非魔人対策本部

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お題 「時を告げる」

「余命1日です」
その日私は風邪のような症状で親友の拓郎に教えてもらった病院に訪れていた。そして検査してもらった結果そう言われたのだ。そんなわけないだろ。熱もせいぜい38度程度一般的な風邪で薬だけをもらう予定だったのになんてことだ。 
「本当なんですか?」
「はい」
「明日死ぬんですか?」
「はい」
医師がどこか冷たい。その後もしばらく質問を続けた。
病室を出るとそこには拓郎の母が思い詰めた様子で座っていた。現実を受け入れることができないまま私は気にせず病院をあとにした。

病院からの帰り道私は泣いていた。自分が死ぬことを納得はできないが理解はできてしまった。私は明日死ぬようだ。「とりあえず家族に連絡」と思ったが明日死ぬなんてどう伝えればいいのか。そんなことを考えている間にどんどん寿命は短くなる。遺書も書き方がわからないし書く時間がもったいない。私は必死に何をするべきか考えた。スイッチでも買おうか。いや今さら欲しい物を買っても虚しいだけだ。そうだ。臓器ドナーになるのがいいんじゃないか。家に帰り臓器ドナーカードに名前を書きポケットに入れる。明日死ぬ人間がする行動にしては冷静だった。私がもし余命1ヶ月ならとにかく貯金を使って遊びまくっていたと思う。しかしそんな余裕はすでになかった。1人で家族に連絡するべきか考えていると拓郎から連絡があった。
「風邪大丈夫か?」
「明日死ぬって」
「やばいやん笑」
拓郎は信じていない様子だったがしばらく説明すると私の頭が心配になったのか会おうと言ってきた。一応病院でもらった薬のおかげで熱は下がっていたので好物の寿司を一緒に食べることになった。

食事を終えた帰り道、もうあと少しで日が落ちようとしている。拓郎が言うには「とりあえず明日生きてたら勝ちやん」とのことだった。確かにそうだ。何かの間違いと信じ恐怖心を濁す。どうせ死ぬなら誰かを救って死にたいと思い、臓器ドナーカードを握りしめていた。
突然雨が降り始めた。拓郎が「傘を買ってくる」と青信号の横断歩道を渡りながら言った。しかし拓郎は気づいていないが拓郎の後ろから勢いよくトラックが近づいている。トラックからは突然の雨でよく見えていないようだ。私は余命1日ということもあり拓郎を歩道に突き飛ばした。

拓郎視点
その病院を紹介したのは僕だった。この辺りでは有名なヤブ医者の病院。僕は魔佐斗を揶揄うつもりでそこを紹介した。すぐにおかしいことに気づくだろ。そう思っていたが違った。診断結果をあまりにも深刻に考えている。そんな魔佐斗が可哀想でもあり面白かった。
「そう言ってみれば拓郎のお母さんもいたよ」
そんなバカな。あんな病院行くわけがない。とりあえず帰ってから聞いてみようと思い、寿司屋をあとにした。

拓郎母視点
私は末期の癌患者だ。どの病院に行っても臓器移植しなければいつ死んでもおかしくないと言われている。しかし私の血液型は特殊で臓器移植はほぼ不可能だろう。癌に気づいたのは2週間前のことで、家族にもまだ話していない。一縷の望みをかけて私は有名なヤブ医者の診断も仰ごうとその病院を訪れた。結果は風邪とのことだった。こいつ本物だ。今までの医師とは全く違う小学生のような答えだった。
診察を終えた私は家に帰ると突然体調が悪くなり救急車で大学病院に運ばれた。

ヤブ医者視点
「これどっちのカルテだ?」
私は困り果てていた。いつもは血液型で誰のものかだいたいわかっていた。しかし今きている2人は両方ともAB型Rh-と書いてある。「こんな血液型あったけ?」そう思いながらどちらのカルテにするのかを決めるアミダくじを作った。



私は生きていた。死を覚悟していたが目が覚めた時にはすでにあれから1週間経っているらしい。私の体の悪いところは全て治ったと言われたが「突然そんなことが起きるのか」と疑問に思っていた。
そして臓器移植されたことを知った。誰の臓器なのかはわからない。私には自分が掴んだ運だと感謝することしかできなかった。



9/7/2024, 6:31:36 AM