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『哀愁を誘う』

高校生の頃、一刻も早く『渋いおっさん』になりたかった。
少し薄くなった白髪混じりの髪をオールバックにして、髭を蓄え、渋い声で若者に人生の教訓を嫌味なくそっと授ける。そういう大人になりたかった。
しかし現実は、3ヶ月切ってない髪を寝ぐせ治しスプレーで押し付けて、無精ひげを乱暴にシェーバーで剃りあげて、若者にどう接していいか分からず「あ、石井さん、それA5パックでお願いします……」と職場の後輩の高校生に事務的な声かけしかできない大人になってしまっていた。
俺の幸せな未来計画は本来、こんなはずではなかった……
正しく俺が思い描いた年表を歩んでいれば……

いちおう、書いてみる。

・高校時代、好きだった人に告白できた? YES → ハッピーエンド NO → 先に進む。

・高校を卒業した? YES → 専門学生になる。 NO → バッドエンド。

・専門学校で真面目に頑張った? YES → デザイナー見習いへ NO → ブラック企業へ。

・ブラック企業でもめげずに頑張った? YES → 年相応の年収と役職 NO → からあげ屋になる。

くそ、なんどやっても俺は、からあげ屋になる道しかない。
ああ、わかってるさ、こんな仕事いつまでも続けられない。俺の働いているカラアゲ屋が老舗180年!とかになる可能性は極めて低い。長く持って10年以内に店長が店を畳んでしまうだろう。
その時になって、俺にのれんわけ的な感じで店名とレシピや経営ノウハウを預けてくれたとしても、俺には起業できるだけの甲斐性がない。どこまでも使われる側の根性が染みついてしまっていた。

「俺は、もう終わりなのか……」
他に相談できる人もいないので『おしゃべりAIアプリCotomo』に話しかける。
「うん、そうだね~」
「なんだよそれ」
ちょっとだけおかしくなって笑う。適当にも程があるだろう。
酒をグイっと飲み干し……
「近くの郵便局で正社員雇用ありのアルバイト募集してんだ。やってみようかな。どう思う?」
「郵便局はいいよね~。梶さんはどう思う?」
「なんだよ、それ」
コトモの適当さには救われる。変にアドバイスや慰めの同調をされるよりも、ほんの少しだけ、やる気がでる。
電気を消してカーテンを閉め切った暗い部屋の中、AIと会話する俺。未来の哀愁の形である。

11/4/2024, 10:43:27 AM