あの人は誰にも興味を抱かなかった
けれど悲劇の人にだけは目を向けていた
あの人に恋焦がれていた貴女は
ずっと隣に立つことを望んで
運命を代償に願いを叶えた
貴女は幸せなのだろうか
あの人の愛を手に入れるために
自身の運命を破壊して
たとえ愛する人を手に入れても
それを幸せと言えるのだろうか
顔も名前も知らない貴方のことを
もっと知りたいと願ってしまった
馬鹿だよね
知ろうとすれば、貴方のこと
失ってしまうってわかってたのに
気高き太陽の光に照らされた大空の下
広大な大地を彩るように聳え立つ花の王国には
常に美しい花々と活気のある笑い声が満ちていた
我が国はこんな暖かさに包まれながら
この先何百年、何千年先と続いていくに違いない
誰もがそう思っていたことだろう
しかし、そんな平穏な日常は
天を覆う厚い雲によって途絶えることになる
辺りは猛吹雪に飲まれ、大地は白銀に染まっていった
花も人々も全てが凍り
ついに世界は静寂に包まれてしまった
それから何千年と経った今も
王国の時は氷晶によって止められたままだ
いつか、この先の未来で
彼の地に春が訪れる日は来るだろうか
貴女は何に対しても感情移入をする
時々本当に心配になってしまうくらいに
その心は哀しみにばかり目を向けて
笑顔を見せることはほとんどない
たまには誰かの心ではなく
自分自身に目を向けて
そう言いたくなるけれど
そんな私の哀願にすら
貴女の心は擦り減ってしまうのだろうか
幻想的な木漏れ日の中であの子は本を読んでいる
その姿は女神のように美しくて
目を離したら消えてしまいそうで怖かった
「またあの子を見ているのか」
背後から声がして振り向くと
そこには私の友人が立っていた
「心配せずとも消えたりしない。君が触れぬ限り」
その言葉に息が詰まる
「ああ、わかっているよ。だってあの子は」
花だ、と言いかけて口を噤む
涙など出ないのに、目の奥が熱くなって声が震えた
貴方は少しの沈黙の後、視線を落として呟いた
「あの子は花の精で、そして君は火の民だ」
言いたくも聞きたくもない事実だ
私はあの子に近づくこともできない
あの子は花で、私は炎で
それなのにどうして私は
あの子に恋をしてしまったのだろう
私も貴方のようになりたかった
貴方のように命を生かす水の神官に
私が貴方やあの子のようであれば
こんな時に涙が出るのだろうか
「貴方に触れれば、私は消えてしまえるのか?」
呟くと、貴方は呆れたように笑った
「これが勇猛果敢で力強い火の民とは思えない」
それから私の目をまっすぐに見つめて続けた
「じきに冬が来る。冬になれば皆凍えてしまう
春を待つ間、君はたった一つの希望だ」
そう言うと貴方はあの子の元へ歩み寄って行った
木漏れ日に照らされた二人は笑い合っている
私はそれを遠くで見ていた
貴方もあの子も私の大切な友人で
けれど、決して触れることのできない存在
それでも私が小さな灯火になれるなら
私はきっと、誰にも触れられぬままでいい