な光がお前だ。俺に言わせれば素朴だ。ギラつきもしねえ、喧しい音だって鳴らねえ、せいぜいチカチカ瞬くくらいの光がお前だ。俺の隣で素朴に光る、柔らかいだけの愛がお前だ。

12/14/2023, 9:48:26 AM

マグカップにインスタントコーヒーを入れて水を入れて牛乳を入れてチンする。温めすぎて膜が張ってしまいカップの淵がガビガビになっている。それを飲み干して、例えば私はそのカップを濯がずに水やお茶を入れだりできる。君はどう?と訊くと「ものによる」と返る。ものも何も、いま私はインスタントコーヒーでいれるカフェオレの話をしていたのだから、インスタントコーヒーでいれるカフェオレの話として答えて欲しかったのだが。「例えば私は君を飲み干してそのカップにまた君を注いだり君ではないものを注いだりして飲み干すことができる」そんな愚かな愛を私にささやく。

12/12/2023, 9:42:56 PM

砕けるように出来ている。一方向にのみ強靭で、他はまるで脆いということになっている。
「方向」
「そう、ここに当たっても自分は砕けない、そういう部分を相手に向ける。心はほとんどすべて弱く脆い。大体の者は反射的に肉体が方向を整える。熟練の者はその反射に思考が宿る」
「あなたはいま私にそれを向けてる?」
「君がそう思いたいのならそう」

君がそう思いたいのならと言ったじゃないか。私は間違いなく望んだのに。あなたの欠片を拾いあげる。あんなにやわらかい声だったのに、ずいぶんと鋭利な欠片たちだ。噛まずに飲み込んで、喉を、食道を、胃を、この肉体を傷つけていくあなたをおもう。この身に取り込んでしまえば、肉体の反射も、思考も、方向だっていらない。私は無防備に、弱く、あなたのように今はただ脆くいることが出来る。

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