お前の心臓の鼓動が聞こえるか。
スマートフォンに目も耳も心も奪われて
歩き続ける意味はあるのか。
通りすがりの人とぶつかるために歩くのか。
人と目を合わせたら心臓が苦しくなるらしい。
道路の真ん中を恐れずに歩くためなのか。
車よりも速いと信じる心臓は早鐘を打つらしい。
線路の遮断機が身体にぶつかるまで歩くのか。
いいねのハートがつくまでどうでもいいらしい。
そうして、線路を抜けたと勘違いして
スマートフォンに歩みを止められたお前は
電車に跳ねられるのだ。
命が潰え、肉片となって飛び散った
お前の機械なココロは、同じココロを持った人間の
ながらスマホの歩みで踏まれていくのだ。
お前の心臓の鼓動が聞こえたか。
(250211 ココロ)
願わくば、
自分の頭に流れ星が落ちてきて、
頭の周りを星がくるくると回る衝撃を受けて、
そのまま倒れて星の仲間入りをしたい。
怒りに任せて物を壊す癖は出てなかった。
けれども、自ら自分の頭を叩き割るのは痛すぎた。
星の尖った先で私の扁桃体を突き刺してほしい。
(250210 星に願って)
君の背中は、よく叩かれたり、押されたり、蹴られたり、ホクロを星座に見立ててなぞられたりと人の欲望を背負わされているね。
夢の中で出会った君は、どこかの公園のベンチに座っていた。こちらに背を向けて座る君を見て、私は安心して隣に腰掛けた。
すっかりと落ち着いたものだから、私は肉を挟んだコッペパンを頬張った。いつのまにか持っていたが、これはずっと私が欲しかったものだ。
アニムスと共に生きる為の父性を、神の肉から授かりたかった。自分が求めていたものを自分の身体の中に取り込むこの感覚は、正に夢心地だ。さすがに香ばしい肉の味まで感じられなかったが、このパンを食べて、たましいにも溶け込む気持ちの良い食事をした時と同じ満足感を得られた。
私のアニムス、君の背中に寄り添って食事をしたから、おかげでもっと美味しく味わえたよ。
(250209 君の背中)
最近湯船に浸かりながら寝てしまう。長湯したくなる人ほど母胎回帰を望んでいると聞くが、いざ羊水を思わせる温かな湯で眠っても虚無であった。全くの無だ。心臓の鼓動も、体液の匂いもしない。瞼の裏はぬばたまの闇ばかり。
無味無臭の清潔すぎる場所だから温もりも何もないのだろう。水に浸かっているのか、そもそも液体の中にいるのか分からないほどに私の身体と湯の境界線が曖昧になる。
もしかしたら、この感覚こそ羊水にいた頃の記憶かもしれない。肌も肉も内臓も骨もみんな水に溶けて、血液も神経もたましいもどこか遠くに流れていく。
人はもともと何者でもないという仏教の教えがあったが、湯船の睡眠がその教えを経験できる場なのかもしれない。
(250208 遠くに……)
実は、私は橋の下に生まれた子なんです。言わば鬼子ですよ。橋の下はいつも異界に繋がっていますから、私のお母さんが出産した拍子にうっかりと私を人間界に落としたんじゃあないでしょうか。まあ捨てられたと思ってもどうしようもないので、母親の失敗談として笑い種にして会話に花を咲かせています。
それで、橋の下にいた私を今の父親が持ち帰ったんです。白痴の胤しか撒けないのなら、いっそのこと捨て子を光源氏よろしく教育して、妻になるほどの良い子を育てようと考えていたんじゃあないですかね。ただどうも酔っ払いの戯言だったようで、結局私は父親の妻どころか子どもにもなれず、彼の豚児に喰らいつく鬼となりました。
最近そういう設定を付けて生きていますが、誰も知らない秘密なんて案外自分で簡単に生み出せるものです。誰にも言えない秘密よりかはやさしいんじゃあないですかね。
(250207 誰も知らない秘密)