「本当にどういうつもりなのかしら」
「だって、いつも私の邪魔をしてくるのよ」
そうぼやく貴女は、いつもどこか楽しそうだった
端から見れば恋人への愚痴に聞こえるが
それがただの惚気であることを私は知っていた
結婚式はいつになるのだろう
貴女の話を聞きながら、毎回そんな風に考えていた
だから、彼の訃報が届いたとき
それが現実であると信じたくなかった
月のない夜、貴女は私を呼び出して
隣に座って、ただ夜空を眺めていた
「あの人はどこまでも私を苦しめるのね」
静かに呟く貴女は泣いていた
貴女の左手の薬指には
眩いほどに輝く綺麗な指輪がはめられていた
貴女は人間で、私とは何もかもが違う
それでも貴女は私を怖がったりしないで
ずっと側にいて、仲良くしてくれた
初めて会った日から、もう何年経っただろう
私より少しだけ高かった背も小さくなって
あの頃のような元気もなくなってしまった
ここ最近はずっと寝たきりで
もう歩くこともできなくなったのね
こんな日が来ることはわかっていた
だって、貴女の寿命は私よりずっと短い
いつかはいなくなってしまうんだって
でも、それが今である必要はないでしょう?
永遠なんて、ないけれど
もう少しだけ、貴女と過ごす時間がほしいの
あの日、優しく微笑みかけてくれた貴女の温かさを
何千年先も、ずっと覚えていたいから
本当に幸せな日だった
素敵なドレスで舞踏会に参加して
王子様と踊ることができたのだから
これからどんなに虐げられて
見下されて、ボロボロになっても
今日という日を思い出すだけで
きっと希望を持って生きていける
私は魔法のような一時に別れを告げて
城から飛び出して必死に走った
時計の針が重なって鐘が時を知らせる
私にかけられた魔法は徐々に解けて
夢から覚めたように全てが消えていく
やっとの思いで屋敷に辿り着いた時
私は片方の靴を落としたことに気がついた
曇天が覆う世界の隅で
最期の考え事をする
思えば、待ちぼうけの人生だった
誰にも愛されず
誰からも認められない
誰も来ないとわかっていながら
私を迎えに来る誰かのことを
ずっとずっと待っている
でも、これでもうお終いなのね
幸せにはなれなかったけれど
もう終わりで構わない
視界は次第に暗くなっていく
強い眠気に身を委ね、目を閉じる
結局、私を迎えに来てくれたのは
涙と永遠の眠りだけだった
雨の降る街の中、私たちはカフェにいた
話を聞いてほしかった
何も気づかないフリをして
愛をくれた人を邪険にして失ったことを
どうすれば、またあの人に会えるでしょうか
私がそう話すと、貴女は静かに呟いた
虹の架け橋を渡ると、大切な人に会えるのだと
そんなことできるわけがないと返すと
貴女は窓の外を見て、ただ悲しげに笑った
「そう、虹を渡ることはできない」
「失ったものは、もう二度と戻らない」
心が締め付けられるように痛くなった
雨は止むことなく酷くなっていく
本当はずっとわかっていた
後悔するには遅すぎたのだと
今さら何を願ったところで叶わないんだって