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4/28/2024, 12:28:21 PM

時間って、振り返ってみると本当に短い。

赤ん坊のとき、それはそれはヤンチャで、小麦粉をぶちまけたり、食べ物を床にボトボト落としたり。何度もイライラして病んでしまいそうになったけど、それでも可愛さが勝ってなんとかなっていた。

幼稚園のとき、入園して一ヶ月くらいは、ずっと自分から離れるのが怖くて、先生にとっても迷惑をかけてしまった。でも、沢山友達を作って、みんなとそれなりに仲良くできていたので安心した。

小学校に入ったとき、ランドセルの色で大喧嘩になった。チューリップのような濃いピンク色にしたいと騒いでいたが、近所のショッピングモールには赤しか売っていなかった。勉強嫌いではあったが、テストで100点を取って、自慢げに見せていたのをよく覚えている。

中学生に入ると、急に筍みたいに背を伸ばした。
運動部に入ってから、忙しくてほとんど話さなくなっていた気がする。志望校に受かるために勉強する後ろ姿をドア越しに見ていた。

高校生になると、なんだか急に大人っぽくなった。
メイクを沢山練習して、見違えるほど垢抜けた姿をみて、昔のことを思い出した。


 病室で、母はそう語った。
私は社会人になり、母は末期の病気でもう長くない状態だった。だからなのか、毎日私のアルバムをずっと読み返していた。
未来が見えないから、過去を振り返っているのだろうか

真っ白な病室の中に置かれた私のアルバムは、クレヨンやマーカーでカラフルに彩られていたから、やけに目立っていた。次はもう会えないかもしれないという気持ちで焦りを感じていた私とは裏腹に、母はもう諦めたような、そんな顔でいた。

時間が短いって、母自身もそう言っていたのに、刹那ほどしか生きていない人生に後悔がないのだから、母は本当に幸せに生きていけたのだろう。


時間が短いっていうのは、私だって同じだ。
私も母のように、残され時間が刹那ほどだったとしても、後悔のないように生きたい。
 桜が散る墓に、アルバムに負けないくらい鮮やかな花束を飾りながら、私は考えた。

4/6/2024, 4:19:45 PM

君の目を見つめると、私の姿が映る

クラスのあの子は、目がとても綺麗だ。
透き通っていて、瞳孔がくっきりと見えるくらい明るい茶色。髪の毛も茶髪で、色白の、とにかく色素が薄い女の子。

うちの中学でも稀に見ないくらい明るい色だったから、ハーフだとか、外国人だとか、そんな噂もあったけど、実際仲良くなって話してみると、純日本人なのが驚きだった。
正直羨ましかった。
そんな話を彼女にすると
「でも、そのままが1番似合うと思うな」
と、目を合わせて言ってくるから、私は目を合わせられなかった。
まるで水晶みたいに透き通った瞳。
それに映る私は、彼女みたいに綺麗な色じゃなかったから。

高校生になっても、偶然私たちは同じクラスになった。
彼女は他の高校を第一希望にしていたが、落ちてしまってここに来たらしい。
でも、この学校は…。


ある日、下駄箱で靴を履き替えているときに、職員室の方から怒鳴るような声が聞こえてきた。

「嘘をつくな!どうせ染めたんだろ」

うちの学校は校則が厳しい。女子はポニーテール以外禁止、耳より高く結ぶの禁止、スカート折るの禁止、スマホ持ち込み禁止、男子はツーブロックも禁止。触覚を出すのも禁止…。
もちろん、髪の毛を染めたりカラコン、ピアスなんかもアウトだった。

「相変わらず厳しいなあ」と思いながら、その日はそのまま帰った。


次の日、彼女は変わっていた。

あんなに綺麗だった髪の毛は、ベッタリとした黒になっていて、目も真っ黒になっていた。

「どうしたの」と聞くと
「引っかかっちゃってさ、染めてなんかないんだけど」
と、悲しそうに笑っていた。
カラーコンタクトで不自然に黒くなってしまった彼女の目を見つめると、もう何も写らなくなっていた。
あの子の綺麗さは、黒に塗りつぶされてしまったようで、私は悲しくなった。

4/1/2024, 2:48:54 PM

ツンデレな幼馴染は、いつも「嫌い」と言いながら近付いてくる。
 
 「新人バイト嫌い」とか言いながら、ほぼ毎日バイト先にやってくるし。
「病弱とか嫌い」と言いながら僕が風邪で寝込んでいたときに真っ先に差し入れくれたし。

そんな幼馴染が、エイプリルフールの今日も「嫌い」と言ってきた。
「今日はエイプリルフールだから、嘘だったりして?」とからかってみたら
「じゃあ好き」と返された。
明日はまた嫌いと言われるのだろう。

3/30/2024, 1:56:40 PM

何気ないフリをして、うちの兄はいつも色々な物を盗る。
先月はプリン。今月はゲームのカセット。昨日はゲーム機一台ごと自分の部屋に持ち込んでいた。
しかも、どれだけ指摘しても
「ああ、ごめんごめん」
とだけ言って、また何事も無かったかのように物を部屋に持ち込み始めるから、父も呆れて何も言ってくれない。
いつも盗まれないように気をつけてはいるのだが、本当に気づかない隙に取られているから、これが難しい。
幸い、食べ物以外は割と綺麗に扱われていて、部屋にしっかり置いてあるからいいものの、食べ物は半分も残さず食べられてしまうものだから、僕は必ずネームペンでデカデカとした[たべるな]という字を書いておいたりして対策していた。
 そんなこんなで数年間。この食べ物とゲームの取り合いは続いていたのだが、兄が中学に入学し、僕が小学五年生になった頃には、兄は部活で殆どの時間家にいなくなり、そんな戦いも無くなっていた。

「なあなあ、お前ん家ってさ」
学校の帰り道、突然僕は大柄な上級生に絡まれた。
「母ちゃんいないんだろ?」
「は?」
突然だった。見ず知らずの上級生が、どうしてそんなことを知っているのだろうか。
「おいおい!可哀想だろ」
もう1人の上級生も、茶化すようにからかってくる。
「なんで知ってるんだよ」
上級生の集団は、僕が何かいうたびに、笑いを堪えるような真似をして繰り返した。
「なんで知ってるんだよっだってさ!」
「分かってねーのかよ、こいつ!!!」
 怖い。怖かった。
確かに僕の家は片親だし、母親は離婚か何かで僕が幼稚園に入る頃には居なくなっていた。
でも、僕はそれを特に嫌だとも思っていない。
それなのに、こいつらはまるで僕を可哀想な目で見ているのだ。
不気味と、気持ち悪さが混じったような恐怖感が襲う。
 そいつらの怒鳴るような笑い声はみぞおちを刺すような痛みがあって、僕は咄嗟に逃げ出してしまった。

「あ!待てよ!!おい!!!」

僕はそのまま、後ろを振り返らずに家に一直線で走っていった。

「おう、おかえり」
家に帰ると、兄が珍しく先に帰っていた。
野球で怪我でもしたのだろうか、腕に包帯が巻かれている。
「腕どうしたの?」
「あー、これはなあ、まあ肉離れってやつだよ」
兄は、酔い潰れた父のご飯を盛り付けながら、自慢げに部活での活躍を話していた。
「てか、なんでそんな汗かいてるんだよ?」
 一瞬、言おうか迷った。6年のやつにいじめられて、必死で走ったから、だなんて。
「いや〜。さっき鬼ごっこしてたからさ」
言えない。なぜだか分からないけど、言えそうに無かった。部活で頑張ってる兄にこんな話をしたら、馬鹿にされてしまう気がしたのだ。
「懐かしいなあ、鬼ごっことか?小学生までだぞ、楽しいのなんて」
「うるせえなあ。去年まで小学生だったくせに」
普段嫌いな兄だったが、今日はやけに優しく感じた。


「あ!あいつ連斗じゃん!」
「お〜い!!今日は逃げんなよ〜?」
「アハハハハ」
昨日の地獄は続いていた。
朝来て早々、下駄箱の前で僕を待ち伏せていたあいつらに出くわした。
「おい!無視してんじゃねぇよ」
ワントーン低い声で後ろから怒鳴りつけられる。僕は怖くて、見なかったことのようにその場を通り過ぎた。

その次の日も、僕はそいつらに出くわした。
突然声をかけられたと思ったら、教室の箒で思い切り頭を叩かれた。
 僕は何もしていない。こんなことをされるまで、この上級生たちと面識もなかった。

 それから、毎日毎日。絶えず僕は殴られるようになった。くるぶし、二の腕、手の甲と、小さな痣が増えていった。

 もう、学校に行くのが怖くなった。夜、寝付けなくなった。兄は、ずっと部活での活躍を自慢していた。

「おい!」
その日の放課後、僕は近くの公園に呼び出された。
「お前最近つまんねーんだよ」
「…」
「お前の兄ちゃんもお前も、反撃すらできないのか」
「兄ちゃんが…?」
どうして僕がこんな目に遭っているのか、なんとなく分かった気がした。
「お前の兄ちゃん、俺の兄ちゃんが出るはずだった選抜奪いやがって!」
「…は?」
衝撃だった。いつも試合での活躍を自慢していた兄も、いじめられていたのだろうか。
「片親のくせに!」
そう上級生が言ったとき、その後ろで鈍い音がした。
兄が、包帯で包まれた腕で上級生にげんこつをかましていた。
「うわっ!」
反撃に驚いた上級生たちは、ごちゃごちゃになって逃げていった。

「やっぱり…ごめんな」
兄と2人だけになった公園で、兄はぽつりと呟いた。

「本当は何気なくやり過ごそうとしたんだけどさあ」
「お前までいじめられるとは思ってなかったんだよ」

兄は、野球で選抜メンバーに選ばれた。だが、それを妬んだ同級生によって嫌がらせが始まったらしい。そしてその同級生の弟、さっきの上級生達も影響を受けて僕をいじめたのだろう。

兄は、何気ないふりをして、悩み一つ僕に打ち明けなかったのか。プリンのときは憎たらしかったその性格が、なぜかすごく強く思えた。でも、もっと頼ってくれてもよかった。僕も助けになりたかった。

「父ちゃんには俺が伝えとくからさ、明日は休んでいいよ」
「俺も明日休んで、気晴らしに焼肉でも行こうぜ」

兄は、そう言って肩を組んできた。


「ねえ、僕のプリンまた勝手に食べた?」

「え?知らないなあ」

「部屋に置いてあったよ」

「勝手に部屋に入んなよ」

「まあ、あれ【食べていいよ】って書いてたんだけど」

「え?そうなの?」

でも、本当に何気ないんじゃなくて、気付いてないこともあるのかもしれない。




3/29/2024, 3:07:01 PM

「ハッピーエンドだね。」


入学式のあの日。
中学生を卒業し、殆どの幼馴染と別の高校に行った私は。期待と不安でいっぱいだった。

そんなとき、あの子は声をかけてくれた。
【愛香】という名前の通り、笑顔が可愛い愛らしい女の子だった。
愛香とは三年間、同じクラスだったことも相まって、親友のような関係になっていた。
帰るのも一緒、お弁当も一緒、バックのキーホルダーは、お揃いの色違い。

愛香は忘れ物が多いから、私が助ける。
私は声をかけるのが苦手だから、愛香がみんなとの仲介をしてくれる。

お互い得意なことや好きなことが違ったけど、その違いを探し合うのも楽しかった。



3年生の夏、私はいつものように学校までの道のりを愛香と話しながら歩いていた。

「ねえ、君たちかわいいね!」
「どこ通ってんの?桜高?」
目に見えてチャラい二人組の男が、いきなり前に現れた。両耳に何個もピアスをつけて、根本が黒ずんだ汚い金髪のそいつらは、戸惑う愛香に絡み、ずっとその場を離れなかった。
「あの…!!!」
勇気を振り絞って声を出そうとしたそのときだった。
「やめて下さい。警察呼びますよ」
突然、近くにいた背の高い青年が割って入ってきた。
「…なんだよ」
周りからの視線を向けられた男達は、名残惜しそうな顔でそのまま何処かへ行った。

「愛香じゃん、大丈夫だった?」
青年は、制服を着ていなかったから気づかなかったが、違うクラスの竹内だった。
「あ!ううん。何もされてないよ」
まるで少女漫画みたいな展開だった。
愛香と竹内は、私を置いてけぼりにして、そのままずっと話し続けていた。

「まさか竹内が来るなんて思わなかったよ〜」
「あいつさ〜服結構オシャレだね!」

愛香との距離を感じるようになったのは、その日からだった。
 帰りもお弁当も、すぐ何処かへ行ってしまうし、キーホルダーは竹内が好きなマスコットをつけるようになっていた。
 入学式からルーティンのように定まっていた行動が、段々と崩れて行った。
 嬉しそうに竹内の話をする愛香に、嫌なモヤモヤが溜まって行った。
自分でも分からなかった。愛香が彼のことが好きだって別にいいのに、友達の恋すらも応援できない自分に。

 そうして3週間、私はモヤモヤを抱えながら過ごしていた。
でも、今日は喜ぶのもなんだが竹内が休みだったから、久しぶりに一緒にお弁当を食べられることになった。
正直、それを聞いたとき嬉しくてたまらなかった。
久しぶりに、お弁当の卵焼きを交換したいな、愛香が好きそうな水筒で好きなジュースを入れて行きたいな。
そう思って今朝、いつもより張り切って準備をした。
なんだか、いつもより前髪も調子が良かった。
でも、調子が良かったのは朝だけだった。


「聞いて!この前竹内とさ〜!」
ダメだった。
久しぶりにお弁当を一緒に食べれたことに喜ぶ私と裏腹に、愛香はずっと竹内の話をしている。
せっかく作った卵焼きに目もくれず、愛香は先に完食してずっと惚気話しかしていない。
仕方ないのだろうか、恋は盲目というし。

「ミカはさ、好きな人とかいるの?」
「いないよ」
「え〜!好きな人がいるとめっちゃ楽しいよ!」
好きな人、やっぱり愛香は彼が好きなんだ。
ああ、モヤモヤする。なぜだか分からない。私も竹内が好きなのか?私は嫉妬しているのか?
でも、私は親友なんだから、応援しないとだ。
「こんどさ、ミカが好きそうな子紹介するよ!」

このとき、私の中で何かが切れてしまった。

「愛香さ、最近いつも竹内の話ばっかだよね」
今まで我慢していたものが、全部煙のようになって出ていく気がした。
「え?」
「私、今日一緒にお弁当食べれるの、ずっと楽しみにしてたのに」
まるで自分で喋っていないようだった。愛香に怒るのは初めてだったから。
「いっつも惚気話ばかりで、本当にモヤモヤするの!」
「ミカ…?」
止まらない。なぜだか止まれない。
「帰るときも、おそろいもやめてさ!?今こうやってお弁当食べてるときも!!!」
「竹内竹内竹内って!!」
「ミカが竹内のことを話してると、私すごく嫌な気持ちになるの!」
「自分でも酷いと思った。言えなかったけど、本当に嫌なの!!」
「今一緒にいるのは私なのに、どうしていない人の話をするの?」
「どうして私のことを見てくれないの?」


「私は愛香が好きなのに!!!!!!」
 言ってしまった。
愛香は私を気味悪そうな目で見ていた。
ああ、どうして。
どうして言ってしまったんだろう。
最初、誤解していた。
クラスでもモテている竹内といい関係になっている愛香に、嫉妬していたんだと思っていた。
でも、私の本心は違った。
私は愛香が、恋愛的に好きだったのだ。
私というのがいるのに、愛香はまるで私のことを見てくれない。それなのにパッと出の竹内に惚れている。
モヤモヤの正体が晴れて、少し清々しい気分だった。
でも、あたりの空気は最悪だった。
近くでお弁当を食べていたグループは、みんな私を見ていた。
「ごめん……」
「…無理」
愛香はそう言って、教室を出て行った。
私はどうしていいか分からず、その場で立ち尽くしていた。
本当に最低なことをしてしまった。
そうして、放心状態の中放課後まで過ごした後、準備室を横切ると、愛香と竹内が2人で話しているのが聞こえた。
「ミカの気持ちに答えた方がいいのかな…」
「愛香は悪くないよ。今度何かあったら、俺が守ってやるから」
「え…!」
「俺、愛香のことが好きだから」


 愛香と竹内が付き合った。
その話は、学校全体に広まった。
モテモテの竹内と、人気者の愛香。
2人の恋愛は、少女漫画のハッピーエンドみたいだと言われていた。
私と違って、竹内は勇気を出して愛香を守っているし、
出会いも運命みたいだ。
気持ちの整理がついて、私は今応援する気持ちでいっぱいだ。
もう親友でもなんでもなくなってしまったけど、自分を納得させるためにもハッピーエンドだと思っている。






 



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