最近湯船に浸かりながら寝てしまう。長湯したくなる人ほど母胎回帰を望んでいると聞くが、いざ羊水を思わせる温かな湯で眠っても虚無であった。全くの無だ。心臓の鼓動も、体液の匂いもしない。瞼の裏はぬばたまの闇ばかり。
無味無臭の清潔すぎる場所だから温もりも何もないのだろう。水に浸かっているのか、そもそも液体の中にいるのか分からないほどに私の身体と湯の境界線が曖昧になる。
もしかしたら、この感覚こそ羊水にいた頃の記憶かもしれない。肌も肉も内臓も骨もみんな水に溶けて、血液も神経もたましいもどこか遠くに流れていく。
人はもともと何者でもないという仏教の教えがあったが、湯船の睡眠がその教えを経験できる場なのかもしれない。
(250208 遠くに……)
2/8/2025, 1:13:52 PM