曖昧よもぎ(あまいよもぎ)

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今日、僕は君と飛び立つ。

白い翼も何も無い僕と君は、この古びた校舎のてっぺんから飛び降りる。学ランは着たままで、靴は脱いでおく。

もう決めたことだ。今更後悔などない。寧ろ今日遂行しなければ、
どうせ明日また後悔をしてしまう。

今日しかない。

風は強い。昨日は雨がふっていたから、地面は滑りやすくなっている。絶好の機会だった。逃す訳にはいかなかった。

思えば、僕と君は1秒たりとも離れたことはなかった。

心はいつも近くにあり、つながっている。誰にも断つことのできない強固なものでありながら、常にそよ風に揺られて切れかけている脆い赤い糸。

遂に、遂に終わる。

この無意味で無価値な生が、自分の身体は弾け飛ぶ。

積雪に大きな岩を落としたような音が響いて、僕と君はようやく一つになれる。

屋上の鍵は閉めた。意気地なしの君が逃げ出さないように。

内臓みたいな色をした空を見た。

僕の身体は投げ出され、君を道連れに落ちていく。

スローモーションみたいだった。ようやく、死を理解した。

生きることにも死ぬことにも、そこに意味など無かったのだろう。

それでも、もしもあの日の君の目にうつったのが僕じゃなかったのなら、いつか見た空が黒くなかったら、たぶん、僕はまだ生きていた。


三十二作目「君と飛び立つ」

8/21/2025, 11:33:31 PM