渾身の一作だった。
私の画家人生を二年費やした、会心の出来。
それは、部屋の天井まである縦長の和紙に描いた、黒々した竜の絵だ。
墨汁を染み込ませた筆で一本一本線を描く。
時には手のひらの大きさあるハケで大胆に。
時には糸のような細さの筆で繊細に。
墨の濃淡で色をつけた竜は、雲ひとつない快晴の日に完成まであと一歩まで漕ぎつけた。
あとは目を描き入れるのみ。
私は大きく深呼吸してから、そっと墨汁に筆を浸し、十分に染み込ませてから、竜の目を黒く塗った。
その時だった。
竜が和紙の中でうごめきだしたのだ。
「あっ」と口に出した次の瞬間には、開け放っている窓から竜が逃げ出していた。
あまりの速さに突風を起こしてめちゃくちゃになった部屋の中から、私は青空へと昇る竜を見ていた。
私の作品を、見ていた。
昇れ、竜よ。
高く、高く。
10/14/2024, 1:01:33 PM