お前はなぜ寂しいと叫ぶのか。
3畳ほどの小さな喫茶店のこれまた小さな真ん中で
白と茶だけで彩られた白壁と木材のテーブルに向かって
はにかみ屋の店主の優しき手からつくられた華やかなパフェの前で
桃の薔薇が咲き誇り、クリームとチーズとゼリーが愛し合って重なり合うデザートを口にしても
熟れた果実の甘き酔いしれ、濃厚な牛乳の芳醇さ、店主の手のひらから溢れた血潮を味わっても
まだら模様のクリームに輝くパフェグラスをガラス破片から熱して膨らませた職人の顔も見ずに
向かい席にいる友人がいながら、私たち2人で一緒に来て良かったわねと世界中に聞こえるように叫んで
数多の生命に溢れる小さき喫茶店で、よくもまあ孤独を感じ取ったものだ。
たましい光る象牙の塔を内臓に詰めても、お前のこころは寂しさで埋め尽くされている。
(241219 寂しさ)
朝4時の星空を観に行こう。
スターク・マンローが愛した星の入浴——スターバスに入ろうよ。
未明の空にきらめく星々に瞳を輝かせてまたたきましょう。
砂時計の形が親しいオリオン座を見つけましょ。
あなたが物語る新しい星座も探してみましょ。
日の入りまでの2時間半星を見上げよう。
マンローのように星座の名前を知らんぷりしてスターバスを楽しもうよ。
夜明けの空に浮かぶ星たちをまぶたの中にすくいましょう。
星の数だけ私たちの星座の物語を作りましょ。
朝日に溶ける星々の代わりに輝くおはなしのろうそくを灯してあげましょ。
(241218 冬は一緒に)
ささやき声の話が良い。
互いの頬に、息が当たるぐらいの会話が良い。
2人にしかわからない言語の対話が良い。
鳥のさえずり、虫の音と思わせるほどのお喋りが良い。
八つ時に耳を澄ました恋人たちのこの語らいが、
パフェをすくうわたしにはちょうど良い。
(241217 とりとめもない話)
ねんぶつのせきがでると、
浅原才市は風邪さえも仏からの贈りものとして
なむあみだぶつと大事そうに詠った。
私が風邪を引いたら、
誰かれ構わずごめんなさいのせきをして、
仏からの贈りものを薬で返品するしかない。
結局、仏さまにもごめんなさいと手を合わせて、
健康に支配された身体に、もっとブルーライトを浴びさせて、
深夜までその身を起こすのだ。
(241216 風邪)
ちらちらとぼたん雪が舞い散る中に、雪の結晶をきめ細やかな肌にし、雪煙を羽織るように身にまとい、雪化粧に冷たく彩られた雪女。
お雪がいた頃の武蔵の国にも降った、純白さに息詰まるあの純粋な雪を、怪談語りながら今も待っています。
(241215 雪を待つ)