花鈴

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8/20/2024, 12:55:55 PM

「さようなら」と元気に挨拶をして、みんな笑顔で帰っていった。

土日を挟んで翌月曜日
〖1995年1月17日〗
阪神淡路大震災が幼稚園を、私の家を、子ども達の家を襲った。

家が崩れて道を塞ぎ、なんとか園にたどり着き、子ども達の家を安否確認のために一件一件回った。殆どが留守で『小学校に避難しています』『大阪の親戚の家にしばらく避難します』という貼り紙があると、とりあえず命は助かったと安堵する。倒壊した家屋の前で呆然と立ち尽くす。避難先となっている小学校や中学校へ走る。
そんな生活を2週間ほど続けぼろぼろになった私達に残酷な知らせが届き始めた。怖く痛く悔しい思いをしながら亡くなったのであろう小さな命。


それでも私達は生きて行かなくてはならず、命の助かった者として懸命に動き、なんとか園の中を整え、半分を避難所にあて、半分で通える子ども達だけ保育を始めた。せめて、幼稚園に来てる時間だけは、安心して楽しめるように。明日を楽しみに出きるように。

「明日も一緒に遊びましょう。
さようなら」祈りを込めて
そう言って見送った。

だから今でも私はさようならを言う前に必ず『また会いましょう』を言うようにしている。祈りが届くように。






#さようならを言う前に

8/19/2024, 11:27:54 AM

「いらっしゃいませ。今日は何をお作りしましょうか?」
小さなアパートの小さな一室を借りて、洋裁店を営んでいる。
「さて、では店の前に出ましょうか。どの辺りを切り取りましょうか?」
私の店で扱う生地は全て、空を見上げてお客様が一番好きな部分を切り取ったもの。専用の鉛筆でお客様が線で囲むと、ふわりと手元に届く仕様になっている。驚く方もいるが、雨模様で仕上げることもできる。

本日のお客様は、9月に遅めの夏休みで信州へ旅行に出かけるという30代の女性。動きやすく、且つ初秋のノスタルジックなニュアンスのあるパンツスーツを仕立てて欲しいと言うことで、夕方に来店された。
しばらく夕焼け空を見ながら「どこもきれいだから迷っちゃうわね。オレンジ色の雲は絶対入れたいの」と言い、
大きく鉛筆を走らせた。
ほどなく、ふんわり湿気を含んだ空模様の生地を手にすると「ああ、夏の思い出がしっかり詰まってるわ。よろしくお願いします」と言い、私生地を託した。
「では、金曜日の夕方までには仮縫いをしておきますので、お時間のある時にお立ち寄り下さいね」と、生地を受け取り私はお客様を見送った。

ついこの間まで、ほとんど夏色の空模様だったが、これからの季節は空の移ろいが目まぐるしい。半袖から長袖に代わり、生地も厚みが出て、この小さな洋裁店にも秋が訪れるのだ。

『あなたの好きな空模様で
お気に入りの服をお仕立てします

空色洋裁店』




#空模様

8/18/2024, 12:29:28 PM

拙い文字を書けるようになった頃、
ただ書くことが楽しかった。けれども、どうしたことか、『め』と『ぬ』だけは、長い間、上手く書けなかった。何度書いても反転してしまう。
自分でも書いてから「まちがっている」事には気づくのだけど、書き始めや途中ではきづかなかったのだ。

反転した文字を母に見せ「またへんになった」と見せると、「鏡文字ね。来てごらん」と言い、母の鏡台に私の書いた文字を映した。「見てごらん」と、母に言われ鏡を見ると、『め』も『ぬ』も正しく「まほう!まほう!」と、喜んで他の文字も写して見た。
他の文字は見たことのあるようなないような可笑しな事になっていた。

それからしばらく、失敗しては鏡に映して遊んでいたが、いつの間にかどちらも間違わずに書ける様になっていた。

幼い子の書いた文字の中に鏡文字を見つけると、今でもあの風景がよみがえる。

#鏡

8/17/2024, 12:41:08 PM

テレビを捨てた
車を捨てた
着ることのない服と
使うことのない物を捨てた
プライドも捨てた

ただ
夢だけは持ち続けたい




#いつまでも捨てられないもの

8/16/2024, 12:19:52 PM

幼い頃、息子は人見知りで、よく私の後ろに隠れていた。小学生になってからはそんなこともなくなっていったけど、参観日などで発表する時には緊張した顔で、小さな声で答えていた。

大学生になってから幾つかアルバイトをしたが、接客は苦手だからと、裏方の仕事ばかりしていたが、夏休みからガソリンスタンドへ行き始めた。何も言わずに続いていたので、大丈夫ではあるのだろうけど、内心、ちゃんと挨拶できているのだろうかと気になっていて、ある日、こっそり様子を見に行った。

そこには大きな声で挨拶をし、きびきびと動く笑顔の息子の姿があつた。店の先まで見送り深々と頭を下げ、元気な声で「ありがとうございました」という姿は誇らしく、心の中で「かっこいいぞ」と、呟いた。

家庭だけでなく、学校や地域、社会で様々な人と関わりながらこの子はこうして成長することができたのだなと、感謝の気持ちでいっぱいになり、同時に、子育てをしながら私も沢山の事を学ばせてもらったなと涙が滲んだ。




#誇らしさ

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