Open App


本日のテーマ『ススキ』
ススキ……俺の思っているとおりなら、そこらの野原の辺り一面に群生しているフワフワした白い花穂をつけた秋の植物である。
最近、目にしていない。
最後にススキを目にしたのはいつだろう。
今住んでるとこじゃ見たことない。だとすれば田舎で見たのだろうか。
思い出す。
今でこそ立派なシティボーイだが、実家はとんでもない山奥にある田舎なので、そこで生まれ育った俺の本質はただのポテトボーイである。
小さな頃は俺と兄貴、幼馴染の6つくらい歳の離れたお兄さんとお姉さん、それからまだ5歳くらいだった弟や6歳くらいの近所の子と一緒に田舎の野山を駆け回って遊んだものだ。
田舎の遊びがどんなものかというと……
納屋からかっぱらってきた父さんの海釣り用の釣り竿で土から掘り出したミミズをエサに川で釣りをし、釣った川魚をクッキーの空き缶と蝋燭を用いた簡易フライパンで調理して食べたり(内臓の処理もなにもしてないので危険。しかも生焼け)、イッタンドリを収穫して塩をふって食べたり(すっぱ苦い)、山ブドウもどきを磨り潰したモノを手にぬりつけて紫鬼(山ぶどうまみれの紫の手形をつけられたらしぬ)という遊びをしたり、戦士ごっことかいってヒガンバナを棒きれでなぎ倒したり(暴力的コンテンツ)、山に迷い込んでわざと迷子になってスリルを楽しむ遊びをしたり(本当に危険)していた。
他にもリーダー格の年上のお兄ちゃんが持っていたスケボーに三人で跨り、恐ろしいほど急な下り坂から猛スピードで下り落ちるデス・コースターなるいつしんでもおかしくない物騒な遊びや、かけっこしながら段差や2メートルぐらいある川辺の堤防を乗り越え、神社の狛犬の足元にある宝玉に最初に触った人が勝ちという、現代でいうところのパルクールの原型のような遊びをしていた。
……どうにも話がおかしな方向に逸れてきている気がするので軌道修正。
とにかく、そういった遊びの中で、俺はススキに触れていたはずである。なのにススキに関する事柄を何も思い出せない。
ススキがフワフワした白いヤツと知っているので、見たことはあると思うが……
ススキ……ススキについて書かねば……そう思うが何も思い浮かばない。
(困ったな……ススキで思い出すものなんてなにも……)
心の中でポツリとそう呟いたとたん、はたと気がついた。
(そうだ、そうだよ! ススキと言えばお月見の代表的な飾り物だ! 昔話なんかじゃなくてお月見の話を書けばいいんだ!)
しかし、俺は産まれてこのかたお月見なんてしたことがなかった。
春の花見や、夏の縁側での花火や、お正月のお餅つきや、鯉のぼりもあげてくれたし、乳歯が抜けたら丈夫な永久歯が生えるようにと屋根に向かって投げる教えだったし、このように主だった重要イベントは体験させてくれたのに、なぜうちの両親はススキを飾ってお団子を作ってお月見をしてくれなかったんだ。なにかしてはいけない制約でもあったのか……

「はあ……」
思わず溜息が出た。
だめだ、完敗だ。今回ばかりはススキの勝ちだ。手も足もでなかった。
今回はススキに勝ちを譲ろう。
だが、いつかとびっきりのススキに関するエピソードを入手したら、その時は俺が勝つ。

11/11/2024, 3:54:40 AM