惰眠

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落下

 落ちていく。
 深淵に吸い込まれるように、辺りいちめんの闇に飲み込まれるように、黒に侵食されていくように、落ちていく。

 今の時間も、左も右も、なにも分からない空間のなか。
ただ決して動かないこの身体が、下へ、下へと落ちていく。
 まだ光は見えない。
 けれどきっと君は近くにいて、僕を待っている。信じているよ。

 地獄の底で嘆く君を、天上へ連れて行ってあげる。
 君と僕が、今度こそ幸せになれる場所。
 君と僕が、今度こそ愛を誓える場所。
 君と僕が、今度こそ生涯を共にできる場所。
 だから、まだ待っていてね。

 ――駄目。僕が隣にいないからって泣かないで。
 僕たちを繋ぐその糸は、まだ切れていないはずなんだ。きっともうすぐ、辿りつくはずなんだ。

 啜り泣く君の声が聞こえてきて、僕は早くその涙を拭ってあげたいと思った。
 今度こそ離さないって、伝えたいと思った。
 君のもとへ落ちてきたら、全力で抱きしめてね。

6/18/2023, 4:50:34 PM