始まりはいつも静かだ。
だがムードだの雰囲気だのという体裁は、それから10分もすれば剥がれ落ちる。互いに全てを奪おうとするような獣の声。ベッドの上だけでは、男女は理性ある人間の皮を脱ぎ捨て、野生へ還ることができる。
終わったら、先程までの事が無かったかのように、料金をきっちりと抜き取って帰っていく。
ただ、アイツの場合は最後まで静かだった。
自分が何をしにここへ来たのか分からないような顔をして、始めから終わりまで俺の下でいいなりになっている。声ひとつもあげやしない。
時間きっかりにロボットのように立ち上がり、服を着て、お金を持って、さっさと出て行ってしまう。
これだけだったなら、金のみを目的に来ているヤツ…という認識のみで済んだだろう。
俺が引っかかったのはアイツの目だ。
まな板の上で死んだ鯉のような無抵抗、しかしその黒々とした目だけはずっとこちらを見つめている。
果てのない宇宙のような目。
アイツは何を考えてこちらを見ているのだろうか。
それを確かめるべく、俺はまたアイツにコールした。
何か起こる前の一瞬の静寂。
アレと似た雰囲気を感じる。
そう、何かワクワクする事が起こる、
その始まりは、いつも静かだ。
10/20/2024, 11:32:14 AM