凍える朝
秋の風
季節があなたの体温にちかづく
どこまでも行こう、
そう言って脳髄散らしたあなたの最期は
季節外れの花火
虹色の瞳をみても、もう心は動かされない
妙な高揚感も、怪しげな熱も何も無い
触れてみたくなっても、理性がある
例えば目以外の器官でものを見ようとするようなそんな感覚がする
鼻腔をくすぐるあまい匂いは、まだ生きている
息の仕方を忘れることは無いし、心臓は己を見捨てない
だからこそ、答えは、まだ、出せないよ
大好きで大嫌いな君へ。
「答えは、まだ」
ごめんなさい
散々迷惑をかけてしまって、人を傷付けてばかりいた
私利私欲の為にあなたがたを貪ってしまった
血肉を喰らわないと生命活動を存続できない、愚かな化物
僕は人間ではない、生まれたときからそうだ
この風貌や人格や欲求は呪いのようなもので、怪物たる僕の業だ
今更人間にもなれないので、せめて息をすることぐらい許してよ
仲間になれなくて、僕はずっと独りでした
昔は散る桜が雨みたいで好きでした
でも本物の雨は好きではなくて、だから茹だるような夏が好きでした
紅葉の秋も銀の冬も好きでした
ぜんぶぜんぶ、大好きだったよ、君のことも、好きだった
この崖をまっさかさまに落ちてゆけば、僕を認めてくれる
そうあなたがたが言ったので、言う通りに身を投げ出したはいいものの、さっきから打ち付けた頭が痛い
首も折れたみたいだし四肢や肋辺りの骨も砕けている気がする
酸素が薄いしここは臭いもきつくて死にそうだ
でも、ここから上に這い上がるのなら1時間もかからないかな
ともかくまずは腕が治癒するまで待とうと思って、とりあえず転がっている肉塊に接吻した
僕はこの肉体の不味さを、よく知っている
四十作目「仲間になれなくて」
空はすっかり夕暮れで、行き交う人々は皆足早だった。
忘れ物を取りに来たと言うと、学年主任はしぶしぶ鍵を開けてくれた。自分の名前を覚えられていたことに少し驚いた。
何かを探す素振りすらせず窓に顔を近づけた。横断歩道が見える。
いつもの騒がしさも、寒すぎるぐらいの空気も、そこには無い。
やや熱のこもった風に包まれている。
あの横断歩道で、先輩が2人、死んだらしかった。
目を細めてみれば、花やら缶ジュースやらが置かれているのに気づく。
知らない人では無かった。というか、同じ部活だった。
先輩方は退部した。1週間前だ。そしてすぐ訃報を聞いた。
率直な感想は、「やっぱそうなったか」で、
次に思ったのは、「前の席の奴がニヤニヤしながらこちらを見てきて気持ち悪いな」だった。「結構美人だったのにな」などと言われても困る。
分かってはいたが、部活に行っても2人は居なかった。
優しい人だったんだけどな、と少し惜しむ。大して会話もしてなかったしそれなりの仲でも無かったが、やはり佳人薄命とは本当なのだとも思ったし、真面目な人間ほどすぐ消えるのだと知った。
後方の扉から学年主任が顔を出して僕を急かした。
「忘れ物なんてしてませんでした、ごめんなさい」
頭を下げると苦笑いをされた。
本当は忘れ物なんてしてない。ただ、あの横断歩道は通学路じゃなかったから。
それにあそこに行ってしまったら僕は傍観者でなくなる。リアルな人の声が聞こえてしまう。故人の首を絞めるような声が、死体を蹴って内臓を犯す声が。
それでも誰もいない教室から見下ろした街は、やけに綺麗に見えた。
三十九作目「誰もいない教室」
前作と繋げるのがすきすぎて困る