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1/22/2024, 1:56:39 PM

この世界は


「こんにちは!ストーカーさん!」

黒いフードを被った男は幼児の目線に合わせて膝をつく

普通と呼ぶには少し歪で

これが彼女の毎日の日課だった



「夕陽、行ってきます」

「いい子にして待ってるんだぞ」

「…うん!」

この声を聞いたのはいつだっただろうか

両親は共働きでいつも忙しい

だからお金だけを置いて、私はいつも自分で買う

毎日自分でご飯を作って、お風呂を沸かして自分の敷いた布団で寝る

でも悲しくはなかった

だって私の誕生日には大きなホールケーキを持ちながらお父さんとお母さんが必ず帰ってきて笑顔で出迎えてくれるから

だから学校でのお勉強もずっとずっと頑張った

だって、頑張ったらお父さんとお母さんが帰ってくるから




少女は人の感情を読み取る能力に長けていた

「サナちゃん!パン食べたいでしょ?私の食べていいよ!」

「お腹痛いね。せんせに言ってくるね」

「ハナ人形のおもちゃ!欲しいよね!一緒にあそぼ!」

彼女はサナちゃんが大好きだった

でも“好き”は行きすぎると段々と形を変え

「昨日ね!サナちゃんの好きなお花___」

「なんで分かるの…気持ち悪いよ」

異常になった




「(みんな、私が変みたいに言う…わたしはみんなのこと大好きなのに……)」

でも、お父さんとお母さんはわたしのことが大好き

だって今日は誕生日だから!

玄関のドアを開けてランドセルをベッドに投げる

少女はキッチンに立ち、夕食を用意する

小さな手からは想像ができないほど傷ができており、しかし料理をしている彼女からは幸せを感じ取れた

「まだかなぁ……!」

「お仕事忙しいのかな…」

「…ご飯冷めちゃった。でもあとちょっと!」

「帰ってくるよね…何かあったのかなぁ…」

「ぱぱ……まま…」

「………」

いくら待てども両親の姿は見えない

お父さんとお母さんはいつまで待っても帰ってこなかった

初めての日

何かが壊れた音が聞こえた






「(学校もつまんない…おかあさんも、おとうさんも帰ってこない…)」

暫く経って、よく公園に訪れるようになった

ベンチで足をぶらぶらと揺らす

ほんの少し前までは横には友達がいて

家に帰ると両親がいた

ずっとあると思っていた安心感

「悲しい」というよりも

「つまらない」気持ちが濃くなる

だが、私に変えられる力などどこにもないのだ

昔のことが、両親が、友達が羨ましく思う

「(こんな時______)」

夕陽を遮って、大きな影が映った

思わず視線を上を向けると、どうやら先ほどの大きな影は男のものらしく、フードを被っているせいか夕方の今でも顔が全く見えない

「誰…ですか」

「君の……ストーカー」

その男は俯きながらそう言った

「、ストーカーさん」

「私…」

「要らない子…なのかな…」

見ず知らずの男に抱きつき、懇願する

ストーカーだと言う怪しい男の服を強く握りしめて抱きしめた

話を聞いてもらえたなら、誰でもよかった

だから黒いフードの男を見つければ嬉しそうに声を上げ、なりふり構わずその元へ駆けて行った

時が経つといつしかストーカーさんと話す事

それだけが私の世界だけの楽しみになっていった





ストーカーさんはあんまり喋らない

というか喋るのが好きじゃないみたい

日が経つにつれて一緒に過ごしているとストーカーさんの気持ちはいつも手に取るようにわかった

悲しい時は一緒に居るし、嬉しい時はストーカーさんの代わりにたくさん笑う

互いが、1人の自分を慰めたかっただけなのかもしれない

でも、嘘でもなんでも良かった

互いが必要とし必要とされる関係

それは側から歪で異常な光景だった



家に帰る途中、フードを深く被った男が1人で座っているのを見つける

「横、座るね」

ベンチの横にちょこんと座る

「よしよし」

男よりも小さな手でわしゃわしゃと頭を優しく撫でた

「かなしいねぇ……辛いよね…もういなくなっちゃいたいって思うよね…」

「でも大丈夫」

「あのね、すきなの」

「私はストーカーさんのことが好き」

「私だけはストーカーさんは必要だよ。大好きなんだよ。」

「ストーカーさんは、私のこと…好き?」

深くフードを被り、コクンと頷く

男の頭に手を置きながら自分を褒めてくれる彼女のことを無視出来ずにいる

駄目だと分かっていながらも心の底では心地が良いと感じていた

本来は入りっこないはずの胸の奥底にの場所に水が入るように満たされていく

「ふふふ」

「2人で…どこか遠くに行きたいね」

「ずーっとずーっと遠ーい」

「誰も私達の事を知らない場所に」

「………」

男は何も言わなかった

今日は、下から覗き込んだストーカーさんの顔が少し暗く見えた。




そして日が傾き始めた頃、その生活は終わりを告げた。

家に帰ると家の鍵が空いていた。

中に入ると盛大なクラッカー音と共に視界を開ける

すると私の大好きなものがあった

「お父さん……?!」

「おかえり、太陽」

「お帰りなさい」

「おかあさん……!!」

「好き…!好きだよ!」

真っ直ぐ私に抱きつき、小さな身体を2人が包み込む

ずっと玄関で待っていたらしく、冬のせいか久々に触れた父と母の手は冷たかった

何ヶ月ぶりかもわからない家族との再会

少女には憎いという感情は無かった

ただただ自分を見捨てていなかったという「好き」があること

そのことが嬉しかった

「今までごめんな……1人にして」

「本当にごめんなさい…でもこれらはずっと一緒よ」

ずっと待っていた暖かい愛をただ受け止める

その声は、綿のように軽くて少しの風で飛んでしまいそうなほど微かに聞こえた

「ずっと…?ほんと…?!」

「あぁ…父さんと母さんはな、自宅でお仕事ができるようになったんだ。だから朝から寝るまでずーーっと一緒だぞ?」

「やった!やったぁ!」

うさぎのようにピョンピョンと跳ねて、彼女の幸福度は頂点に達していた

すると、玄関のチャイムが鳴る

「あっ…チャイムだ!私、出てくるね!」

ドアを開けるとひやりとした風が頬を撫でると同時に見慣れた格好の男が目に入った

ドアを開けると夜の冷たい風が頬をよぎる

上を見上げると見慣れた姿があって

遠くで走る電車の音と共に私はストーカーさんの懐へ引っ張られた

男は奥に居る両親たちを死んだような正気のない瞳で見つめる

「誰だっ……お前…」

「ストーカーさん!あのっ、あのねっ!!」

今の喜びを伝えようとストーカーさんの裾を握る

ストーカー、という言葉を聞いて父親の顔が更に曇っていた

「太陽から離れろ!!」

そう言ったと同時だった

片方の耳を塞がれ、2発の酷い銃声音が響き渡る

「……?」

ドサリと重たい何かが倒れた

なんだ、と目を動かす暇もなく、男は玄関に倒れた両親を通り過ぎてキッチンの奥にあるクローゼットの中を漁っている

時折チリンと音がするのはお金の音だったらしい




私は、目の前の父と母の姿に目を離せずにいた

私の視界には二つの血溜まりが見えて父親は胸を、母親は頭を打たれている

酷く脈を打って、血が地面に溺れて、今にも溢れ出しそうな___

何が起こったのかわからないまま酷く匂う部屋の中

2人の倒れた姿を見た瞬間、何かが動く音が聞こえた

巻かれていた時計の針が動き出す

__の置いた___を震えながら___、私は___

小さな部屋から3発の銃声の音が鳴った






5月7日午前5時7分、高王市竹田区。

近隣住民から銃声音がするとの通報があり、胸や頭部などから血を流し、倒れている三名の死体が見つかった。

被害者の日下部那次郎氏と日下部由鶴、銃撃犯の男とその子供が血塗れのまま壁掛け時計を持ったまま抱き合っている所を警察が発見し、保護した。

時計は本来の時間とは合っておらず、推測される死亡時刻は約4時29分頃。
日下部那次郎氏と日下部由鶴 には2発、男には1発の弾丸が正確に撃たれており、男の明確な意思を持った無差別殺人事件と扱われている。

しかし、銃には子供の指紋がついており、一部では男を撃ったのだろうと言われているが、何も証言がない事から一時期ネットで有名になり、謎めいた点も多い事から「真相解明をしてくれ」との声が相次いだ。

1/21/2024, 2:32:25 PM

特別な夜


時々、昔の夢を見る

まだ私が幼かった頃

顔を真っ赤に赤らめながら弁当を渡す女子学生

渋々受け取るが、また、困った顔をしている

何か言おうとする度に物凄い速度で逃げられるからだ

「すみません、今戻りまし…」

「なんですかその目は」

「別に〜」

師匠と呼ばれる女がこちらを見ながらほくそ笑む

「いやぁ…若いっていいねぇ……」

「揶揄うのも良い加減にして下さい…私は女ですよ?」

そそくさと帰ってきた彼女はサポーターを身につけてパッパと弓を構え、定位置に着いた

バンッ、と音が道場内で響き渡り、放った矢は的の心臓を刺す

「そういえば、最近来ていないね」

「…なんて言ったかな、苗字忘れちゃったけれど髪の赤い男の子だよ」

そんな奴が知り合いにいたか?、と

少し頭を巡らせると思い出す

中高一貫で同じのクラスメイト

仲が良いわけではないが

会ったら少し話し合う程度の知り合いだ

「あぁ、赤城ですか」

「…彼奴は多分…忙しいんだと思います」

「好きなのかい?あの子のこと」

何も返事が返ってこない

師匠は様子を伺うが

矢は完璧に的を得ていた

ちょうどその時聞き慣れたチャイム音が流れ出した

「(もうそんな時間か)」

そう思いながら片付けをするが、師匠がなりふり構わず足音を立ててズカズカとこちらへ向かう

「何してんだ?」

半分クラウチングスタートポーズの体制になった彼女を不思議そうに見つめる

正直言って、何かをする前に要件を言うのはやめてほしい癖だ

「何って…床拭きを…」

「そんなのしてる場合じゃぁない」

「新作が出たらしい。食べに行くぞ」

「天ぷらカレーうどん」

「袴で食べるものじゃないと思うんですが」





少し古びた扉を開けると優しそうな面立ちの店主が出迎えてくれる

店内は漆喰でできた質素な壁で天ぷら屋というよりかはうどん屋と言った方が近い

「いらっしゃい。待ってたよ」

天ぷらは好きだが、特別天ぷらが好きというわけではないので、天ぷら屋に来るのは決まって師匠に連れられる時だ。

少し店奥にあるカウンターへ2人は座った

「はい、お待ち」

そう言って出されたのは

新作の天ぷらカレーうどん

「なんで分かったんですか…というかメニューはうどんに変えたんですか?」

店主はシワができた顔で微笑んだ後、口を開いた

「今日限定だよ。特に君たちのね」

「こう付き合いも長いと横に座っている彼女の考えも、手に取るようにわかるもんさ」

皿を片付けながらそう言う店主を横目に、師匠は夢中で天ぷらを食べている

本当に師匠もここが大好きなんだろうな…

私もいただきます、と手を合わせて頂点にドン、と乗っかった天ぷらを口に含む

すると、たちまちして芯の内から暖かくなっているのを感じた

「どうだ、ここの店の天ぷらは美味いだろう」

「う……は゛…い」

何度も聞き慣れたセリフ

天ぷらが焼きたてで暑いのと、目に煙が入ったせいで涙が出てくる

「ゆっくり食べなさい」

そう言った師匠は妙に優しくて、違和感を感じた









「…そう…だ、…雪………話…し…う……」








「………………?」

















「大丈夫か?」

「え?あぁ…はい」

師匠に言われ視界のピントが合う

少しぼーっとしていたようだ

彼女は、改めて師匠の方へ向く

相も変わらず天ぷらを貪っており、店主に追加の注文をしていた

店主は予知していたかのように数ぴったりの天ぷらを差し出す

見慣れた光景

間違ってない

頭の辺りがズキズキと痛むのを感じた




























部屋で目が覚める

身体を起き上がらせたと同時にガチャリと何かを開ける音が聞こえた

「遅刻するわよ、早くご飯食べて行っておいで」

手に持っているのはオタマ

扉奥の方から微かに味噌汁の匂いがする

横を見ると誰もいなかった

あれは…夢

妙にリアルな夢だった、考える暇もなく身支度を済ませて家を出た

外を出歩くと路上ではサラリーマンや学生が朝の通勤ラッシュがスタートしつつある

そんな中、1人の男が私に話しかけた

「おはよ」

日本では珍しい、赤色の髪をしたこいつの名前は赤城

どうやらハーフでもないらしく、多分染めているんだろう

校則的にはアウトだが

少しきつめな坂を登ると学校が見えてくる

門には厳つそうな面立ちの先生が仁王立ちで立っていた

「お前ら…今日も当たり前のように遅刻しよって……!絶対に今日は通さんぞ!」

そういう顧問の先生からは“絶対通さない”という意思の固さが見て取れる

「大体なんだその髪は!学校を舐めているのか?」

「何回も言うようですがこの髪は地毛で……」

「なら証拠を出せ証拠を!地毛証明書はあるのか?」

「いえ…」

ほうらハッタリだ、そう言いたげな先生の態度に少し腹が立つ

そもそもこの学校は中高一貫なのだから私がこの髪が地毛なのは知っているはず

その上で叱っているのだ

ああ、イライラする

ターゲットが私に変わった途端、赤城はうまく先生の背後に周った

「(あいつ…逃げる気か)」

光に反射して光るものが目に映った

「ブフッ…」

先生は茹蛸のように真っ赤になって風に飛ばされたカツラを取りに行っている

赤城と私は後ろから聞こえる声を無視して門の中へ入り、じゃあな、と赤城が一方的に別れを交わした



1/21/2024, 10:08:24 AM

海の底

1/19/2024, 11:57:24 AM

君に会いたくて





「あたしメリーさん。今ゴミ捨て場にいるの…」




ガチャン




震える手を押さえて電話を切る




メリー…?あの都市伝説の………?




ありえない…だってあれは……




「あたしメリーさん。今駅前にいるの」




嘘じゃない、イタズラじゃない




ダメだ、電話を取っちゃ、




「………っ…!」




「あたしメリーさん。今あなたの家の前にいるの」





なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!





電話、切ってるのに…!!




、、本当に駄目、このままじゃ、




「あたしメリーさん。今_____」




私、死________





















3年前




あれは中学生になりたてだった頃




気味の悪い人形を見つけた




カビの生えた古汚い西洋人形




お世辞にも可愛いとは言えなかった




ただ、その日は誕生日で気分が良かった




それだけだった




「(目玉……飛び出してる……)」




もちろん人形を綺麗にする方法などはこれっきしも分からないのでスマホで調べて一通り洗ってみた




「おぉ……これはなかなか……」




色白い肌にぷっくりとした唇




金色の髪に少しカールのかかった髪




まさに西洋の少女を象徴したような見た目の可愛らしい女の子




見た目がよくなったからか人形を見る度に心が綺麗になるような気がした




人形相手に相談したこともあったけれど




今思い出しても少し…いや結構恥ずかしい


























勉強に力が入らなくて部屋を掃除をしているとふと人形に視線が入った





要らないな、と思ったけど口には出さなかった





…人形相手でも失礼な気がしたから






私は“その子”を遠ざけようとした






もちろんその時は「メリーさん」を意識しての行動ではなかったし





どうせ誰かに上げたりするだろうと思っていたから名前は付けなかった





…あの頃は受験勉強て忙しくてギスギスしていたから仕方ないとも思うけれど






どうしてもこの部屋にあるのを見ると邪魔に思えてくるのだ







それから数年経って、私も高校生になった






メリーさんの存在を知ったのは高校生になってからだった






バイトをして1人になる時間が増えたのでネットに触れる機会が多くなったからだ






すると自然に友達ができて







よく部屋に招き込んで一緒に遊んでいた

















「ねぇ、この人形なにー?」




「え?あぁ…これね__」




「なんかちょっとキモくね?」




「えぇ?そう…?不気味ちゃあ不気味だけど」




「そう、だね……」







友達から嫌われたくなくて同意した




それが私の命を変える運命の出来事だったのかもしれない




私は捨てなかった




でも




あの時、メリーさんは











“捨てられた”と同じ心境だったんだ











「いやっっっ!!!!こないで!!!!」




死にたくない……




ただその一心で周囲にある物をひたすらに投げた




あの子に当たっているのかも分からない




幽霊のような存在だからこの世にある物体は当たらないのかも




でも「“生きたい”」という気持ちだけが私を突き動かしていた




メリーさんが着実に、どんどんと私に近づいてくる




周りの目なんて気にせずに顔をぐしゃぐしゃにして、袖で拭いても拭いても溢れ出す涙を拭う




「……っは、ぁ………あっあっ………ううっ……うっ…ぁうぅ……」




うまく呼吸ができない




どうやら人間は本当に追い詰められた時には何もできなくなるらしい



堪えていた 涙が溢れて、情けないと思う




せめて____せめて苦しくないよう




ぐっと目を閉じた





























「……………?」





目を開けると





まさに西洋の少女を象徴したような見た目の可愛らしい女の子が私の視界に入った











「綺麗にしてくれて















可愛いって言ってくれて














いっぱいお話ししてくれて」






















「ありがとう」





























「…待って、」



























気づいたらメリーさんはいなくて










横には白い百合の花が置かれていた
























             




1/19/2024, 3:32:15 AM

閉ざされた日記


ヨーロッパ、###市

〈昨夜、〇〇地区で殺人事件が発生しました。成人男性のノア・リトルドン氏がロープで殺害された状態で発見されており、住宅内が酷く荒れていた事から金銭目的ではないかと予想されています。また、閉ざされた日記帳に「⬜︎⬜︎市」と書かれていた為、一部◇◇市ではデモが起こっており、近隣に近い地区から「〇〇地区を封鎖しろ」との非難の声が上がっています。次のニュースです。〉


「昨日の夜、〇〇地区で殺人事件があったんだって」

「あ、それ知ってる。確か十万円くらいとられたんだよな」

「よく知ってんな、誰から聞いたんだ?」

「知り合いに〇〇地区に住んでる友人がいるからな。警察の話を盗み聞きしてたらしい」

「へぇー…あの地区に住んでる奴も大変だなぁ。毎日殺人事件が起きるんだから」


1人の男はその話に聞き耳を立てていた

彼の名はーー

とある探偵の助手をしている者だ

この治安の悪い街では毎日のように犯罪が起きる

「“また”………ね」

彼は少し嫌気がさしていた

この〇〇地区に住みたいと手を上げる者はチンピラか裏の世界に住む者くらいだろう

「できるならここ以外の街に住みたい」と言う

彼自身もその1人だった

だがそうさせないのはーーーー

数分歩くと少し古臭い建物に着く

「ただいま戻りました」

ドアベルを開けて辺りを見渡す

中は40平米ほどの質素な部屋でモダンなデスクとソファー、壁に大量の本棚が置かれている

奥の部屋へズカズカと入って行き、色んな服を掻き分けて__を見つける

隙間にズッポリハマっていて髪が鳥の巣のようにクシャクシャのまま寝ている__を見つけた

「また〇〇地区での事件だそうです」

「君は誰かな」

そう、この男だ

彼は探偵

__の推理力には目を見張るものがある

だが推理以外は少し変な人で、誰から見てもダメ人間だと思う

「なっ…!誰ってーーですよ!寝ぼけているんですか?!」

__の頬を強く引っ張って、「これは夢ではないぞ」と言いたげな顰めっ面で__を見ていた

「いひゃいよーーくん、昨日できた口内炎が痛んだらどうするんだ」

「不健康な生活してるからですよ…ほら、そこ!足置かない!」

ーーは不貞腐れたように立ち上がると肉や卵やらを冷蔵庫から取り出して__の口へ放り込んだ

親が子の世話をするようにーーが__の口をナプキンで吹く
ーーにとっては毎日のように行われる行為で、見慣れた風景だった

そんな時間を邪魔するようにけたたましい声が玄関からやってくる

「朝ですよぉぉぉぉー!!!」

壁が古い際か壁からミシミシと鳴っているのは気のせいだと自分に言い聞かせておこう

彼女は♡♡

この事務所に週に二、三回来て郵便物を届けてくれる配達員である

「はい、これ」

そう言って差し出したのは紋章付きの封筒

__が中を強引に開けるとそこには

閉ざされた日記が入っていた

封筒からは古くも新しくもない焦げたような匂いがする

一体誰が送りつけたのか?

どんな理由で?

__の潜在的好奇心を擽るには十分な材料で、封筒にボンドを付けたみたく動かない

ーーは彼女の耳に手を当てて小声で話す

「すいません。こうなると長いんです。それにこの時に刺激を与えたら中々許してもらえなくて…今日は帰っていただけますか…?」

「え!?なんて?!?!?!」

あまりの大声で耳が耳鳴りを起こした

「(何もわかってなさそうなダチョウみたいな顔しやがって…)」

これで無自覚なのだから余計にタチが悪い

恐る恐る__の方を見るが幸い集中していて聞こえていないようだ

嵐のような♡♡が事務所を出終わった後にーーはため息を吐き、気を改めたように笑顔で__の方へ振り返る

「聞いてください。」

「ここに来る前、美味しい紅茶を_____」

一瞬だった

頬を何かが横切った

血だ

「痛い……」

「何するんですか、危ないですよ?」

「君、誰かな……見る限り知り合いではなさそうだが」

ーーが頬の血を擦って何かブツブツと呟いている

「もう…嘘はやめてくださいよ」

「いいや、本当さ」

「隠す気ないだろ」

「っ……?」

「暫くそこにいるといい」

@@@は壁に塗りたくられた接着剤によって固定されていた

予想は簡単につく

このまま無理に引き剥が添そうとすると皮膚ごと破れるだろう

「なんでバレるかなぁ……完璧だったはずなのに」

「一応聞くけどさ…なんで分かったの?」

少し間を空けた後、こう答えた

「…ーーくんが入れる時のご飯はもっと優しい」

「あははは!なんだよそれ!」

「今回は僕の負けのようだね」

「でも、君と会える日は近くなりそうだ」

「この街に少し、興味が湧いたよ」

不気味に笑う@@@を横目に__は急いで支度の準備をする

「早く行ってあげなよ」

「君の助手が死ぬのは時間の問題だろうね」

駆け足である場所へ向かう探偵の背中を見つめる

「あの封筒の焼け具合と匂いだけで判断したのかな」

「場所なんて…言ってないのにねぇ………面白い」

「さようなら、名もなき探偵さん」

「次会う時は、__________」




「やぁ、ーーくん」

「スパイ⚫︎ーマンごっこさ」

そう言う__は鉄骨の上からロープを下げ逆さまになっていた

「君もやるかい?結構楽しいよ」

「…結構です」

よいしょ、と声を出しながら地に足をつけてコートを払う

助手のーーが椅子で縛られているのを一通りジッと見た後、口を開いた

「どうだい殺される者になった気持ちは」

「…まぁまぁって感じです」

「次のターゲットは君のようだね」

爆弾を起動させる火の元はもう足元まで来ていた

「あの……本当に死んでしまいます…」

「そうだね」

「でもね、ーーくん」

「私の命は3つあるんだよ」

「それってどういう……」





彼らが出てきた頃には肌は焦げ、髪はチリチリになっていた

「あんな至近距離で爆発させないで下さいよ」

「本当に死ぬかと思いました」

「あなたが来てくれなかったらどうなっていたことか…」

「君は私の助手なんだ。しっかりしてくれ」

「はい……」

__の放った言葉が棘のようにチクリと刺さる

実際今日もいとも簡単に捕まっていたし、助手のーーは何も言い返せなかった

あったあった、と言いながら__はくしゃくしゃになった封筒を取り出す

「今日届いた封筒に面白いものが入っていてね」

そう言い出すと一つの日記帳を取り出した

「これは日記帳…ですね」

そうーーが言うが返答はない

__はどこか上の空で、正面に映る美しい夕陽をジッと眺める

探偵は日記帳に目線を下ろした後、空を見上げた

「この街を調べてみることにするよ」

「本当ですか……?!うっうれ…うぅ…」

__の発した言葉が信じられなくて涙が溢れそうになる

何故ならば今まで何千と仕事を受けようと説得してきたが何を言っても

『私は興味がないんだよ、わかったのならさっさとどこかへ行ってくれ』

…だとか

『今日は気分が乗らないな……そうだ、ーーくん、君が血迷っていた時に書いt』

「ああああああ!!!!何も聞こえない!!!」

急にーーが大声をあげたのだから__の肩がビクッと跳ね上がった

「なんだ急に…大丈夫か?」

馬耳東風で同僚の探偵からは「宝の持ち腐れ」と言われてきた

「おーい」

まるで不良だった息子が公正したような

「腹でも痛いのか?」

引きこもりだった娘が社会に出たような…そんな気持ちだ

「……」

助手のーーが悦に浸っていると__が手を差し伸べた

「ん」

「え……なんですかその手は」

「通行費だよ、ーーくん」

「あっ…はい……」



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