Lacryma

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11/20/2024, 6:51:44 AM

月の光が射し込む小さな教会で

女神の姿を象ったキャンドルを祭壇に置いた

あぁ、女神様

貴女が溶けて消えるとき

私の信仰心も燃え尽きるのです

こんな、人々の想像を形にしただけの偶像に

存在するかもわからない貴女に

恋をした私をどうか、許してください

これで貴女への想いに終止符を打つから

貴女が本当に存在するというのなら

どうか最後に、私の前に姿を現して

なんて、こんな馬鹿なこと

身勝手な自分がひどく滑稽で笑えてしまう

私は、貴女の存在すら信じきれていないのに

11/19/2024, 8:41:28 AM

この日記には、たくさんの想い出が綴られている

二度と戻ることのない過去の記憶が

やり直すことのできない後悔が

燃やしてしまえ

こんなものを思い出して、哀愁に囚われるくらいなら

未来を阻む鎖になってしまうくらいなら

11/17/2024, 1:21:36 AM

「昔々、遠い過去のお話さ
それはまだ、神と人が共存していた頃の物語だ」
私たち以外には誰もいない
夕日の射し込む静かな図書館で
何も書かれていない本を読みながら
貴方は静かに話し始めた


天を彷徨う雲の上で、悪魔と天使が恋をした
まるで運命に導かれたかのように
互いをひと目見た瞬間
枯れた心臓に一輪の花が咲いた気持ちになった

それから彼らは密かに会うようになった
闇が世界を覆い隠す新月の夜だけに
白く小さな花を一輪だけ贈り合って
言葉にできぬ想いを告げた

けれど、そんな日々は長くは続かなかった
何回目かの密会で二人の秘密が知られてしまった
月が彼らを裏切ったのだ
二つの種族は怒り狂い、長き激戦の末に

女神は同族にその命を奪われ
悪魔は永遠の呪いを掛けられた

悪魔は死を望んだ
悠久の時を独りで生きるだけでなく
長い時を経て愛した者の記憶が徐々に奪われていく
彼は責め苦に耐えかね、命を終わらせてくれと頼んだが
彼の願いはついぞ叶うことはなかった


そこまで話して、彼は白紙の本を閉じた
私は二人の悲しい終わりに
しばらく何も言うことができなかった

「彼らをハッピーエンドにしてあげられないの?」
沈黙の末、私は彼に聞いた

すると、彼は少し悲しい顔をして答えた
「彼らはきっと、何度やり直したとしても
ハッピーエンドにはなれなかったと思うよ」


許されぬ恋をした悪魔と天使はきっと
いつか報いを受けるとわかっていても
互いの笑顔を見ずにはいられなかったのだろう
いつか、永遠にはなればなれになったとしても


貴方は窓から空を見上げている
その瞳には悲しみと後悔が溢れているようで
もしかして、その悪魔は貴方なの?
なんて
そんな愚かで残酷な質問をすることはできなかった

11/12/2024, 9:50:57 AM

もし、もし願いが叶うのならば

私も皆と同じように

雲から溢れる美しい光の合間を縫って

爽涼たる風をこの身に受けながら

翼を大きく広げて自由に飛んでみたい

私の折れ爛れた飛べない翼では

そんな願いは、決して叶わないけれど

11/9/2024, 1:09:39 PM

ずっと、彼らの舞台に憧れていた
この町に時折訪れる劇団の、喜劇の舞台に
いつの頃からか、ある夢を抱くようになった
私も、彼らの物語の一人になりたいと
その頃から一人、演劇の練習をして
次に彼らが訪れた時、座長に話をするつもりだった


「三日後に、最後の舞台が公演される」
その知らせを受けたのは突然のことだった
最後って、なんのこと?
一瞬の内に頭が真っ白になって
私はその理由を聞くことができなかった


三日後、知らせ通りに最後の舞台が公演された
いつもと何も変わらない、喜劇の舞台
でも、私にとっては…
公演が終わり、観客が誰もいなくなった後も
私はずっと動けないでいた
この席を立ったら、物語が終わってしまう気がして


しばらくそうしていると、舞台から声がした
「やぁ、お客さん、暗い顔をしてどうしたんだい?」
見上げると、座長が私に声をかけてきていた
私は何も言えなかった
何を言おうとしても、涙が零れそうで


「最後の物語は、貴女に」
ふいに座長がそう言った
私は顔をあげ、彼を見た
「私たちの物語はいつだって幸せな喜劇だった」
スポットライトを浴びている彼は、優しく笑う
「貴女が笑ってくれないと、結末を向かえられない
私たちの物語を、笑顔で終わらせてくれるかい?」

その言葉を聞いた瞬間、私は無意識に頷いていた
今までの喜劇を脳裏に浮かべながら
私は席を立ち、笑顔を作って彼らに拍手を送った

「これにて終幕、長い間、誠にありがとうございました」
座長は私に恭しく礼をする
幕が降り、彼ら劇団の終わりを告げる
カーテンコールの時間はない
視界がぼやけて、もうろくに前も観れないけれど
それでも私はずっと、笑顔で拍手を送り続けた

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