曖昧よもぎ(あまいよもぎ)

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8/21/2025, 11:33:31 PM

今日、僕は君と飛び立つ。

白い翼も何も無い僕と君は、この古びた校舎のてっぺんから飛び降りる。学ランは着たままで、靴は脱いでおく。

もう決めたことだ。今更後悔などない。寧ろ今日遂行しなければ、
どうせ明日また後悔をしてしまう。

今日しかない。

風は強い。昨日は雨がふっていたから、地面は滑りやすくなっている。絶好の機会だった。逃す訳にはいかなかった。

思えば、僕と君は1秒たりとも離れたことはなかった。

心はいつも近くにあり、つながっている。誰にも断つことのできない強固なものでありながら、常にそよ風に揺られて切れかけている脆い赤い糸。

遂に、遂に終わる。

この無意味で無価値な生が、自分の身体は弾け飛ぶ。

積雪に大きな岩を落としたような音が響いて、僕と君はようやく一つになれる。

屋上の鍵は閉めた。意気地なしの君が逃げ出さないように。

内臓みたいな色をした空を見た。

僕の身体は投げ出され、君を道連れに落ちていく。

スローモーションみたいだった。ようやく、死を理解した。

生きることにも死ぬことにも、そこに意味など無かったのだろう。

それでも、もしもあの日の君の目にうつったのが僕じゃなかったのなら、いつか見た空が黒くなかったら、たぶん、僕はまだ生きていた。


三十二作目「君と飛び立つ」

8/20/2025, 10:56:10 AM

はじめての体験に、僕は気が付いた。
日常とは、活動写真のようなものだったのだ。
僕を中心に廻る世界と見せかけ、別に僕を中心としている訳では無かったが、たしかに生涯主人公は僕である。

人々が地動説を信じ、反する思想の者を殺すように、人はときに正しさを歪める。
いつでも自分や、多数派だけが正しいことのだと思い上がっている。
それを見下しもしたし、なんて醜悪たる争いだろうとも感じた。
それを打ち明けたらあなたは笑うかもしれないけど、本当だった。

自然の風景はいつだって本物で、誇張も無ければ謙遜もしない。
その優雅さに見惚れる心があるのなら、人間の体も捨てたものではないのだろう。
いや、寧ろ僕は妙な居心地の良さに溺れている気がする。
鏡を覗く度うつる己の姿を、なぜか気に入った。
重瞳と不揃いな臓器ごとあなたが愛してくれるなら悪くないのかもしれない。

はじめ、僕は何処にも存在しなかった。
自分自身に生きている感覚があり、人々も僕が居ると思っていたけれど、僕自身は何処にも居なかった。
僕は祀られていた。それが崇拝か畏怖かはさておいて、僕は所謂“かみさま”という扱いをされていた。
実際人間ではなく、今だってヒトの形を象った化け物であることに変わりはない。
だが、この白く脆い皮膚の中に自分を閉じ込めてからというもの、当たり前に佇む自然の営みが無性に愛おしくなる。
あなたはそれを感情の芽生えと宣った。


あの瞬間、僕はあなたと出逢い、あなたと話し、あなたと咲った。
うまれて初めて、僕は望みを持って、明確に生への渇望を感じた。
だからこの活動写真も、喉の奥の変な乾湿も、きっと忘れない。
もし僕が忘れてしまったら、あなたが思い出させてくださいね。



三十一作目「きっと忘れない」
人間と人外のブロマンスに囚われて幾星霜

8/19/2025, 11:50:59 AM

そう聞いてるうちは、到底無理
水底に潜って泡を掴むような感覚に襲われる


三十作目「なぜ泣くの?と聞かれたから」

8/13/2025, 10:59:35 AM

それは悲哀を模るグランギニョルだったかもしれない。

星の見えない真夜中の、御伽噺とは言い難い滑稽な物語。


つくづく言葉選びを間違え続けた己への戒め、或いは他人へのこの上ない執着と束縛が今、消え失せた気がした。

勿論そんなことは無いのだけれど、自分の中で確かに何か変わった気がした。

飽くまでも自分は天使になれず神に見初められず薬を酒で呑み込んでは吐き出す堕落的な人間であるし、元より人間性や倫理という詞とは対極であるが。

故に、言葉にならずに蒸発してった嫉妬の数々が、どす黒く澱となって蓄積されている訳なんだろう。

後悔とか焦燥とかもう聞き飽きた。

圧倒的多数が、これは悲劇と宣うであろう。

だが、もし、一人でも、これを自業自得だと叱責するなら、或いは喜劇と云うなら、その時点で終演だ。


それでも今、いちばんしたいことは、ただ、安らかに、沈んで、
そして光に導かれ、在るべき場所に還ることだと思うんだ。


今、私の左手に貴方の右手が重なった、そんな幻覚を見た気がした。
また薬を飲まなきゃ。汚い物を洗い流そう。

【Repeat】


二十九作目「言葉にならないもの」
言葉にしたくないから、敢えてならないふりをしている

8/12/2025, 11:23:54 AM

白い自動車に紅色が散った塾帰り

夜というのに蒸し暑くて蝉の声が煩かった


二十八作目「真夏の記憶」

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