「いらっしゃいませ。今日は何をお作りしましょうか?」
小さなアパートの小さな一室を借りて、洋裁店を営んでいる。
「さて、では店の前に出ましょうか。どの辺りを切り取りましょうか?」
私の店で扱う生地は全て、空を見上げてお客様が一番好きな部分を切り取ったもの。専用の鉛筆でお客様が線で囲むと、ふわりと手元に届く仕様になっている。驚く方もいるが、雨模様で仕上げることもできる。
本日のお客様は、9月に遅めの夏休みで信州へ旅行に出かけるという30代の女性。動きやすく、且つ初秋のノスタルジックなニュアンスのあるパンツスーツを仕立てて欲しいと言うことで、夕方に来店された。
しばらく夕焼け空を見ながら「どこもきれいだから迷っちゃうわね。オレンジ色の雲は絶対入れたいの」と言い、
大きく鉛筆を走らせた。
ほどなく、ふんわり湿気を含んだ空模様の生地を手にすると「ああ、夏の思い出がしっかり詰まってるわ。よろしくお願いします」と言い、私生地を託した。
「では、金曜日の夕方までには仮縫いをしておきますので、お時間のある時にお立ち寄り下さいね」と、生地を受け取り私はお客様を見送った。
ついこの間まで、ほとんど夏色の空模様だったが、これからの季節は空の移ろいが目まぐるしい。半袖から長袖に代わり、生地も厚みが出て、この小さな洋裁店にも秋が訪れるのだ。
『あなたの好きな空模様で
お気に入りの服をお仕立てします
空色洋裁店』
#空模様
8/19/2024, 11:27:54 AM