いす

Open App
12/12/2023, 4:47:15 AM

何でもないです、とあらかじめ言っておく。適度に疑わせる。それがコツだ。ゴミになるのはやりすぎだ。有用であることははなから望めない。役立たずであるなら役立たずなりの役に立ち方があると心得よ。枯れ木も山の賑わいというだろう。いいか、決して自嘲にも自虐にもはしってはいけないよ。そこがいちばんの難しさだ。役立たずをやりきる自分を軽んじてはいけない。取るに足らない君のとくべつを愛している。道化の涙をいっとうの宝物にする。この愛に殉じるには、その優しさに報いるには。

12/10/2023, 10:56:58 PM

なかまと呼べるものとはどんなものかしら。どんなひとかしら。不具のからだとこころで考える。健康で他者に優しくて力強くて穏やかで怒りを適切に自ら引き受けた上で声をあげることができる、そういうひとが目の前にいたとして、まあこれはあなたと言い換えていいのだけど、そういうひとが目の前で私に手を差し伸べていたとして。私は怯まずにその手を取れるかといわれると自信がない。何の後ろめたさもなく、そういうひとを大切にして、大切にされることを許せるかというと自信がない。あなたは私を仲間と呼ぶ。健やかに、優しく、力強く、穏やかに。差し出されたその手を見つめている。いまこの瞬間、永遠のような時間が流れている。

12/10/2023, 1:37:40 AM

こぼれたものを、繋いだ手のなかに閉じ込めておく。ガラクタばかりが、繋いだ手のなかに閉じ込められていく。それでもこれは私たちの宝入れで、開錠のすべはさよならの言葉にある。
こんなところまで来てしまった、と思う。
繋いだ手は重く、あなたの大切な片腕を独り占めしてしまったという罪悪感も重く、その腕は時折私を引き寄せて戯れにキスなどをしてくる。
「さよなら以外の方法を考えてる」とあなたは言う。
ガラクタの宝たちをどうやら見たいらしい。私と分かたれずに見る方法を考えてくれてるらしい。私はとうの昔に諦めたというのに。重くなった腕で、さらに私の身体を引き寄せて、頭に口付けて、そこから深く息を吹き込んで、その吹き込まれた息に押し出されるかのように私の目から涙がこぼれる。こぼれた涙さえこの繋いだ手のなかに閉じ込めて、私は満たされて仕方がないのに、あなたはまだ飽くことなくいてくれるらしい。

12/8/2023, 7:18:48 PM

ありがとうもごめんねも君はあまり言わないから新鮮だった。不遜にも嫌味にも感じない、そういう言葉の運用方法があって、君がここまでの人生で身につけたものなのか、それとも天来のものなのかは分からない。私はありがとうもごめんねもよく使う。なんなら代替になりえる言葉もいつでも探してる。なんとなく、そうしていないとどこにもいてはいけない気がするからだ。君に贈るにふさわしいありがとうとごめんねを探してる。夜明けは近い。別れも近い。この鼓動ひとつがすべての代わりになればいいのに。

12/7/2023, 6:21:38 PM

呪詛を吐くにはうってつけの場所だ。一見して愛だと、一見どころか生涯愛の名を疑われずに墓に埋まる呪いだって、ここで吐くのがいちばんだ。のろい、という言葉が気安く使われるようになって久しい。解呪の話がセットでついてきてほしいものだけど、そう上手くはいかない。救われないままの人間が多数だ。同じように呪われたらどうすればいい。不安の共有だけで気の済むものではないのに。部屋の片隅に置いたベッドに潜り込む。君の体温でとうに温かい。その穏やかな顔を見つめる。穴が空くほど。空いてしまえばいい、君と同じように呪われなくてどうすればいい、と吐き出す。

Next