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閉ざされた日記


ヨーロッパ、###市

〈昨夜、〇〇地区で殺人事件が発生しました。成人男性のノア・リトルドン氏がロープで殺害された状態で発見されており、住宅内が酷く荒れていた事から金銭目的ではないかと予想されています。また、閉ざされた日記帳に「⬜︎⬜︎市」と書かれていた為、一部◇◇市ではデモが起こっており、近隣に近い地区から「〇〇地区を封鎖しろ」との非難の声が上がっています。次のニュースです。〉


「昨日の夜、〇〇地区で殺人事件があったんだって」

「あ、それ知ってる。確か十万円くらいとられたんだよな」

「よく知ってんな、誰から聞いたんだ?」

「知り合いに〇〇地区に住んでる友人がいるからな。警察の話を盗み聞きしてたらしい」

「へぇー…あの地区に住んでる奴も大変だなぁ。毎日殺人事件が起きるんだから」


1人の男はその話に聞き耳を立てていた

彼の名はーー

とある探偵の助手をしている者だ

この治安の悪い街では毎日のように犯罪が起きる

「“また”………ね」

彼は少し嫌気がさしていた

この〇〇地区に住みたいと手を上げる者はチンピラか裏の世界に住む者くらいだろう

「できるならここ以外の街に住みたい」と言う

彼自身もその1人だった

だがそうさせないのはーーーー

数分歩くと少し古臭い建物に着く

「ただいま戻りました」

ドアベルを開けて辺りを見渡す

中は40平米ほどの質素な部屋でモダンなデスクとソファー、壁に大量の本棚が置かれている

奥の部屋へズカズカと入って行き、色んな服を掻き分けて__を見つける

隙間にズッポリハマっていて髪が鳥の巣のようにクシャクシャのまま寝ている__を見つけた

「また〇〇地区での事件だそうです」

「君は誰かな」

そう、この男だ

彼は探偵

__の推理力には目を見張るものがある

だが推理以外は少し変な人で、誰から見てもダメ人間だと思う

「なっ…!誰ってーーですよ!寝ぼけているんですか?!」

__の頬を強く引っ張って、「これは夢ではないぞ」と言いたげな顰めっ面で__を見ていた

「いひゃいよーーくん、昨日できた口内炎が痛んだらどうするんだ」

「不健康な生活してるからですよ…ほら、そこ!足置かない!」

ーーは不貞腐れたように立ち上がると肉や卵やらを冷蔵庫から取り出して__の口へ放り込んだ

親が子の世話をするようにーーが__の口をナプキンで吹く
ーーにとっては毎日のように行われる行為で、見慣れた風景だった

そんな時間を邪魔するようにけたたましい声が玄関からやってくる

「朝ですよぉぉぉぉー!!!」

壁が古い際か壁からミシミシと鳴っているのは気のせいだと自分に言い聞かせておこう

彼女は♡♡

この事務所に週に二、三回来て郵便物を届けてくれる配達員である

「はい、これ」

そう言って差し出したのは紋章付きの封筒

__が中を強引に開けるとそこには

閉ざされた日記が入っていた

封筒からは古くも新しくもない焦げたような匂いがする

一体誰が送りつけたのか?

どんな理由で?

__の潜在的好奇心を擽るには十分な材料で、封筒にボンドを付けたみたく動かない

ーーは彼女の耳に手を当てて小声で話す

「すいません。こうなると長いんです。それにこの時に刺激を与えたら中々許してもらえなくて…今日は帰っていただけますか…?」

「え!?なんて?!?!?!」

あまりの大声で耳が耳鳴りを起こした

「(何もわかってなさそうなダチョウみたいな顔しやがって…)」

これで無自覚なのだから余計にタチが悪い

恐る恐る__の方を見るが幸い集中していて聞こえていないようだ

嵐のような♡♡が事務所を出終わった後にーーはため息を吐き、気を改めたように笑顔で__の方へ振り返る

「聞いてください。」

「ここに来る前、美味しい紅茶を_____」

一瞬だった

頬を何かが横切った

血だ

「痛い……」

「何するんですか、危ないですよ?」

「君、誰かな……見る限り知り合いではなさそうだが」

ーーが頬の血を擦って何かブツブツと呟いている

「もう…嘘はやめてくださいよ」

「いいや、本当さ」

「隠す気ないだろ」

「っ……?」

「暫くそこにいるといい」

@@@は壁に塗りたくられた接着剤によって固定されていた

予想は簡単につく

このまま無理に引き剥が添そうとすると皮膚ごと破れるだろう

「なんでバレるかなぁ……完璧だったはずなのに」

「一応聞くけどさ…なんで分かったの?」

少し間を空けた後、こう答えた

「…ーーくんが入れる時のご飯はもっと優しい」

「あははは!なんだよそれ!」

「今回は僕の負けのようだね」

「でも、君と会える日は近くなりそうだ」

「この街に少し、興味が湧いたよ」

不気味に笑う@@@を横目に__は急いで支度の準備をする

「早く行ってあげなよ」

「君の助手が死ぬのは時間の問題だろうね」

駆け足である場所へ向かう探偵の背中を見つめる

「あの封筒の焼け具合と匂いだけで判断したのかな」

「場所なんて…言ってないのにねぇ………面白い」

「さようなら、名もなき探偵さん」

「次会う時は、__________」




「やぁ、ーーくん」

「スパイ⚫︎ーマンごっこさ」

そう言う__は鉄骨の上からロープを下げ逆さまになっていた

「君もやるかい?結構楽しいよ」

「…結構です」

よいしょ、と声を出しながら地に足をつけてコートを払う

助手のーーが椅子で縛られているのを一通りジッと見た後、口を開いた

「どうだい殺される者になった気持ちは」

「…まぁまぁって感じです」

「次のターゲットは君のようだね」

爆弾を起動させる火の元はもう足元まで来ていた

「あの……本当に死んでしまいます…」

「そうだね」

「でもね、ーーくん」

「私の命は3つあるんだよ」

「それってどういう……」





彼らが出てきた頃には肌は焦げ、髪はチリチリになっていた

「あんな至近距離で爆発させないで下さいよ」

「本当に死ぬかと思いました」

「あなたが来てくれなかったらどうなっていたことか…」

「君は私の助手なんだ。しっかりしてくれ」

「はい……」

__の放った言葉が棘のようにチクリと刺さる

実際今日もいとも簡単に捕まっていたし、助手のーーは何も言い返せなかった

あったあった、と言いながら__はくしゃくしゃになった封筒を取り出す

「今日届いた封筒に面白いものが入っていてね」

そう言い出すと一つの日記帳を取り出した

「これは日記帳…ですね」

そうーーが言うが返答はない

__はどこか上の空で、正面に映る美しい夕陽をジッと眺める

探偵は日記帳に目線を下ろした後、空を見上げた

「この街を調べてみることにするよ」

「本当ですか……?!うっうれ…うぅ…」

__の発した言葉が信じられなくて涙が溢れそうになる

何故ならば今まで何千と仕事を受けようと説得してきたが何を言っても

『私は興味がないんだよ、わかったのならさっさとどこかへ行ってくれ』

…だとか

『今日は気分が乗らないな……そうだ、ーーくん、君が血迷っていた時に書いt』

「ああああああ!!!!何も聞こえない!!!」

急にーーが大声をあげたのだから__の肩がビクッと跳ね上がった

「なんだ急に…大丈夫か?」

馬耳東風で同僚の探偵からは「宝の持ち腐れ」と言われてきた

「おーい」

まるで不良だった息子が公正したような

「腹でも痛いのか?」

引きこもりだった娘が社会に出たような…そんな気持ちだ

「……」

助手のーーが悦に浸っていると__が手を差し伸べた

「ん」

「え……なんですかその手は」

「通行費だよ、ーーくん」

「あっ…はい……」



1/19/2024, 3:32:15 AM