今日は頑張りました…
急な寒さにも負けず、
それによる体調不良にも負けず、
業務の嵐にも負けず…。
だから今日は…!!
歌わせてください…!!
声が枯れるまで…!!
始まりはいつも静かだ。
だがムードだの雰囲気だのという体裁は、それから10分もすれば剥がれ落ちる。互いに全てを奪おうとするような獣の声。ベッドの上だけでは、男女は理性ある人間の皮を脱ぎ捨て、野生へ還ることができる。
終わったら、先程までの事が無かったかのように、料金をきっちりと抜き取って帰っていく。
ただ、アイツの場合は最後まで静かだった。
自分が何をしにここへ来たのか分からないような顔をして、始めから終わりまで俺の下でいいなりになっている。声ひとつもあげやしない。
時間きっかりにロボットのように立ち上がり、服を着て、お金を持って、さっさと出て行ってしまう。
これだけだったなら、金のみを目的に来ているヤツ…という認識のみで済んだだろう。
俺が引っかかったのはアイツの目だ。
まな板の上で死んだ鯉のような無抵抗、しかしその黒々とした目だけはずっとこちらを見つめている。
果てのない宇宙のような目。
アイツは何を考えてこちらを見ているのだろうか。
それを確かめるべく、俺はまたアイツにコールした。
何か起こる前の一瞬の静寂。
アレと似た雰囲気を感じる。
そう、何かワクワクする事が起こる、
その始まりは、いつも静かだ。
BくんがC子をみてる。
C子は女の私が嫉妬しちゃうぐらい綺麗な私の親友で、Bくんはメガネをかけたクールな優等生で…そして私が今恋してる人。
Bくんの視線が手前のC子じゃなくて、奥の私に向かっていたらいいのに。
A子がC子を見ている。
C子は誰もを惹きつけるクラスのマドンナで、俺には手が届かぬ存在。A子は笑顔が可愛いおかっぱの女の子、C子の親友で…そして俺が今恋している人。
A子の視線が手前のC子じゃなく、奥の俺に向かってたらいいのになぁ。
私はC子。
お互いがお互いを見ているのに気づかず、すれ違った視線の間で今は頭を悩ませている。
どうしたらこの2人をくっつけられるものかと。
私の目つきは悪い。
一重で、細長くて、眉尻が吊り上がった目だ。
そんな自分の目が、私は嫌いだ。
怒っていないのに「怒ってる?」と聞かれる事は多々あり、話しかけようとしても逃げられて、あっという間にクラスで孤立した。
前髪を伸ばしたけれど効果はなく、逆に髪の毛の隙間から覗く目が怖いとかどうとか。ため息が出る。
しかし、私が嫌いな私の目は、ある日突然日の目を見ることとなった。
いつものように登校している最中、若い男女にいじめられている猫を見かけた。本人たちは遊んでいるつもりかは知らないが、猫はどう見ても嫌がっている。
消えるような声で鳴く猫の声を聞いたら、いてもたってもいられなくなってしまった。
「あの」
若者達がじろりとこちらを見た。
話しかけてはみたものの、続きの言葉が出てこない。
人見知りの性格を忘れていた、大ポカである。
ただ、私が心の中でオタオタしている間に、若者達はどこかへ行ってしまっていた。「こえー」「何だよ」といった捨て台詞を残して。
今回ばかりは私の鋭い目つきが助けてくれたようだ。
「大丈夫?」
という私の問いに、猫はにゃあと返事をした。
渾身の一作だった。
私の画家人生を二年費やした、会心の出来。
それは、部屋の天井まである縦長の和紙に描いた、黒々した竜の絵だ。
墨汁を染み込ませた筆で一本一本線を描く。
時には手のひらの大きさあるハケで大胆に。
時には糸のような細さの筆で繊細に。
墨の濃淡で色をつけた竜は、雲ひとつない快晴の日に完成まであと一歩まで漕ぎつけた。
あとは目を描き入れるのみ。
私は大きく深呼吸してから、そっと墨汁に筆を浸し、十分に染み込ませてから、竜の目を黒く塗った。
その時だった。
竜が和紙の中でうごめきだしたのだ。
「あっ」と口に出した次の瞬間には、開け放っている窓から竜が逃げ出していた。
あまりの速さに突風を起こしてめちゃくちゃになった部屋の中から、私は青空へと昇る竜を見ていた。
私の作品を、見ていた。
昇れ、竜よ。
高く、高く。