貴方の手を擦り抜けた試験管が、音を立てて割れた5時間目の理科室。
周りの同級生の悲鳴と先生の慌てた様子に、貴方はただ瞳を震わせていた。
私にはそのガラスの破片と、貴方の目が、とても美しく見えたんだ。
そのとき貴方と目が合って、私は誤魔化しに窓を見た。
思いの外眩しくて、目を瞑った。
ぼんやりした真っ赤な世界。
二十四作目「眩しくて」
毎日このぐらいの内容量で、このぐらいの字数で書けたらいいな。
俺はミミズが嫌いだった。いや、今も嫌いではある。
駅に向かう道中、俺はアスファルトの上で干からびているミミズを何匹も見かける。何故こんなにも温度の高いところにでてきてしまうのかは分からない。以前踏みかけてからより鬱陶しく感じるそいつらを、絶滅させたいとも思った。
ミミズは他の虫とは違う。環形動物とやららしく、なんかうにょうにょしている。泥みたいな色をしてるし、動き方もなんか嫌だ。コンクリートジャングルに住む俺と、畑に住むあいつらは分かり合えない運命なんだ。
「あっ」
思わず足を止める。ミミズだ。しかもまだ生きてやがる。
そのとき、俺の中で謎の好奇心が作用し、地面にしゃがんで子供のように観察してみることにした。一応スーツを着た社会人男性だが、人が通らないタイプの田舎なので関係無い。
ミミズの動きは蠢くというか悶えるというか、それでも懸命にからだを動かし水を求めていた。なんだか今の会社内での俺みたいだ。
こいつも、生きてんだな。小さき命から熱い鼓動を感じた文月。
二十三作目「熱い鼓動」
ミミズという生き物は、曖昧にとって特別。好きではないけれど。
ここは、天国だろうか。どこを見ても美少年、美少年、美少年……成る程、ここは天国だな。しかし何も無い…ただ、美少年達が此方に微笑みかけているだけで、これでは景色とも呼べないな。なんだこの空間は…。
一番俺好みな美少年に「ここはどこなんだ」と尋ねてみた。
どうやらここは天国でも地獄でもなく、オアシスと呼ばれる場所らしい……この美少年の集団は確かにオアシスと呼ぶに相応しいが…そもそも死後の世界なんてものが本当にあったことが驚きだ。で、俺はこれからどうすれば良いんだ…?
「お兄さんのしたいようにしなよ」と、俺好みな美少年が言う。日本人形みたいに艶のある黒髪に、愛嬌のある垂れ目。声変わりしていない彼の声が、なぜか懐かしく感じた。
「ここにいてもいいんだよ」と、美少年が宣う。
「でも、ここはオアシスだから…唯一の、休息だからね」
どういうことなんだ、と聞けば彼は表情を曇らせる。曰くここは現実で言うところの砂漠的な場所で、俺は運良くオアシスなる美少年達の集いに放り込まれたらしい。生死を彷徨っている状態だから、本当は直ぐにでも目覚めるべきだそうだ…。正直訳がわからない。
彼は俺の首筋の痣を撫でた。
「お兄さん…どうしたの?」
俺はすぐには答えられなかった。この無垢な少年が、自分の生み出した幻覚等では無くて、ましてや神の下僕たる天使でもなくて、俺の幼い頃の罪と過ちによって永遠の美少年となってしまった悲しきあの子だと気が付いたからだった。
ようやく、口を開いた。もうどうにでもなれ、と諦めた。
「君が、殺してくれるのかと思った。」
そんな訳、無いよな。そうだよな。そうだと言ってくれよ。
俺はオアシスの水で喉を潤す。毒素の含まれた、甘美で耽美な聖水。ギチギチと鳴る縄の音と、頸動脈や喉仏が絞まる感覚。この頭痛はいつになったら止むのだろう。
二十二作目「オアシス」
これはオアシスと言うよりハーレムです。皆さんも適度に水を飲み、熱中症には気をつけてください。曖昧はメンタルがクソザコなので、美少年を書くことで精神の安定を保っている☆彡
人々は戦争を繰り返す。それが一番早いからだ。武力を行使すれば、どちらが強いかすぐに決められる。この世は弱肉強食だ。たらたらと何年も争うのはお互いが同レベルだからだ。それなのに手を取り合おうとせずに優劣を付けたがるからだ。
俺達は他国の領土を奪い、先住民族を服従させたり虐殺させたりした。どんな手でも、それが祖国の為ならばなんでもやる。植民地に住む人々を動員し、倫理を捨て去り武器を振るう。首都では戦車の煩い音がただでさえ少ない睡眠を妨げていた。国民も徴兵され、今やどこを見ても戦火が盛つていた。だが戦況は良いものではない。死体に躓くことも増えた。正に地獄と言うべきだろう。
指揮官の作戦は失敗続きだ。敵国によつて潰される。この国はもう駄目だ。直感的に、軍の者は思う。然し祖国の為生きなければならない。この帝国が負けるなど国民は微塵も思つていなかつた。情報の統制がされていた。都合の悪いことはいつだつて隠されるものだ。
日毎に俺の周りからは、人が消えていつた。親友も亡くなつた。どうやら人の命は平等らしい。家族が待つ者も恋人が待つ者も友が待つ者も誰にも待たれぬ者も、どの国の者も皆等しく命を散らした。
俺も大切なものを全て失くした。俺の宝はもう戻つてこない。だが此の国には振る白旗すら用意されていなかった。
数日後、親友の家族から手紙が届いた。綴られた言葉の数々。きっと俺の他にもこんな手紙を貰った奴が居るんだろう。生き残ってしまった人間が。震えた文字と涙の跡を、俺は
二十一作目「涙の跡」
いつからか、半袖を着るのをやめていた。
明確な時期は自分でも分からないけれど、たぶん、中学生になったばかりの頃だった。制服のシャツを母さんが長袖しか買わなかったのもひとつの原因だろう。どんなに暑くても、半袖は着られなかった。それどころか腕捲くりもしたくなかった。
それは、成長に対するせめてもの抵抗だろうか。少食のせいか今でも確かに躰は細いけれど、肌にはうっすらと毛が生えてきていた。いつこの美しいソプラノの声が枯れるのだろうか。僕の唯一の自慢の愛らしいこの顔が、いつか、醜くなってしまうのが怖い。僕は大人になることに怯えていた。美しい少年のままで居たい。だから隠さなきゃいけないんだ。
同じ学校の生徒やその家族や近所のおばさんが、僕を美少年だと言って持て囃す。それが僕にとっての守らなくてはならない日常だ。それが崩れたら僕は死ぬ。美しさ以外に生きている価値なんて無い。
ときどき子供の頃の夢を見る。夢の中の自分はいつも半袖を着て、無邪気に笑っている。無駄に抗う僕を嘲笑っているのだろうか。きっとそうだろうな。だってあの頃は、大人になりたくないなんて思ってもなかった。ただ今を生きて、今が楽しくて仕方無くて、自分が美少年だともすら思わなかった。
嗤えよ。好きなだけ嗤ってくれ。外面だけは取り繕うから。
二十作目「半袖」
美少年と夏がすき