NoName

Open App

「ハッピーエンドだね。」


入学式のあの日。
中学生を卒業し、殆どの幼馴染と別の高校に行った私は。期待と不安でいっぱいだった。

そんなとき、あの子は声をかけてくれた。
【愛香】という名前の通り、笑顔が可愛い愛らしい女の子だった。
愛香とは三年間、同じクラスだったことも相まって、親友のような関係になっていた。
帰るのも一緒、お弁当も一緒、バックのキーホルダーは、お揃いの色違い。

愛香は忘れ物が多いから、私が助ける。
私は声をかけるのが苦手だから、愛香がみんなとの仲介をしてくれる。

お互い得意なことや好きなことが違ったけど、その違いを探し合うのも楽しかった。



3年生の夏、私はいつものように学校までの道のりを愛香と話しながら歩いていた。

「ねえ、君たちかわいいね!」
「どこ通ってんの?桜高?」
目に見えてチャラい二人組の男が、いきなり前に現れた。両耳に何個もピアスをつけて、根本が黒ずんだ汚い金髪のそいつらは、戸惑う愛香に絡み、ずっとその場を離れなかった。
「あの…!!!」
勇気を振り絞って声を出そうとしたそのときだった。
「やめて下さい。警察呼びますよ」
突然、近くにいた背の高い青年が割って入ってきた。
「…なんだよ」
周りからの視線を向けられた男達は、名残惜しそうな顔でそのまま何処かへ行った。

「愛香じゃん、大丈夫だった?」
青年は、制服を着ていなかったから気づかなかったが、違うクラスの竹内だった。
「あ!ううん。何もされてないよ」
まるで少女漫画みたいな展開だった。
愛香と竹内は、私を置いてけぼりにして、そのままずっと話し続けていた。

「まさか竹内が来るなんて思わなかったよ〜」
「あいつさ〜服結構オシャレだね!」

愛香との距離を感じるようになったのは、その日からだった。
 帰りもお弁当も、すぐ何処かへ行ってしまうし、キーホルダーは竹内が好きなマスコットをつけるようになっていた。
 入学式からルーティンのように定まっていた行動が、段々と崩れて行った。
 嬉しそうに竹内の話をする愛香に、嫌なモヤモヤが溜まって行った。
自分でも分からなかった。愛香が彼のことが好きだって別にいいのに、友達の恋すらも応援できない自分に。

 そうして3週間、私はモヤモヤを抱えながら過ごしていた。
でも、今日は喜ぶのもなんだが竹内が休みだったから、久しぶりに一緒にお弁当を食べられることになった。
正直、それを聞いたとき嬉しくてたまらなかった。
久しぶりに、お弁当の卵焼きを交換したいな、愛香が好きそうな水筒で好きなジュースを入れて行きたいな。
そう思って今朝、いつもより張り切って準備をした。
なんだか、いつもより前髪も調子が良かった。
でも、調子が良かったのは朝だけだった。


「聞いて!この前竹内とさ〜!」
ダメだった。
久しぶりにお弁当を一緒に食べれたことに喜ぶ私と裏腹に、愛香はずっと竹内の話をしている。
せっかく作った卵焼きに目もくれず、愛香は先に完食してずっと惚気話しかしていない。
仕方ないのだろうか、恋は盲目というし。

「ミカはさ、好きな人とかいるの?」
「いないよ」
「え〜!好きな人がいるとめっちゃ楽しいよ!」
好きな人、やっぱり愛香は彼が好きなんだ。
ああ、モヤモヤする。なぜだか分からない。私も竹内が好きなのか?私は嫉妬しているのか?
でも、私は親友なんだから、応援しないとだ。
「こんどさ、ミカが好きそうな子紹介するよ!」

このとき、私の中で何かが切れてしまった。

「愛香さ、最近いつも竹内の話ばっかだよね」
今まで我慢していたものが、全部煙のようになって出ていく気がした。
「え?」
「私、今日一緒にお弁当食べれるの、ずっと楽しみにしてたのに」
まるで自分で喋っていないようだった。愛香に怒るのは初めてだったから。
「いっつも惚気話ばかりで、本当にモヤモヤするの!」
「ミカ…?」
止まらない。なぜだか止まれない。
「帰るときも、おそろいもやめてさ!?今こうやってお弁当食べてるときも!!!」
「竹内竹内竹内って!!」
「ミカが竹内のことを話してると、私すごく嫌な気持ちになるの!」
「自分でも酷いと思った。言えなかったけど、本当に嫌なの!!」
「今一緒にいるのは私なのに、どうしていない人の話をするの?」
「どうして私のことを見てくれないの?」


「私は愛香が好きなのに!!!!!!」
 言ってしまった。
愛香は私を気味悪そうな目で見ていた。
ああ、どうして。
どうして言ってしまったんだろう。
最初、誤解していた。
クラスでもモテている竹内といい関係になっている愛香に、嫉妬していたんだと思っていた。
でも、私の本心は違った。
私は愛香が、恋愛的に好きだったのだ。
私というのがいるのに、愛香はまるで私のことを見てくれない。それなのにパッと出の竹内に惚れている。
モヤモヤの正体が晴れて、少し清々しい気分だった。
でも、あたりの空気は最悪だった。
近くでお弁当を食べていたグループは、みんな私を見ていた。
「ごめん……」
「…無理」
愛香はそう言って、教室を出て行った。
私はどうしていいか分からず、その場で立ち尽くしていた。
本当に最低なことをしてしまった。
そうして、放心状態の中放課後まで過ごした後、準備室を横切ると、愛香と竹内が2人で話しているのが聞こえた。
「ミカの気持ちに答えた方がいいのかな…」
「愛香は悪くないよ。今度何かあったら、俺が守ってやるから」
「え…!」
「俺、愛香のことが好きだから」


 愛香と竹内が付き合った。
その話は、学校全体に広まった。
モテモテの竹内と、人気者の愛香。
2人の恋愛は、少女漫画のハッピーエンドみたいだと言われていた。
私と違って、竹内は勇気を出して愛香を守っているし、
出会いも運命みたいだ。
気持ちの整理がついて、私は今応援する気持ちでいっぱいだ。
もう親友でもなんでもなくなってしまったけど、自分を納得させるためにもハッピーエンドだと思っている。






 



3/29/2024, 3:07:01 PM