曖昧よもぎ(あまいよもぎ)

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はじめての体験に、僕は気が付いた。
日常とは、活動写真のようなものだったのだ。
僕を中心に廻る世界と見せかけ、別に僕を中心としている訳では無かったが、たしかに生涯主人公は僕である。

人々が地動説を信じ、反する思想の者を殺すように、人はときに正しさを歪める。
いつでも自分や、多数派だけが正しいことのだと思い上がっている。
それを見下しもしたし、なんて醜悪たる争いだろうとも感じた。
それを打ち明けたらあなたは笑うかもしれないけど、本当だった。

自然の風景はいつだって本物で、誇張も無ければ謙遜もしない。
その優雅さに見惚れる心があるのなら、人間の体も捨てたものではないのだろう。
いや、寧ろ僕は妙な居心地の良さに溺れている気がする。
鏡を覗く度うつる己の姿を、なぜか気に入った。
重瞳と不揃いな臓器ごとあなたが愛してくれるなら悪くないのかもしれない。

はじめ、僕は何処にも存在しなかった。
自分自身に生きている感覚があり、人々も僕が居ると思っていたけれど、僕自身は何処にも居なかった。
僕は祀られていた。それが崇拝か畏怖かはさておいて、僕は所謂“かみさま”という扱いをされていた。
実際人間ではなく、今だってヒトの形を象った化け物であることに変わりはない。
だが、この白く脆い皮膚の中に自分を閉じ込めてからというもの、当たり前に佇む自然の営みが無性に愛おしくなる。
あなたはそれを感情の芽生えと宣った。


あの瞬間、僕はあなたと出逢い、あなたと話し、あなたと咲った。
うまれて初めて、僕は望みを持って、明確に生への渇望を感じた。
だからこの活動写真も、喉の奥の変な乾湿も、きっと忘れない。
もし僕が忘れてしまったら、あなたが思い出させてくださいね。



三十一作目「きっと忘れない」
人間と人外のブロマンスに囚われて幾星霜

8/20/2025, 10:56:10 AM