彩りのない日々に色が落ちた気がした。
学校で君を見た時に雷に貫かれたような、そんな感じがした。
次第に君に引き込まれていった。君が底なし沼のように僕を引きずる。その容姿も、手も足も何もかもが美しい。芸術を一言で表したようなその姿は僕の目に焼き付かれる。
あぁ、もっと、もっと見ていたい。卒業なんかしないでほしい。
「時間よ止まれ」
そんな無謀な言葉が、風に流れていった。
2025/02/16
時間よ止まれ
そこには誰もいなかった。
あるのは規則正しく並べられた机と椅子、そして教卓。夕日に照らされオレンジ色に染まる教室、数時間前までは人で賑わっていたはずの場所はもう空になっている。
みんな、卒業していった。桜舞い散る日、笑顔と涙をくっつけて、旅立っていった。
「先生、ありがとうございました」
「どうかお元気で」
もう会うこともない、君の声が聞こえる。
振り返っても、当然誰もいない。
2025/02/15
君の声がする
幼い子がいた。
丸みを帯びた体。茶色の長い髪は結ばれている。キラキラと輝く目、唇は弧を描く。ふと、既視感を覚えた。その子を私は知っているような、見た事あるような気がする。でも、何故だろうか。
「あ、お姉ちゃん!」
その子は私を見るなり駆け寄ってきた。私は一人っ子だからお姉ちゃんと呼ばれる筋合いはないはずなのに、何故か嬉しく感じる。
「君は誰?」
威圧感を与えないように、その子と同じくらいの高さになって聞く。
「誰って……私はお姉ちゃんだよ?」
「……?」
「だから、小さい時のお姉ちゃんってこと!」
耳を疑った。道理で既視感を覚えるはずだ。
でも、なんで小さい頃の私がここにいるんだろう。
「ねーねー、お姉ちゃんは今なにやってるの?」
「えっと……仕事」
「そうなんだ!疲れてない?大丈夫?」
わたしが顔を覗き込んでくる。純粋な瞳の中に私が映る。
「ちょっと疲れた、かな」
そう言うと何かを察したのか両手を伸ばしてきたので、脇の下に手を入れて抱っこしてみた。
「ねぇ、私」
「ん?なーに?」
「……強くなってね。お姉ちゃんとの約束」
この先のことを言ったところで、多分わたしには理解しがたいだろう。でも、今はそれでいい。
嫌でも理解しないといけない日が来るから。
「……うん、分かったよ!」
わたしが力強く言うもんだから、思わず笑みが零れた。
2025/02/12
未来の記憶
「貴方が産まれた以上、私から授けるものがあります」
「なあに、それ」
両手の中に、光るものが見える。光が強すぎるせいで、それがどんな形をしているのか分からない。
「ココロ、です。貴方が……いえ、私たちが生きる上でとっても大事なもの」
「無くなるとどうなるの?」
「そうですね……空っぽになる、とでも言えばいいのでしょうね」
「空っぽ?」
「そうです。後々分かるでしょう。……貴方には、何があっても手放さないで欲しいのです」
「……?分かった」
その光を抱きとめる。形も感触も分からないけど、ただ1つ言えるのは。
とても、暖かい。ってこと。
2025/02/11
ココロ
「好きです」
そう言われて嬉しくなり。
「別れましょう」
そう言われて悲しくなる。
それに形などはない。
ただ曖昧なものとして存在している。
それを一生引きずるように抱えて、私たちは生きる。
2024/09/24
形の無いもの