はた織

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2/16/2025, 12:51:34 PM

「時よ止まれ、お前はいかにも美しいから」
 ファウストが求めた悪魔的な願望だ。神さえも止められない時間の流れに、必死に立ちはだかった彼の姿こそが、儚げで美しいだろうよ。
 ただ、その美しさは現代でもう見られない。その言葉を言うのは、大人になれない子どもだけだ。地団駄踏んで、幼い頃、両親に愛情を受けられなかったことに死ぬまで悔やみ憎み狂い、大人になれなかった責任を親に求めて、自ら心の成長の時間だけを止めている。
 幼心を抱えた大人の希少性を自慢したいだろうが、やはり時間の流れを止めた者は醜い。時移ろい衰えていく身体と時止めて幼稚にしかならない心は、実に見ていて不愉快だ。
 少子化だと言うのに、子どもが増える矛盾した世界で、私は仕方なく大人になるしかないと腹を括った。子供騙しに妖精の羽を背中にしょって、目の覚める針の粉を子どもらにばら撒いてやろう。その針を目に突き刺して、内なる大人を叩き起こせ。さあ、もう新しい朝だぞ。
「時よ流れよ、お前はいかにも美しいから」
              (250216 時間よ止まれ)

2/15/2025, 12:32:14 PM

「君の声がする」
「違うよ、あばばばばってあやす母親の声だよ」
「それでも君の声がするよ」
「そうかな。沼近くの屋敷まで啜り泣く墓場に埋められた骨の音じゃない?」
「本当に君の声がするって」
「さあどうだが。きゅろきゅろと小鳥のように鳴く乳母車の子守唄だろうよ」
「結局君の声って何なの」
「家族みんな豚にしたキルケの脱糞音に掻き消された」
「そうなの。じゃあ、この杯の水をお飲みよ。喉が生まれ変わるように潤うわ」
「……モン、ヴェエル、ネエ、バア、グラン。メエ、ジュ、ボア、ダン、モン、ヴェエル」
「アニムス、ようやく君の声が聞こえたね」
              (250215 君の声がする)

2/14/2025, 12:26:10 PM

 ありがとうと何度も言えば、
 自分の想いが相手に伝わると身勝手に思うな。
 感謝の台詞と共に頭を下げればいいという
 無様な態度を示しているだけだ。
 目も合わせないその顔が何よりの証拠だ。
 ありがとうの言葉の中に、
 お前の想いを無理やりに詰め込むな。
 ちゃんと言葉にしろ、声に発しろ。
 口に出せ、舌を鳴らせ、歯を噛み締め。
 お礼の重みで潰された本心をすくい出せ。

 今日あなたとお会いして心から嬉しいです。
 六十にして耳順のあなたは、
 いつでも初心を忘れず、瞳を輝かせ
 だれにも分け隔てなく、笑みをたたえ、
 耳を傾けた知識を皆に分けてくださる。
 三十にして立つであろうわたしは、
 あなたとは何度生まれ変わっても
 お会いしたいから、
 あなたの想いを私の遺伝子の中に取り組み、
 後世の人々にお伝えしていきます。
 あなたの意志を受け継ぐたましいを
 この世によみがえらせます。
 今日は、私の為に微笑んでお話してくださり、
 ありがとうございます。
               (250214 ありがとう)

2/13/2025, 12:35:53 PM

  樹の葉嚙む牝鹿のごとく背を伸ばし
  あなたの耳にことば吹きたり

 そんな短歌に今でも恋していると、暴風止んだ夜風に載せて、そっとお伝えしたいです。

【引用:『安野光雅きりえ百首』歌人/早川志織】
             (250213 そっと伝えたい)

2/12/2025, 12:52:45 PM

 多分私の未来にも文学を捨てる道があるだろう。
 それこそ、検閲が厳しく、表現も制限された戦前の時代に生きていたら、果たして文学を好きでいられるのかと考えてしまう。
 つい好きすぎて辛くなって捨てざるを得ないほどに苦しくなり、自身も時の政府の権力によって、文学を検閲し表現を制限して、文章全てを××××××××××××に書き換えてしまうかもしれない。いっそのこと、華氏451度の炎に熱してしまえば、苦しみから解放されて気持ちが良いだろう。
 だが、文学とは国の大業にして永久不滅の存在。愛憎の火に何度焚べても焚べても不死鳥の如くよみがえり、そのペンの如く鋭き嘴に心臓を射抜かれてしまうだろう。そうしてまた憎悪の業火が不死鳥に火種を与えるのだ。永遠の苦痛である。
 文学青年だった彼の未来は、生きる術を失った私のIFルートであり、私の中に潜む可能性でもある。悪役は自身に秘められた未来の記憶なのだなと腑に落ちた。
               (250212 未来の記憶)

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