いす

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10/20/2023, 2:57:04 PM

かすみがかった場所である。照りつける日差しで目も開けられないような場所である。街灯も月も星もない闇深い場所である。はたまたあなたと夕食を囲むいつもの毎日である。始まりはいつもそのようなところから起き上がっている。劇的な場所であった日など果たしてあっただろうか。あるかもしれない。どうだろう。あなたの記憶にはある?
「あなたを愛している」
この些細な劇物が毎日私とあなたの喉を通る。真の終わりが訪れたときに、どうかこの夕餉を思い出しながら、無音の福音の鐘を聞き届けられますように。

10/19/2023, 4:32:05 PM

このフェーズをやっと生き抜いたあとにあなたを見て悔いている。もっと話せば良かった。触れれば良かった。少なくとも横を見れば。見渡せば。そういうものを互いに抱えて、束の間の休息に手を握る。すれ違うだけの生き方に、それでもあなたにいっとうの幸いが訪れるように、祈るようにピタリと手を合わせて呼吸を紡ぎ、飲み込んでいる。

10/18/2023, 10:14:05 AM

夏が終わるのが遅い土地で暮らしてる。10月でも11月でもどこかジワジワと空気を焼くような気配に飼われている土地である。あなたを焼く今日も確かにそうなのに。喪服は日を吸収して鈍く茹っている。見上げると空だけが高くて、うろこ雲が整然と並んでいて、あの辺りはどれほどつめたい空気なんだろう。空の温度と、地上の温度と、私の体温と、焼かれたあなたの体がちぐはぐに、それでもあのうろこ雲のように整然と行進してゆく。

10/17/2023, 10:23:15 AM

そういう想いがあればよかったのにね。繰り返し繰り返し忘れて、それでもまた出逢って、いくらでも新鮮に嫌って、何度でも鮮烈に怒って、愛して、慈しんで、悲しんで。忘却の手つきだけは忘れないこの身で、何もかもに疲れてしまったと言うには贅沢が過ぎると知っている。それでもそういう想いがあれば良かったね。そうすれば君を、何よりも輝く一番星として、終わりの日まで見上げていられるんだ。

10/16/2023, 10:28:36 AM

それから俺たちはその部屋に住みつき、お互いがお互いを好きでなくなる日まで共にいようと笑いあい抱き合って眠った。下りたブラインドをふと掻き分けて外を覗くと、星がチラチラとこぼれているのが見える。そのやわらかな光が、随分お前に似ている。星など見上げたこともなかったのに。お前は俺を気にも留めずに笑う。
「君のほうが似てるのに」
ふさわしく生きていく。ろくでなしのならず者に降る光にしては少しばかりやわさがすぎる気はするが。

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