非魔人対策本部

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9/7/2024, 6:31:36 AM

お題 「時を告げる」

「余命1日です」
その日私は風邪のような症状で親友の拓郎に教えてもらった病院に訪れていた。そして検査してもらった結果そう言われたのだ。そんなわけないだろ。熱もせいぜい38度程度一般的な風邪で薬だけをもらう予定だったのになんてことだ。 
「本当なんですか?」
「はい」
「明日死ぬんですか?」
「はい」
医師がどこか冷たい。その後もしばらく質問を続けた。
病室を出るとそこには拓郎の母が思い詰めた様子で座っていた。現実を受け入れることができないまま私は気にせず病院をあとにした。

病院からの帰り道私は泣いていた。自分が死ぬことを納得はできないが理解はできてしまった。私は明日死ぬようだ。「とりあえず家族に連絡」と思ったが明日死ぬなんてどう伝えればいいのか。そんなことを考えている間にどんどん寿命は短くなる。遺書も書き方がわからないし書く時間がもったいない。私は必死に何をするべきか考えた。スイッチでも買おうか。いや今さら欲しい物を買っても虚しいだけだ。そうだ。臓器ドナーになるのがいいんじゃないか。家に帰り臓器ドナーカードに名前を書きポケットに入れる。明日死ぬ人間がする行動にしては冷静だった。私がもし余命1ヶ月ならとにかく貯金を使って遊びまくっていたと思う。しかしそんな余裕はすでになかった。1人で家族に連絡するべきか考えていると拓郎から連絡があった。
「風邪大丈夫か?」
「明日死ぬって」
「やばいやん笑」
拓郎は信じていない様子だったがしばらく説明すると私の頭が心配になったのか会おうと言ってきた。一応病院でもらった薬のおかげで熱は下がっていたので好物の寿司を一緒に食べることになった。

食事を終えた帰り道、もうあと少しで日が落ちようとしている。拓郎が言うには「とりあえず明日生きてたら勝ちやん」とのことだった。確かにそうだ。何かの間違いと信じ恐怖心を濁す。どうせ死ぬなら誰かを救って死にたいと思い、臓器ドナーカードを握りしめていた。
突然雨が降り始めた。拓郎が「傘を買ってくる」と青信号の横断歩道を渡りながら言った。しかし拓郎は気づいていないが拓郎の後ろから勢いよくトラックが近づいている。トラックからは突然の雨でよく見えていないようだ。私は余命1日ということもあり拓郎を歩道に突き飛ばした。

拓郎視点
その病院を紹介したのは僕だった。この辺りでは有名なヤブ医者の病院。僕は魔佐斗を揶揄うつもりでそこを紹介した。すぐにおかしいことに気づくだろ。そう思っていたが違った。診断結果をあまりにも深刻に考えている。そんな魔佐斗が可哀想でもあり面白かった。
「そう言ってみれば拓郎のお母さんもいたよ」
そんなバカな。あんな病院行くわけがない。とりあえず帰ってから聞いてみようと思い、寿司屋をあとにした。

拓郎母視点
私は末期の癌患者だ。どの病院に行っても臓器移植しなければいつ死んでもおかしくないと言われている。しかし私の血液型は特殊で臓器移植はほぼ不可能だろう。癌に気づいたのは2週間前のことで、家族にもまだ話していない。一縷の望みをかけて私は有名なヤブ医者の診断も仰ごうとその病院を訪れた。結果は風邪とのことだった。こいつ本物だ。今までの医師とは全く違う小学生のような答えだった。
診察を終えた私は家に帰ると突然体調が悪くなり救急車で大学病院に運ばれた。

ヤブ医者視点
「これどっちのカルテだ?」
私は困り果てていた。いつもは血液型で誰のものかだいたいわかっていた。しかし今きている2人は両方ともAB型Rh-と書いてある。「こんな血液型あったけ?」そう思いながらどちらのカルテにするのかを決めるアミダくじを作った。



私は生きていた。死を覚悟していたが目が覚めた時にはすでにあれから1週間経っているらしい。私の体の悪いところは全て治ったと言われたが「突然そんなことが起きるのか」と疑問に思っていた。
そして臓器移植されたことを知った。誰の臓器なのかはわからない。私には自分が掴んだ運だと感謝することしかできなかった。



9/6/2024, 4:16:03 AM

お題 たぶん「貝殻」いや、「ホタテ」かもしれない

「今日の給食ホタテじゃない」
小学校に行くため玄関で靴を履いている僕に向かって母は言った。母は毎朝献立を確認して目につくものがあれば伝えてくれる。その日はホタテらしい。
「ホタテって美味しいの?」
10歳の僕はまだ人生でホタテというものを食したことがない。
「お、美味しいよ」
母はどこか戸惑ったように答えた。おそらく僕がホタテの味を知らないことに驚いたのだろう。僕はそんな母を尻目に学校に向かった。

4時間目が終わると給食だ。正直午前中はホタテのことしか考えれていない。給食の準備が始まった。僕はホタテめがけて一直線に進んだ。ホタテの配膳係は親友の拓郎だった。拓郎はホタテの乗った皿を僕に差し出してくれた。僕はそれを見て驚いた。貝殻付きなのだ。本体は貝殻に隠れて見えない。楽しみで仕方なかった。
「いただきます」
それを合図にみんな勢いよくホタテ食べ始めた。
「やったー。俺ホタテ2つ入ってる」
誰かが叫んだ。振り返るとそこには立ち上がり嬉しそうにホタテを食べる拓郎の姿があった。
「そういうこともあるんだ」
僕も早くホタテを拝みたい。そう思い、貝殻を開けた。
「ない」
本来そこに輝いているはずのホタテの姿がなかった。どうやら何かの間違いで僕のホタテが拓郎のホタテに迷い込んでいたようだ。故意に拓郎が自分のホタテを2つにした可能性はあったが拓郎を信じることにした。もう拓郎はホタテを2つとも食べてしまった。僕は悔しさで涙が出そうになったが堪えた。今更事を起こそうとしてももう遅い。僕が諦めようとしていると先生が唐突と言った。
「ホタテ1つ余ってるからじゃんけんだな」
僕は迷わずそのじゃんけんに参加した。相手は2人。カズヤと拓郎だ。「拓郎、お前はもう2つ食っただろ」そう思ったが誰も何も言わなかったので僕も言わなかった。じゃんけんの結果僕がホタテを手に入れた。こんなに嬉しいことがあるだろうか。ホタテを受け取り席に着く。僕は諦めかけたホタテをもう一度手にした興奮と感動で胸がいっぱいだった。ようやく食べれる。そう思い貝殻を開けた。しかしそこにホタテの姿はなかった。

家に帰り僕は部屋で泣いていた。ホタテを食べることができなかった苦しみを2回も味わったのだ。当然である。母が帰ってきて給食について聞いてくる。
「美味しかった」
僕は悔しさのあまりそう答えた。母は心配そうに僕を見つめるが母に涙は見せない。不要な心配をかけたくないからだ。そして母は言った。
「夕食もホタテなんだけどいい?」
僕は興奮のあまり失神するかと思った。

母視点
その日私は朝から動揺していた。献立にホタテがある。息子に聞くとやはり食べさせたことはなかったようだ。というのも私は中学に入るまでホタテアレルギーだったのだ。息子にホタテアレルギーがあるかはわからないが息子には用心で食べさせなかった。しかし学校でもしアレルギー反応がでたら一大事だ。私はどうにか食べさせない方法を考え、ママ友に連絡をした。

?視点
朝起きると母が誰かと電話していた。どうやら魔佐斗のお母さんとの電話らしい。学校が始まるまであと10分。僕は大急ぎで学校に向かおうと靴を履いていた。すると後ろで母が言った。
「今日献立ホタテがあるんだけど魔佐斗君ホタテアレルギーかもしれないらしくて。バレないようにホタテを食べないようにしてあげて」
そんな無茶な。そこまで魔佐斗と仲良くないのに無理だと思った。しかし、アレルギーならなんとかするしかない。母と作戦を立て僕は学校に向かった。

給食の時間になり計画を始めた。まずホタテの配膳係にホタテが嫌いだと伝え、わざとからになったホタテをもらう。そして魔佐斗が目を離したすきに魔佐斗のホタテと入れ替える。はずだった。しかし魔佐斗はホタテをガン見して目を離さない。これではすきがない。魔佐斗とは隣の席でチャンスがあると思っていたが諦めるしかなかった。しかしチャンスがきた。配膳係の拓郎が自分のホタテに僕の分のホタテを入れてあたかもたまたま自分のホタテに2つ入っていたかのように叫んだのだ。「あいつ」僕は拓郎を軽蔑した。しかしチャンスでもあった。魔佐斗がそんな拓郎を見るため振り返っている。その瞬間僕はホタテを入れ替えた。魔佐斗には申し訳ないがお前を守るためだ。そう思うことでホタテの不在に気づきアワアワと動揺している魔佐斗への罪悪感を無くした。
しばらくしてホタテの余りをかけたじゃんけんをすることになった。魔佐斗は当然参加する。こうなれば僕も参加するしかない。拓郎と魔佐斗と僕の対決だった。「拓郎、容赦ないな」そう思った。しかし今は魔佐斗に勝たせるわけにはいかない。結果は魔佐斗の勝利。もうダメだと席に着き諦めた。魔佐斗が席につき貝殻を開く。よく見えなかったが魔佐斗のなんとも言えない、まるで悟りを開いたかのような表情で気づいた。そこにホタテはないのだと。

拓郎視点
今日の給食がホタテということは前々から知っていた。そして誰よりも多くホタテを食べたいと思うのは当然である。ホタテの配膳係は僕だった。運よくカズヤがホタテの所有権を放棄してくれた。これはチャンスだ。自分のものになるであろうホタテの中にカズヤのホタテの身を入れる。これで2つ確保できた。完全犯罪の余韻に浸りながら僕は配膳を続けた。そして気づいた。ホタテが1つ余ることに。欲しい。しかし自分のホタテはすでに机の上だ。このままではじゃんけんになってしまう。欲望に悶絶しながらある方法を思いついた。単純にその場で食べてしまうというものだった。
配膳を終えた僕は誰にも見られていない事を確認しその場でホタテを抜き取り食べた。まだ「いただきます」もしていないのに何かを食べる。その緊張感や罪悪感とともにホタテを噛み締めた。そのせいかホタテは想像以上に美味だった。
食事が始まりしばらくしてホタテのジャンケンをすることになった。しまった。このままだとこっそり食べたとバレてしまうかもしれない。じゃんけんに勝ち隠蔽する。そんな思いで参加した。そして魔佐斗とカズヤが参加してきた。「カズヤ?お前は嫌いって言ってたじゃねーか」そう思った。そしてジャンケンをし、負けた。勝った魔佐斗はホタテの不在を確認したが、なぜか何も言わなかった。理由は気になるが助かった。



「今日の夕食はホタテにしよう。そしてアレルギーなのかを判断する」カズヤ君の協力でホタテを食べずに済んだと連絡があり私はそう思っていた。今となってはもっと早くに確認しておけばよかったと思っている。魔佐斗は美味しかったと言ったが顔に涙の跡がありなんとなく事情はわかった。

その後、魔佐斗はホタテを食べて意識を失った。


9/5/2024, 6:45:08 AM

お題「きらめき、開けないLINE」

「後輩の中だったら誰が1番可愛い?」
部活の帰り道親友の拓郎が言った。拓郎は昔から惚れっぽいところがある。最近は思春期なのか発情期なのかますます女の話ばかりだ。
「僕は厚井魔奈子って人かな」
とりあえず答える。魔奈子は僕たち弓道部の1つ下の後輩でそこそこ可愛い。しかも帰りの電車が同じで最近はなんとなく見られている気がする。意識せざるを得ない。今日もこれから同じ電車に乗る。
「魔奈子ちゃんか。可愛いよな〜。LINE交換してくれないかなー。」
拓郎が何か言っているが軽く無視した。というのも僕は魔奈子さんにLINEの友達追加してもらっているのだ。弓道部のグループLINEの中で何故か一方的に追加されている。こちらからも友達追加するのは少し恥ずかしかった。先輩のLINE全て追加したのかとも思ったが拓郎を追加していないということはそういうことなのかもしれない。拓郎が例外の可能性はあるが女の前で拓郎は紳士だからそれはないと思う。とにかく拓郎との会話を早々に終えて僕は魔奈子さんの待つ電車に乗り込む。乗り込むとすぐに魔奈子さんと目が合った。「これはもう恋愛ドラマとかにある確定演出だろ」心の中でそう思いながら窓に反射して見える彼女の姿を見ていた。どうやらかなり熱い眼差しでこちらを見ている。そんなに僕のことを。外の景色を見るふりをして僕は魔奈子さんを見つめていた。
電車がいつもの駅に着いた。僕の降りる駅は無人駅で普通車掌に定期券を見せて降りるが、最近は面倒で何も見せずに降りている。心の中で魔奈子さんに別れを告げいつも通り電車を降りると突然誰かに腕を掴まれた。驚きながら振り返るとそこには魔奈子さんの姿があった。「これはまさかこ、告白?。ありがとう。お母さん。お父さん。そして弓道部に誘ってくれた拓郎。お前は一生の親友だ」心の中でそう思った。そして彼女が何か言おうとする。「さぁ、こい。好きです。付き合ってください。だろ」僕の心は人生最高の瞬間を予感していた。しかし
「無賃乗車は犯罪です」
ん?何を言っているんだ?思考の停止した僕に車掌さんの足音が近づいていた。



駅から家への帰り道、星を見ながら僕は泣いていた。あの後定期券を見せ車掌さんはすぐに去ったが魔奈子さんはどうやら定期券の存在を知らなかったらしく、しばらく戸惑っていた。一応僕は軽く説明すると顔を赤くして謝り、すぐに電車に戻っていった。
「謝るのは僕の方だ。バカヤロー」
周りに誰もいないことを確認して川に向かって叫んだ。あの熱い眼差しは僕を犯罪者として見ていたのか。そう思うと涙が止まらない。LINEの追加もおそらく僕を注意するためなのだろう。スマホを川に投げ捨ててやろうとも思ったが、考え直し魔奈子さんに謝り、これをきっかけに友達になってもらおうとLINEを開いた。我ながら不屈の精神である。しかしLINEの友達追加欄に魔奈子さんの名前がない。
僕は何も言わずスマホを叩き割り川に捨てていた。

9/4/2024, 5:30:50 AM

お題 些細なことでも

「今日の夕飯のカレーは何を入れよう」
いつもより早く終わったパートの帰り道呟きながら今日も帰路に着く。私には11歳の息子と9歳の娘がいる。私の子供とは思えないほど素直な子たちだと思う。しかし最近些細なことで夫と別居中だ。もうあれから1ヶ月近く経ちそろそろ子供のためにも帰ってきてほしいと思うがきっかけが見つからない。

家に帰ると家の鍵が何故かなかなか開かない。しばらく経ち家に入ることができた。娘はリビングでテレビを見ていたが、いつものように部屋にいるはずの息子の姿がなかった。だが息子の部屋は妙にデスクライトだけがつけっぱなしになり1冊のノートを不気味に照らしていた。毎朝子供たちが家を出たあと忘れ物がないか確認しているが今朝このノートを見た記憶がない。不思議に感じながら、息子には申し訳ないがこっそり読もうと思うのは親として自然ではないだろうか。まだ上着も脱いでいなかったが私はノートをひらいた。それは日記だった。11歳ということもあり誤字ばかり目についてしまうがどうやら1週間前から書き始めたようだ。パラパラと見ていると一昨日の日記に「お父さんがいなくなったことをからかわれた」と書いてあった。私は自分のしてしまったことの罪の重みを実感した。小学生に父親がいないというのはそれだけでいじめられてしまうこともあるかもしれない。動揺しながら昨日の日記にも目を通すとさらに恐ろしいことが書いてあった。
「明日の放課後橋の下で戦い」
どうしてそうなる。理由はわからないが息子のいない理由はわかった。橋といえばあそこしかない。帰る時に通ったはずだが気づかなかった。慌てて家を飛び出し走って橋に向かう。その時家の中は静かだった。橋に着くと息子の声が聞こえた。夕日で影になり相手の顔は見えないが息子の顔はちょうど見えた。顔には傷がついている。急いでとめないとと思ったが息子は叫ぶように言った。
「お父さんがいなくても俺は強いんだ。お母さんだって頑張って働いて育ててくれてるんだ。だからもう馬鹿にするのはやめろ」
その言葉を聞いてなのか相手は逃げていった。私は息子の横顔を見ながら涙を堪えることができなかった。息子は1人で戦っていたのだ。この戦いをとめる資格はもともと私にはなかった。息子にバレないように帰って家で待とう。そしてお父さんとまた暮らそう。冬の冷たい風が吹くなか私は心に決めた。

息子視点
今日もまた母の作ったご飯だ。正直に言おう私は母の作ったご飯が嫌いだ。というか不味すぎる。妹もそう思っているに違いない。ニコニコしながら毎日食べているがもうお父さんがいなくなって1ヶ月。限界だった。とはいえ子供の立場で何か言おうとすると気まずくなるのは火を見るより明らか。そんなことを親友の拓郎と相談していると
「お父さんがいなくて喧嘩になってるとこをお母さんに見せたら改心して仲直りするかもよ」
彼は笑いながらそう言った。冗談で言ったのだろうが僕はいい案だと思った。というのも夕食で精神を削られる苦しみが1ヶ月続き冷静な判断などできる状態ではなかった。そして作戦当日お母さんがパート終わりにちょうど通るタイミングで俺と拓郎は喧嘩の芝居を始めるはずだった。しかしお母さんはなかなか来ない。おかしいと思っていたら、葉っぱで顔を隠した謎の子供が声をかけてきた。何故か僕たちの計画を知っている。その子は拓郎の顔がお母さんから見えない位置を異常に確認してさらに僕のセリフまで指導してきた。生意気なやつだ。しかし考えてみれば拓郎の顔を母は知っているし仲が良いことも知っている。計画は失敗していたかもしれない。セリフも自分の考えていたものより数段良かった。救世主だ。そして母がやってきた。

娘視点
兄が何か企んでいるのは知っていた。というか兄と一緒に帰る時、兄と兄の友達との会話は周囲にダダ漏れだった。そして例の案が聞こえた。馬鹿らしいと思ったがもうその案にかけるしかないとも思った。というのも母の作る夕食は地獄だった。兄はニコニコしているが最近はもう引きつり、痙攣し始めていることに私は気づいていた。父が料理上手だっただけにその苦しみはカレーの後にゴキブリを食べるが如し苦しみだった。作戦当日兄は遅れるといい私を先に帰らせたが何をしようとしているかは明白だ。当然私は橋の周辺で隠れて待ち伏せ、兄が帰るのを待った。30分ほど経ち見ていると母が歩いて家に向かっている。橋の下を見るとまだ兄たちは到着していない。「何やってんだあいつら」声に出てしまいそうになったが心の中であいつらをお兄ちゃんに言い換えて冷静さを保つ。母が通り過ぎてしまう。計画は明日にするのかと思ったが母の後ろから兄たちが来ていた。お互い気づいていない。本来なら明日にでももう一度チャレンジすればいいと思うが母の買い物袋にカレーのルーが入っていることに気づき、気が変わった。カレーは母の特異料理だ。今日中に父が帰ってこなくては死人がでると思い急いで計画を練る。まず家に先回りし鍵に細工をして母が家に入るまでの時間を稼いだ。これで残り10分。そして母が感情移入できてかつ橋に向かう日記を兄の部屋に残す。母が気付きやすいようにライトで照らしておいた。あとはテレビでも見て冷静を装う。母が帰ってきた。急ぎ過ぎて呼吸が荒いがバレてはいないようだ。母が兄の部屋に入った。あとは兄たちが喧嘩していれば。ふと思った。拓郎という兄の友達を母が知っていたら辻褄が合わなくなるのではないか。私は急いで橋に向かった。セリフも必要だ。兄に顔を見られると複雑なのでそこら辺で拾った葉っぱで顔を隠す。橋に着くと兄たちはオドオドとしている。もう私の案をやらせるしかないと思った。

その日の夕食はカレーだった。母は悲しそうにしている。兄はニコニコとよく喋っているがおそらく口に入った特異物を吐き出すことに必死なのだろう。食べる前に私は思った。計画は成功したが今日中に父が帰ってくることはない。しかしこの一口は私たちにとっては些細なようで地獄の一口だが家族にとっては父を思う大切なものだと。







 

9/2/2024, 7:05:45 AM

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