初恋の日
春の、嵐のような人だった。
あたたかくて、でもとても強い風をたちこめて、一瞬にして周りを魅了する。みんなが君の虜になる。
春が、良く似合う人だった。
君の笑顔が好きだ。目を細めて笑うとぷっくりと涙袋が主張される、その顔がたまらなく大好きだ。
ねむたげな君の横顔に、いつまでも魅了されていた。君の一挙一動に心臓が握られていた。
君に出会うことが必然なら、この運命を僕は一生愛し尽くすだろう。大好きなんて言葉じゃ足りないくらいの愛を、なんとか君に伝える方法、授業中にたくさん考えたんだ――いつか聞いてくれるかい?
桜並木のこの道を並んで歩いて帰りたい。君の横顔を、今度は隣で見つめたい。
君が巻き起こす春の嵐で、僕を連れ去って。
楽園
もう手の届かない君へ、手紙を宛てた。
――ねえ、そっちは幸せに暮らせてる? 君から見える景色はどんなもの? お花畑? それとも真っ白な雲の上?
聞きたいことが多すぎて、便箋の数は4枚にわたった。
僕がいる世界よりも、そっちはずっとあたたかいのかな。君が元気に暮らせているといいな。
となりに僕がいることができないのは残念だけれど。
――ねえ、そっちにいる人達はみんな優しいのかな。
生前、たくさんの苦労をしてきたんだ。みんなが君のことを褒め讃えてくれたらいいね。
君の苦労や葛藤、困難も全部全部、僕だけは知っていたから。君が頑張って生きていたところ、毎日見ていたよ。
そこが君にとっての楽園だったらいいな。
これまで生きていてくれて、ありがとう。僕の人生に変化を与えたのは、まぎれもなく君だよ。
きっと辛かっただろうに、僕の前では笑顔を絶やさなかった。そんな君が愛おしくて、本当は離したくなかった。
開け放たれた窓から、白い鳩が飛び立った。どこまでも広がる青空へ消えていく。脚にくくった手紙が、無事君のもとへ届きますように。
今度こそ君が、いつまでも幸せでいられますように。
微熱
君がそばにいると、なんだかわたしは変になる。
かすかな熱が体内を駆け巡った。やがて落ち着くと、じんわり広がり溶けていく。木漏れ日に照らされ、心地良さげにまどろむ君から、目が離せない。
君がそばにいると、いつもわたしは熱をだす。
頬に耳元、首筋までもを赤く染めあげる。林檎みたいになったわたしを、ふふっと笑って撫でてくれた。君は涼しい顔をしているのに、わたしだけなんてずるいよ。
この熱に、君も侵食されちゃえばいいのに。ずっと一緒にいたいから、はやくふたりで溶けちゃいたい。
落下
落ちていく。
深淵に吸い込まれるように、辺りいちめんの闇に飲み込まれるように、黒に侵食されていくように、落ちていく。
今の時間も、左も右も分からない空間のなか。決して動かない身体が、下へ下へと落ちていく。
まだ光は見えない。けれどきっと君は近くにいて、僕を待ってる。信じているよ。
僕たちを繋ぐその糸は、まだ切れていないはずなんだ。きっともうすぐ、辿りつくはずなんだ。
啜り泣く君の声が聞こえてきて、僕は早くその涙を拭ってあげたいと思った。
今度こそ離さないって、伝えたいと思った。
君のもとへ落ちてきたら、全力で抱きしめてね。
My Heart
桜の木の下に埋まっている。
わたしのココロはそこにある。
桜の木の下で、君に想いを告げた。
君は笑って、わたしを地面へ押し倒した。
どうしてか、君はわたしに土を被せていた。
春は、わたしにだけ来なかった。
わたしのココロを、土越しに誰かが踏みしめて
「はいチーズ」という声の後にシャッター音が鳴る。
きっとここは一面、春景色。
桜の木の下で眠る、わたしのココロ。
出会いと別れの春の下で、静かに、静かに眠っている。