拙い文字を書けるようになった頃、
ただ書くことが楽しかった。けれども、どうしたことか、『め』と『ぬ』だけは、長い間、上手く書けなかった。何度書いても反転してしまう。
自分でも書いてから「まちがっている」事には気づくのだけど、書き始めや途中ではきづかなかったのだ。
反転した文字を母に見せ「またへんになった」と見せると、「鏡文字ね。来てごらん」と言い、母の鏡台に私の書いた文字を映した。「見てごらん」と、母に言われ鏡を見ると、『め』も『ぬ』も正しく「まほう!まほう!」と、喜んで他の文字も写して見た。
他の文字は見たことのあるようなないような可笑しな事になっていた。
それからしばらく、失敗しては鏡に映して遊んでいたが、いつの間にかどちらも間違わずに書ける様になっていた。
幼い子の書いた文字の中に鏡文字を見つけると、今でもあの風景がよみがえる。
#鏡
8/18/2024, 12:29:28 PM