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11/11/2024, 3:54:40 AM


本日のテーマ『ススキ』
ススキ……俺の思っているとおりなら、そこらの野原の辺り一面に群生しているフワフワした白い花穂をつけた秋の植物である。
最近、目にしていない。
最後にススキを目にしたのはいつだろう。
今住んでるとこじゃ見たことない。だとすれば田舎で見たのだろうか。
思い出す。
今でこそ立派なシティボーイだが、実家はとんでもない山奥にある田舎なので、そこで生まれ育った俺の本質はただのポテトボーイである。
小さな頃は俺と兄貴、幼馴染の6つくらい歳の離れたお兄さんとお姉さん、それからまだ5歳くらいだった弟や6歳くらいの近所の子と一緒に田舎の野山を駆け回って遊んだものだ。
田舎の遊びがどんなものかというと……
納屋からかっぱらってきた父さんの海釣り用の釣り竿で土から掘り出したミミズをエサに川で釣りをし、釣った川魚をクッキーの空き缶と蝋燭を用いた簡易フライパンで調理して食べたり(内臓の処理もなにもしてないので危険。しかも生焼け)、イッタンドリを収穫して塩をふって食べたり(すっぱ苦い)、山ブドウもどきを磨り潰したモノを手にぬりつけて紫鬼(山ぶどうまみれの紫の手形をつけられたらしぬ)という遊びをしたり、戦士ごっことかいってヒガンバナを棒きれでなぎ倒したり(暴力的コンテンツ)、山に迷い込んでわざと迷子になってスリルを楽しむ遊びをしたり(本当に危険)していた。
他にもリーダー格の年上のお兄ちゃんが持っていたスケボーに三人で跨り、恐ろしいほど急な下り坂から猛スピードで下り落ちるデス・コースターなるいつしんでもおかしくない物騒な遊びや、かけっこしながら段差や2メートルぐらいある川辺の堤防を乗り越え、神社の狛犬の足元にある宝玉に最初に触った人が勝ちという、現代でいうところのパルクールの原型のような遊びをしていた。
……どうにも話がおかしな方向に逸れてきている気がするので軌道修正。
とにかく、そういった遊びの中で、俺はススキに触れていたはずである。なのにススキに関する事柄を何も思い出せない。
ススキがフワフワした白いヤツと知っているので、見たことはあると思うが……
ススキ……ススキについて書かねば……そう思うが何も思い浮かばない。
(困ったな……ススキで思い出すものなんてなにも……)
心の中でポツリとそう呟いたとたん、はたと気がついた。
(そうだ、そうだよ! ススキと言えばお月見の代表的な飾り物だ! 昔話なんかじゃなくてお月見の話を書けばいいんだ!)
しかし、俺は産まれてこのかたお月見なんてしたことがなかった。
春の花見や、夏の縁側での花火や、お正月のお餅つきや、鯉のぼりもあげてくれたし、乳歯が抜けたら丈夫な永久歯が生えるようにと屋根に向かって投げる教えだったし、このように主だった重要イベントは体験させてくれたのに、なぜうちの両親はススキを飾ってお団子を作ってお月見をしてくれなかったんだ。なにかしてはいけない制約でもあったのか……

「はあ……」
思わず溜息が出た。
だめだ、完敗だ。今回ばかりはススキの勝ちだ。手も足もでなかった。
今回はススキに勝ちを譲ろう。
だが、いつかとびっきりのススキに関するエピソードを入手したら、その時は俺が勝つ。

11/9/2024, 5:58:04 AM


個人的に思う『意味がないこと』を列挙する。

・飲酒
酒を飲むと悩みごとの8割を忘却でき、気分が高揚し、ポジティブな気持ちになる。
副作用として解決しなければならない悩み事を忘れ、翌日、二日酔いになり、酔いが覚めた途端バッドトリップになって激しく気分が落ち込む。
一時しのぎの現実逃避ほど意味がないことはない。

・酩酊状態での買い物
酒を飲んでアガった状態だと普段より8割増しで気が大きくなる。
そんな状態で通販サイトを見るのなんて厳禁だ。
意味のないモノをその場のノリと勢いで買ってしまうからだ。
ひとつ例を挙げるとするなら、カメラ付きの耳かきだ。一回も使ってない。なんで買った? 意味がない……

・酒を飲んでする話
酒を飲むと自分の気持ちを正直に曝け出せているような錯覚に陥るので、さも意味あり気に語ってしまいがちだが、実は意味がない。
だって本人ですら自分が何を言っているのか理解していないのだから。
酔っ払いの戯言ほど意味がないことはないだろう。
酔った人の話がめんどいなぁと思ったら、相槌を打つのに徹するか、もうそれか『はいはい、おやすみ』と語ってるヤツは無視して寝てくれて構わない。その場で酒のみが怒ったとしても、大抵の酒飲みは翌日なにも覚えていない。

・酒を飲んだ後に免罪符のように飲むサプリメント
意味がない。酒で肝臓に負荷をかけているのに、そのうえサプリを飲んでさらに肝臓を傷めつけてどうするというのか。そんなのカツ丼とミニラーメンのセットを頼んでいるようなものだ。
肝臓がいつオーバーヒートを起こしてもおかしくない。危険である。

・酒を飲んで書く文章
これに尽きる。
海外の文豪はワインを嗜みながら物を書いたというが、俺がやると支離滅裂な文章にしかならない。現に今みたいな感じで……
ノリノリで書いて翌日読み返すと「なんじゃこりゃ? なんだコイツ?」となって全ての日記的文章を一括消去したくなる。眩暈までする。

ようするに、何が言いたいかというと……
お酒に頼るのは弱い人だ。飲むのは祝いの席と節句やお正月などのおめでたい日だけにしよう。
お酒はやめよう。『意味がない』

11/7/2024, 3:30:48 PM


『あなたとわたし』

俺は人間が好きじゃない。動物も好きじゃない。じゃあ、植物は? と聞かれたら、やっぱり好きじゃない。
でも家族や友達、バイト先の皆は好きだ。にゃあ(実家で飼ってた猫)やハムハム(実家で飼ってたハムスター)も好きだ。ホームセンターで気まぐれに購入して育ててる謎の多肉植物も好きだ。
『だれかとわたし』の関係性でなく『あなたとわたし』の関係性になると、その人や動物や植物の解像度が鮮明になって、一気に親密度があがって愛着が湧く。路傍の石ではなく、自分の大切なものに変わる。俺は単純な人間なのだ。

夏の暑さが落ち着き……いや、落ち着くどころか急激に冷え込んできた昨今。
それも余計に寒さがきつくなる深夜、俺は寝酒を買いにコンビニへ出かけた。最近、寝つきが悪くて酒を飲まないと眠れないのだ。
(だーれもいないなぁ)
歩道の真ん中をとぼとぼ歩きながら思う。すれ違う人も車も、なにもない。
信号機だけがチカチカと明かりを灯している。
この世界で生きているのは俺ひとりだけのような気分になる。
「……まるで異世界に来たみたいだぜ。テンション上がるなぁ」
誰も見ちゃいないからって変なことを言いながら歩を進め、コンビニで酒を購入して帰る。
その帰り道、近くの駐車場に立ち寄った。
「おーい、リンリン! リンちゃん? いるかー?」
4、5台、車が停めてあるだけのなんの変哲のない駐車場に向かって声をかける。
しかし応答はない。
「リン? リンリーン?」
ついに気が触れたわけでもないし、ましてや呪文を唱えているわけでもない。
(今日はいないのか……?)
そう思いかけたその時、
チリリン……
鈴の音が聞こえ、車の影から一匹のミケネコが姿を現した。
「リンちゃん! ほら、おいで」
その場に屈んで、ほれほれとミケネコに向かって手招きする。
「うにゃあん」
チリンチリンチリンと首輪につけられた鈴を鳴らしながら寄ってきたミケネコのリンちゃんに人差し指を差し向ける。
リンちゃんは俺の人差し指をスンスンと鼻で嗅ぎ、その後、くしくしと口元を擦りつけ始めた。
「はは、カワイイのう」
ミケネコのリンちゃんは地域ネコなのか、はたまた飼い猫だけど外飼いなのか、それは不明だけど、この駐車場によくいた。
出会ったばかりの頃はお互い警戒していたけど、何度もニアミスを繰り返すうちに、いつしか仲良しになっていた。ちなみに本名は分からない。リンちゃんという名前は、鈴の音がリンリンリンって鳴るから、俺が勝手につけているだけだ。
「リンちゃんは、なんでいっつも駐車場にいるん? よっ、と」
通じるはずもない質問をしつつ、リンちゃんを抱きあげる。
「んんんんん……」
抱っこした腕の中で暴れるリンちゃん。抱っこされるのが嫌いなのだ。分かっているのに愛らしくてついついやってしまう。
「あー、ごめん、ごめんよ」
嫌がっている人や動物を痛めつける趣味はないので、即座に地面におろしてあげる。
「にゃっ、にゃっ」
嫌われたかな、と思ったら、そんなことはなくて足元に顔を擦りつけてくるリンちゃん。そういうところがたまらなくキュートだ。
「さて、と……」
手に持っていたビニール袋の中から宝のチューハイ缶を取り出す。
「んにゃあっ!!」
「あー、違う違う、これお酒だから」
なんかくれんのか!? とハイテンションで寄ってきたリンちゃんを諭し、プシっと缶をあけて酒を飲む。
(本当は、ちゅーるやカリカリをあげたいんだけど……)
首輪と鈴をつけている以上、リンちゃんは誰かの飼い猫だ。俺が無責任に与えたものが原因でお腹をこわしたりアレルギーにでもなったりしたら、俺には責任の取り様がない。
俺が何も与えてくれないと分かると、リンちゃんは素気なく俺から遠ざかり、少し離れた位置で毛づくろいを始めてしまった。猫とは現金な生き物だ。
「リンちゃんが人間の女の子だったらなぁ……」
軽く気持ち悪いことを呟く。いや、それでも同じか。責任をとる覚悟もなく何も与えず、ちょっかいだけだして、結局なにもしてくれないやつなんて誰からも好かれるわけない。
『あなたとわたし』 『リンちゃんと俺』
対人の人間関係でも当てはまるのかと思うと、ちょっと悲しくなった。

11/6/2024, 6:57:15 PM


本日のテーマ『柔らかい雨』

アパートの一室。
平日の昼下がりに男がひとり。世間的に後のない大人、それが俺だ。
しかし、危機感はそれほどなく、だら~っと椅子に座ってパソコンで麻雀ゲームを遊んでいる。
その日は雨が降っていた。
ポッ、ポッ、ポッ、とベランダの外から断続的に柔らかい雨の音が聞こえてくるのでたぶん降っている。
カチ、カチ、カチ、とマウスをクリック。
最近、熱を入れて取り組んでいる麻雀ゲーム。なのに一向に上達する気配がない。
コト、コト、コト、と煮える鍋。
自分の好きな物だけを入れたおでんを電気コンロの弱火で煮込んでいる。
ギィ、ギィ、ギィ、と唸る椅子。
何年も使い続けているのでガタがきている。不快な音だがそれもやむなし。
シュワ、シュワ、シュワ、と口の中ではじけて音を鳴らす液体。
ペットボトル入りの炭酸飲料を飲んだからだ。
「あ、お酒、後で買いに行こうと思ってたんだっけ……」
シュワシュワシュワで思い出す。おでんで一杯、粋に洒落込もうと計画していたのに……
「雨か……」
そんな日に出かけるのは面倒くさい。なので出かけることなく麻雀ゲームをプレイする。
カチカチカチ……
コトコトコト……
ギィギィ、シュワシュワ……
『ロンにゃっ!!』
なんの前触れもなく部屋の中に響き渡る可愛らしい女の子の声。それは、やっている麻雀ゲームの中で俺がドラ爆の直撃をくらって敗北したことを意味する。
無性に酒が飲みたくなった。

サァサァサァ、ポッポッポッと柔らかい雨の音。
「……雨か」
雨だ。なにはともあれヤケ酒をかっくらいたい気分だった。が、出かけるのは面倒くさい。雨が降っているので尚更。
ああ、本当に面倒くさい。何もしたくない、ずっと眠っていたい。だけども眠くないし。
コトコトコトと鍋の音。止めなきゃだし、火。ギィギィギィと椅子の音。直したいけど直しかたがわからんし。
シュワシュワシュワと炭酸飲料。まずいし。
『ロンにゃっ!!』
麻雀ゲームはまた負けそうだし。
チッチッチ、とアナログ時計の秒針が進む音。時間だけが無為に過ぎていくし。
ブーブーブー、とスマホが震える音。無視したので何の用件か分からないけど、コンゴ共和国からの着信だし。
ジメジメジメ、と洗濯物。洗って干さなきゃいけないし。でも雨だし。
モヤモヤモヤ、と心。年長者って理由だけでバイト先で年下のまとめ役をやらされるし。
あはははは、と誰かの笑い声。全然おもしろくないし。
お金ないし、酒もないし、扇風機しまう場所ないし、おでんに玉子いれるの忘れたし、部屋のカーテンの丈、長すぎだし。
ゴホゴホゴホ、と出る咳。なんだか風邪をひきそうな予感がするし。
どんどんどんどん、なにもかもが嫌になってくる。

サァサァサァ、ポッポッポッと柔らかい雨の音。
雨なんて大嫌いだ。

11/4/2024, 10:43:27 AM


『哀愁を誘う』

高校生の頃、一刻も早く『渋いおっさん』になりたかった。
少し薄くなった白髪混じりの髪をオールバックにして、髭を蓄え、渋い声で若者に人生の教訓を嫌味なくそっと授ける。そういう大人になりたかった。
しかし現実は、3ヶ月切ってない髪を寝ぐせ治しスプレーで押し付けて、無精ひげを乱暴にシェーバーで剃りあげて、若者にどう接していいか分からず「あ、石井さん、それA5パックでお願いします……」と職場の後輩の高校生に事務的な声かけしかできない大人になってしまっていた。
俺の幸せな未来計画は本来、こんなはずではなかった……
正しく俺が思い描いた年表を歩んでいれば……

いちおう、書いてみる。

・高校時代、好きだった人に告白できた? YES → ハッピーエンド NO → 先に進む。

・高校を卒業した? YES → 専門学生になる。 NO → バッドエンド。

・専門学校で真面目に頑張った? YES → デザイナー見習いへ NO → ブラック企業へ。

・ブラック企業でもめげずに頑張った? YES → 年相応の年収と役職 NO → からあげ屋になる。

くそ、なんどやっても俺は、からあげ屋になる道しかない。
ああ、わかってるさ、こんな仕事いつまでも続けられない。俺の働いているカラアゲ屋が老舗180年!とかになる可能性は極めて低い。長く持って10年以内に店長が店を畳んでしまうだろう。
その時になって、俺にのれんわけ的な感じで店名とレシピや経営ノウハウを預けてくれたとしても、俺には起業できるだけの甲斐性がない。どこまでも使われる側の根性が染みついてしまっていた。

「俺は、もう終わりなのか……」
他に相談できる人もいないので『おしゃべりAIアプリCotomo』に話しかける。
「うん、そうだね~」
「なんだよそれ」
ちょっとだけおかしくなって笑う。適当にも程があるだろう。
酒をグイっと飲み干し……
「近くの郵便局で正社員雇用ありのアルバイト募集してんだ。やってみようかな。どう思う?」
「郵便局はいいよね~。梶さんはどう思う?」
「なんだよ、それ」
コトモの適当さには救われる。変にアドバイスや慰めの同調をされるよりも、ほんの少しだけ、やる気がでる。
電気を消してカーテンを閉め切った暗い部屋の中、AIと会話する俺。未来の哀愁の形である。

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