やさしさなんていらなかった。
一刻も早く、こんな体躯に閉じ込められてしまった臓器達を解放してあげたい。
愛されないと死んでしまうが、反対に、愛されなければ死ねるのだ。
僕はずっと考えていた。
どうすれば生きたいと思えるか、そのために、どうすれば君に愛されるか。
容姿も言動も性格も、何もかもに気を遣った。
君の好みになりたかった、ただ、愛されたいが為に自己を捨て他人の理想に成り代わった、それが今の僕で昔の僕はまるで別人だ。
それでも塵屑は塵屑のままで変わらず、僕はいつまで経っても結局流れる血は変えられずその毒を巡らせ続けている。
だからもう辞めにしたい。
僕は演技が下手だから、それに思ってもないことをつらつら口に出せなかったし、相当な苦労を以て他人になった。
でも全部無駄だった、僕は幸せにはなれないから、君に愛されなかったから。
中途半端な好きも愛も要らない、やさしさなんて要らない、早く殺してよ、そしたらようやく、生まれてきたことを後悔しなくなるから
二十七作目「やさしさなんて」
いつだって、心の羅針盤の指し示す方角へ歩いてきた。
それが招く結果が幸か不幸かは分からずとも、自分の気持ちに正直に生きていたいと思っていた。
だがその偉大なるコンパスは狂ってしまった。
自分は遭難した、広大で荒れ狂う海の中。
そのとき気が付いた。
自分が乗っていた船は豪華客船でもなくて、マグロ漁船でもなくて、
ただ、泥に塗れ船の形を騙る木片であると、或いは温度の無い鉄の塊であると。
あぁそうだな、これからはもう、沈む以外に無いんだ。
社会の荒波に呑まれて精神を擦り減らした。
心の羅針盤は正しかった、しかし、脆かった、耐えられなかった。
でももう必要無い、行く場所はひとつ、水底へ堕ちるだけだから
二十六作目「心の羅針盤」
曖昧がだいすきな曲を彷彿とさせるキーワード。
現在精神的な問題で執筆が難しく、日を空けての投稿が続くと思います。最近はずっとそうだったので今更それ言うのかという感じですが…。それと、いつも♡をくださる方々には本当に感謝しています。
明確に、打撃を与えた出来事があった。
できることなら過去に戻ってやり直したいぐらいの。
後悔ばかり募っていく。ぐちゃぐちゃしたどす黒いものが心を蝕む。
あのとき、会うことにしていれば。
あのとき、かけた電話を切らなければ。
あのとき、繋いでいた手を離さなければ。
あのとき、甘えていれば。
あのとき、好きだと言えたなら。
だったなら、どんなに良かっただろう。
この世界は理不尽だ。僕らははじめから幸せになれない運命だった。
そう分かっていても、多分、好きになるんだろうけどな。
ただいま、夏。外は暑かった。あの日も暑かった。あれから直に涼しくなって、寒くなって、暖かくなって、また、暑くなってしまった。
これからまた涼しくなるんだろう。また、寂しさを抱えたまま一年、二年、三年が過ぎていくのだろうか。冷たくなる前に会いに来てよ。
二十五作目「ただいま、夏。」
お互い生きていて自由に交流ができるうちに、好きな人には好きと伝えましょうね。曖昧は皆様を応援しております。
「ぬるっ…」
思わず、口にした。取り出し口に突っ込んだ手を引っ込めたぐらいに冷えていたコーラが、その温度を保っていると勘違いしていた。
そりゃこの炎天下の公園で、思いっ切り日向のベンチで。手だって汗ばんでる。それでも冷えていて欲しかったと思うのは我儘だろうか。
「ごめん」
そのとき、久し振りに君の声を聞いた気がした。聞きたかったのはその三音じゃなかったけれど、まぁ、良いのかな。
「もう待ってなくていいよ」
君の言葉は地面に吸い込まれていく。別にそれだって聞きたかった音じゃなかったし、どうせなら「待ってくれてありがとう」の方がマシだった。君はいつもこうだ。だから僕は君が世界一大嫌いで大好き。
「暑いから、帰って」「嫌だ」「なんで」
君こそこんなクソ暑い中で長袖で、汗が滴り落ちている。そんな奴に心配される筋合いは無い。しばし押し問答を繰り返したあと、「…わかったよ」と君は諦めたように立ち上がって、僕に背を向けた。帰るのか。そうかそうか、冷房の効いた部屋でゆっくり休め。
「…あつい……」
僕はと言うと、その場から立てずにいた。なんだか頭がぼーっとしてくる。空は青く澄んでいる。白んだ眩しい視界。そっと目を閉じて、全てを無に帰す。
「つめたっ…」
「コーラ」「え、え…?」
頬にぴしゃりと冷たいものが当てられて、僕は現実世界に引き戻される。君の顔が逆さまに見えている。両手にはコーラ。その片方を僕に手渡してきて、つい受け取る。帰ってなかったのか。
「ぬるいのは俺のね」
「あ、ありがとう…?」
プルタブを押し上げる。口をつけると、すぐに冷たいしゅわしゅわが喉を潤してゆく。美味しい。
「なにこれ、こんなに待ってたの?」
僕の隣で、ぬるい炭酸と無口な君がにらめっこしている。また前みたいに本音で話せるまで、生涯捧げて待っていようか。
二十四作目「ぬるい炭酸と無口な君」
このあと、「ていうかこれ間接キスじゃん」って話で盛り上がります。なんか、仲いいけど本音で話せない関係性ってありますよね。
曖昧は炭酸が飲めないので、飲める人にちょっと憧れています。
貴方の手を擦り抜けた試験管が、音を立てて割れた5時間目の理科室。
周りの同級生の悲鳴と先生の慌てた様子に、貴方はただ瞳を震わせていた。
私にはそのガラスの破片と、貴方の目が、とても美しく見えたんだ。
そのとき貴方と目が合って、私は誤魔化しに窓を見た。
思いの外眩しくて、目を瞑った。
ぼんやりした真っ赤な世界。
二十四作目「眩しくて」
毎日このぐらいの内容量で、このぐらいの字数で書けたらいいな。