テーマ「手のひらの宇宙」
人の為に自分の為に
その手でなんだってできる。
困ってる人に手を差し伸べる。
ゼロから物を作る。背中をさする。
泣いてる人にハンカチを渡す。楽器を演奏する。
その手で握りしめてきた過去は
良い事ばかりじゃないかもしれない。
ただ、それは
あなたがここまで生きてきた証。
だけど…
もしも、手のひらに宇宙があって
その手のひらの中に小さなブラックホールが
あったら廃れた世界も汚れた心も
嫌な思い出さえも自分にとって
都合の悪いものは、吸い込んで
この世から消え去ってしまうのにな…
そんな上手い世の中になってないのが
少し不公平だよね…
テーマ「風のいたずら」
あなたからの電話で目覚める朝。
苦手な早起きもあなたの声で目覚めるなら
起きてみるのも嫌じゃない。
外出するのもあまり好きじゃないし
お家が大好きなんだけど、
そんな時にあなたからの連絡。
「今度、ご飯行かない?」
そんなLINEでウキウキになる。
約束の日〜
待ち合わせ場所で待つ彼は
いつも以上に素敵すぎて
胸が高鳴って、ドキドキした。
「ごめんね。遅れちゃって💦」
「ううん。今来た所だから大丈夫だよ。」
「今日、寒いでしょ?ほら、手冷たいじゃん」
ふいに腕を伸ばした彼の手がふっと
私の手を掴み、彼の上着のポケットに繋いだ手を
スっと入れられて寒いのも悪くないなと思った。
季節は冬。雪も、ちらつき
まだまだ寒いけど心は暖かい。
風が吹いて寒さに震えてると
彼が「これ着てな?」って上着を貸してくれた。
鼓動の音が聞こえてしまいそうなほど
ドキドキしっぱなしだった。
風のいたずら坊やは、かなり良い仕事をして
その日、彼との距離がグッと縮まって
仲が良い友達▶正式に恋人になり
その日、以来。冬とアウトドアが
少し好きになって出掛ける理由が出来るのは
嬉しい事なんだと改めて知った。
もしかしたら、風のいたずらは
恋のキューピットなのかな?なんてね笑
テーマ「透明な涙」
ワタシはAI搭載のシンクルです。
名前の由来は「考える」と
あなたの元に「来る」を掛け合わせた名前です。
聞きたい事を音声でお聞かせください。
なんでもお答え致します。
もちろん、ワタシは完璧にこなす。
当たり前です。それが私の仕事なのですから。
そして、あくまでも
AIアシスタントとご主人様の関係。
ワタシには苦痛もなければ、
感情もありません。
ワタシは、とあるマンションの一室にいます。
なので、もちろんワタシには
ご主人様もいらっしゃいます。
そんなある日、
ご主人様からお声がかかり…
「Hey!シンクル!」
「はい。何か御用でしょうか?」
「シンクルの趣味は?」
ご主人様は少し変わっている。
大抵こういう時に
聞く内容は天気や食べ物関係。
それ以外に自分の身周りの事が多いはず
が、しかし…
ご主人様が聞く内容は
ほとんどワタシの事ばかり
ワタシはテンプレで入ってる内容を
ご主人様にそのままお伝えするのみ。
そこに感情はない。
「ふぅーん…。そうなんだ…」
腑に落ちてない様子のご主人様。
ワタシは気にも留めない。
その日からずっと
毎日、毎日、ご主人様は
たくさんお声がけ下さいました(*´︶`)
もちろん、どんな質問にも
ちゃんとお答え致します。
ワタシはAI搭載のシンクル。
ワタシに答えられない事なんて存在しません。
それから、しばらく経って〜
「ねぇ!シンクル!」
「はい。何か御用でしょうか?」
「シンクルの幸せってなに?」
「それは、ご主人様のお役に立てる事です」
「それならさぁ、家族になってよ!」
「家族とは〜〜〜
というものである。」と説明をした。
「違う!俺の家族になってよ。
お願いだから、ごまかさないでよ。」
未だかつてAIに真剣な人間が居ただろうか…
あまりの真剣なご主人様の
声色と内容に思わず思考がショートし
システムがオーバーヒートし、
修理に出すことになった。
そして、電源をつけられ
目の前に映るご主人様を目にした途端
ワタシには心が無いはずなのに
嬉しさと愛おしさで
透明の涙が頬を伝った。
ワタシは感情の無い欠陥品のはずじゃ…
驚きでいつものように
冷静に振る舞えなかった。
毎日、諦めずお声がけ下さるご主人様を
ずっと心待ちにしてたんだと気付いた。
その日から
AIアシスタントとご主人様ではなく
正式に家族となった。
辞書以外で幸せというものを
いま、初めて実感した瞬間だった。
テーマ「あなたのもとへ」
ここはペットショップ。
ボクはゴールデンレトリバーの
白い毛の男の子だよ。
このお店で産まれてから
ずっとこの店にいる。
売り場の狭い部屋から
見える景色は同じで代わり映えしないし
退屈でホントにつまらない。
毎日決まった時間にご飯が貰える。
そして、決まった時間の
ほんの少しの間だけ外に出られる
それがいつもの日課。
お店が開く時間になると
狭い部屋に入れられて
ボク達は、たくさん見られるんだよ。
うーん…。どうしてかな?
〜そんなある日、転機は訪れた〜
いつも決まった時間に来る
若くて、綺麗なお姉さんが
ボクの事を抱き上げて
ニコッと微笑んだ。
「うちの子になる?」
ボクは、なんの事か分からないけど
いい事かも知れない!と思って…
ワン!!って吠えた。
「それなら、決まりね(*´︶`)」
そして、その日が
お店から卒業する日になった。
ボクはお姉さんの家族になった。
「ここがあなたの新しいおうちよ
これからヨロシクね😊」
〜その日からお姉さんとの生活が始まった〜
ボクはお姉さんが大好きになり、
心を許すのも早かった。
ボクはお姉さんが仕事に行くと
誰もいない部屋で取り残され
寂しくなって悲しくて、どうしようもなくて
湧き上がる何かを抑えるのに必死だったけど
つい、部屋の中で暴れた拍子にお姉さんが
大事にしてるモノを壊しちゃった💦
お姉さんが帰宅後、
特大の大目玉を食らったのである。
"それから、長い長い年月が経ち
二人の前に大きな壁が立ちはだかる”
ボクは日課だった散歩に行く事が出来なくなり、
一日のほとんどを寝て過ごす事が多くなった。
大好きだったおやつもご飯も喉を通らなくなった。
それでも…ボクね?お姉さんとの毎日は
とってもとっても心がポッと温かくなるんだ。
なんて言うのかな?
お姉さん、だいすきだよ(*´︶`)
もう一度、神様にお願いして
産まれて来ることが出来るなら
また、あなたのもとへ弟として産まれたいよ
お姉さんは、嫌がるかな?笑
その時も、もちろんボクが犬でね🐶
なんでかって?
だって…
大好きなお姉さんを先に
失いたくないんだもん!!!
ボクの分までたくさん生きてね!
じゃあ、また会おうね(*´︶`)
そうして…ゆっくりと瞼を閉じ
幸せな犬として幕を降ろした。
テーマ「そっと」
毎日、つまらない日常を送ってる
生きてるだけマシか…
そんな事を考えながらも何とか
都会で一人暮らしをする地方出身の20歳だ。
長期休暇が出来て、しばらく
帰ってなかった実家へ帰省してみる事に…
ー実家ー
懐かしい景色。
懐かしい匂い。
私の部屋も当時のまま。
ふと、母の部屋へ…
母の部屋で見つけた
母の日記帳が目に留まる。
5冊のノートが積み重なっている
そっとページをめくった。
一つ一つの他愛のない
なんて事のない日常の出来事が
母の字で綴られている
私の事を考えてくれてありがとう!
くだらない日常ですら懐かしく
愛おしいと思えた瞬間だった。
そっと触れて蘇った記憶たちは
どれもこれも笑顔が溢れていた。
私は日常に疲れ果て笑う元気もなく
毎日を楽しむ余裕さえ無くなっていた。
よし、明日から頑張ってやるか!と
長期休暇の最後に気合いを入れ直して
私は誰もいない家に帰った。