はた織

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2/28/2025, 12:58:12 PM

 近所の和菓子屋に、おそらく七十か八十ぐらいのおばあさんが働いている。たいへん元気だ。何せ、一人で店番をしている。会計から品出し、和菓子の製造まで全部一人だ。店は自宅に隣接しているから、家族の者も手伝っているだろう。だが、店には常にそのおばあさんしかいない。
 その店の名物は、焼くとパンのように香ばしいおまんじゅうだ。他にも、一度しか食べたことのない黒豆入りの大きな蒸しパンも美味しかった。またいなり寿司もあって、和菓子と同じ砂糖が入っていたのか、甘さ引き立つ旨味を感じた。
 私は一回だけ、おばあさんからおまけとして、売り物になれなかったおまんじゅうを貰った。味は売り物と大して変わらず、何ならおばあさんの優しさが込められていたので、より一層美味しく味わえた。
 彼女の柔らかな愛情は、何ものも餅のように包み込む温もりを感じる。私がお釣りを貰った時、一瞬だけおばあさんの手に触れた。熱い、そう思った時には私の手のひらからじんわりと熱が湧き上がってきた。
 おばあさんの手には、血潮の燃えたぎる熱さがあった。あまりにも強い熱に、私は自分の手を溶かされるかと驚いた。
 彼女は和菓子作りの最中であったのだろう。料理をする手はよく熱がこもると言うが、あのおばあさんの手には、自身の命を汗水に溶かして食べ物に分け与える意志がある。向こうは、和菓子を作って人に食べて貰って楽しくて仕方ないと人生を楽しんでいるのだろう。
 私はおばあさんの体温を受け取って、大事に握りしめた。これが自ら生きる意味を見出し、綺麗な死へと向かって歩む人間の温かなたましいだ。
             (250228 あの日の温もり)

2/27/2025, 12:42:18 PM

 「品物は可愛くてもお値段は可愛くない」と言った知人の言葉を思い出した。
 この可愛くないは、値段の数値が小さくないという意味を持つなら、Price is not cute.と表現できるかもしれない。cuteは、どうも赤子や小動物などの小さな物を対象に表現するらしい。
 この調子なら、お買い得商品を見かけて思わず、It’s so cute! と言えそうだ。おそらく、日本人同士なら通じ合う英文だろうよ。
 値段にも可愛さを表現できるKawaii文化は、本当に面白い。脳足りんの幼稚に見えながらも、全てのものを愛らしく包み込む母性を感じる。
                  (250227 cute!)

2/26/2025, 12:07:39 PM

 今回で100作品目だ。
 去年の11月20日から数えて、今日でちょうど100日目である。この場に私という作家の作品にキャンドルを点けて以降、今日まで32,078文字分の作品を積み上げてきた。
 原稿用紙およそ80枚分である。文庫本サイズにしたら64ページしかない。手に持って良い具合の厚さになるには、あと100作品も書く必要がある。かと言って、そこが私のゴールではない。
 もし一年も書き続けて、365作品も書き上げたら何が起ころうか。書く習慣を極めた者の先には、一体何があるのか。
 ちなみに、100作品を目の前にして私は100って案外少ないなと実感している。
 名久井直子の『100』という写真絵本を見ても思ったが、口や指で数えれる数字はやはり少ない。しかし、空間や隙間に安心感を覚える。私の100作品もまだ空白がある。夢を語れる。想いを載せられる。たましいを築き上げられる。
 きっと私は、200、365と作品を書き上げても、まだまだページの空白があるではないかと健気に軽率に貪欲に文学を書いていくだろうよ。
                  (250226 記録)

2/25/2025, 1:49:32 PM

 小学生の頃の私にとって、家の近くにある川の橋を渡るのは冒険そのものだった。ただ小学校は川の向こうにあったから、毎日のように橋を渡っていた。だが、私は十歳になっても、一人で橋を渡ることをしなかった。いつもそこを通る時は、友だちか親と一緒だった。
 ある日、気まぐれか思いつきか。私は、ようやく四年生にして乗り慣れた自転車で、たった一人、学校からも家からも全く離れた見知らぬ土地に向かって走った。おそらく大きな公園だった気がするが、橋の先にあった場所をよく覚えていない。
 それよりも、土手から見上げた夕陽が大変綺麗だった。自分で行先を決めた道を照らす夕陽は、本当に美しかった。今も橙に燃え上がる陽光が記憶によみがえる。
 子どもの時に自分で選んだり決めたりした物事は、一生忘れられない記憶となる。選択そのものが冒険だ。大人になってからも冒険はいつでもできるが、やはり子どもの心で体験する冒険にはかなわない。
 子どもの冒険は、たましいまでも揺れ動かす力強い生命があるのだから。
               (250225 さぁ冒険だ)

2/24/2025, 12:31:49 PM

            ペ
            ン
            先
            の
            め
            ぐ
            り
            花
            笑
            む
            た
            ま
            し
            い
            よ
                (250224 一輪の花)

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