耳障りな鼻歌を歌う陽気な船乗りが海岸に船をゆっくりと止め、私に降りるよう促す。
コイツは馬鹿なのか、私の行き先はまだまだずっと先である。これは詐欺か?
「なぜ下ろすのです。私が行きたい場所はまだずっと先だ」船乗りは耳障りな鼻歌を止め、答える。
「あなたにはこの先はまだ早いのですよ。僕らみたいなのが行くべき場所ですもの。言いますがあなたは行かない方がいい」
なんて腹の立つ船乗りだ。むしゃくしゃする。コイツごと荒波に揉まれ海の藻屑となれ。
「失礼ですが、私とあなたには何の違いがあると?私には分かりません」
「はっはっはっは」なぜ笑うのだ、コイツは。可笑しいのか?この会話が。
「いずれわかりますよ、それではさようなら。」船乗りは無理やり私を海岸へと押し出した。
「はあ?」船は私を置いて動き出す。船乗りは最後に私に背を向け答える。
「まあ、くれぐれも迷わないでくださいね。ちゃんと意識持って行動してくださいよ、はは。lalala,good bye」
(...すごく悪い夢を見た気がする)
外はもうとっくのとうに暗くなっている。
空では星がチカチカと点滅しており、ふと動く星があると思えばそれは飛行機であった。下弦の月はこちらに微笑んでいる。
ひんやりと冷えているベンチを撫でる、肌寒いなあ。
なぜここに居るのだろうか、そうだ、終電を逃してしまったのだ。ここはどこだろう。何も考えずに終点で乗り継いでいたらこんなことに。
まあいいか、どこまでも行こう。自分の好きなようにしよう。人生なんとかなるはずだ、きっとね。
君まで後、3.5メートル___
君まで後、2メートル___
君まで後、___________
「きゃあああああ!!」悲鳴が響き渡った。
─『彼は地面の反対側に』
「にゃ」驚くほど甘い声が、耳に聴こえビクッと後ろを振り向く。
「嗚呼、......良かったただの猫じゃないか....」
はあ、怖かった。肝が冷えた気がする。
「さあ、行くかぁ。またね、猫ちゃん」
手を振り、前に進んだ。
◉◦______
「まったく、馬鹿な人間だ。此方が嫌になる。」
猫の目は大きく見開かれ、顔つきが人間寄りになっていく。
「次は、僕のお仲間と一緒に旅だ。覚えておいてね」
猫の口は、裂かれたように笑っていた。
◉◦___________
『さらば愛しき人間よ』
「また、会えたら会いましょう。」彼は髪を靡かせ、微笑む。
「ええ、会えたら__」本当はさよならなど、謂いたくは無い。
微笑まなければ、彼は後悔の念に押し潰される。
「また、会いましょう。必ず」
そう、決意の眼差しで良い放ったのは数十年も前だ。
◉◦◉◦_____
『幾年も忘れらなどいられぬ恋』