はた織

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 近所の和菓子屋に、おそらく七十か八十ぐらいのおばあさんが働いている。たいへん元気だ。何せ、一人で店番をしている。会計から品出し、和菓子の製造まで全部一人だ。店は自宅に隣接しているから、家族の者も手伝っているだろう。だが、店には常にそのおばあさんしかいない。
 その店の名物は、焼くとパンのように香ばしいおまんじゅうだ。他にも、一度しか食べたことのない黒豆入りの大きな蒸しパンも美味しかった。またいなり寿司もあって、和菓子と同じ砂糖が入っていたのか、甘さ引き立つ旨味を感じた。
 私は一回だけ、おばあさんからおまけとして、売り物になれなかったおまんじゅうを貰った。味は売り物と大して変わらず、何ならおばあさんの優しさが込められていたので、より一層美味しく味わえた。
 彼女の柔らかな愛情は、何ものも餅のように包み込む温もりを感じる。私がお釣りを貰った時、一瞬だけおばあさんの手に触れた。熱い、そう思った時には私の手のひらからじんわりと熱が湧き上がってきた。
 おばあさんの手には、血潮の燃えたぎる熱さがあった。あまりにも強い熱に、私は自分の手を溶かされるかと驚いた。
 彼女は和菓子作りの最中であったのだろう。料理をする手はよく熱がこもると言うが、あのおばあさんの手には、自身の命を汗水に溶かして食べ物に分け与える意志がある。向こうは、和菓子を作って人に食べて貰って楽しくて仕方ないと人生を楽しんでいるのだろう。
 私はおばあさんの体温を受け取って、大事に握りしめた。これが自ら生きる意味を見出し、綺麗な死へと向かって歩む人間の温かなたましいだ。
             (250228 あの日の温もり)

2/28/2025, 12:58:12 PM