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6/10/2024, 8:07:41 PM

今日のテーマ『やりたいこと』

40代になったら海の近くに住みたいと思っている。そして柴犬を飼い、海の近くで海の家的なものや民宿的なものを営んで生活し、真っ黒に日焼けして健康的に過ごしたい。自転車に乗って柴犬と海に通いたい。ついでに今まで一回もやったことのないサーフィンにもチャレンジしてみたい。
しかしそうなった場合、夏以外のシーズンは仕事に困ると思うので、その時は家庭菜園で育てた野菜や釣りで捕った魚を食べて飢えを凌ごうと思う。
「…………」
先のことを考えていると、なんだか漠然としすぎていて、本当にやりたいと思っているかどうか自分でも分からなくなってきた。
なので将来的にやりたいと思っていることはまた今度にして、直近の『やりたいこと』について考えてみよう。
とりあえずパっと思いついた『やりたいこと』をリスト化してみる。

・旅行

・断捨離

・料理

まず旅行。
どこに行くかと聞かれたら、そんなのは決まっていた。もちろん温泉街だ。
旅館の天然温泉にゆっくり浸かって心身ともにリフレッシュした後、浴衣を羽織って町に繰り出し、温泉たまごをかじりながら非日常感あふれる温泉街を誰に気兼ねすることなく一人でのんびりと散策したい。
だが、そうする為には資金が必要だ。一泊二日で5~10万円程度…いや、多めに見積もって15万円程度は用意しておくべきだろう。
「…………」
俺は預金通帳に記載された残高を確認して絶望した。やりたいができない。世の中は思い通りにならないことばかりだ。

次に断捨離。
俺の部屋はいらないものが多すぎる。
そこらへんに散乱しているペットボトルや空き缶といったゴミがそうだけど、それらは資源ごみの日に出せばいいだけなので今は置いといて…
目下、処分すべきモノの一つが電子レンジだ。こいつは1年くらい前にぶっ壊れてしまった。ぶっ壊れてるくせに狭苦しい俺の部屋の貴重なスペースを堂々と陣取っている。処分しなければならない。
それからテレビ。たまに思い出したようにつけてニュースをボケっと眺める時があるが基本的には使っていない。と、書いてから気がついたけど、たまに見てるみたいなので処分するのはやめよう。
とにかく、そういう大きなものよりも、数の多い小さなものを早急に処分すべきだ。
たとえば100円ショップで買ったUSBライト。災害などがあった時の備えとして購入したのはいいが今まで一度も使った試しがない。というか開封すらしてない。そもそもスマホにライトがついてるのでいらない。処分しなければならない。
それから、やはり100円ショップで購入したデジタル時計。なんでか分からないけれど部屋の中に5つもある。しかもどこを向いても時計が目に入るように死角なく配置されているので、なんだか常に急かされているように感じて気が滅入ってしまう。処分したい…
「…………」
そんなことを考えていたらなんかもうめんどくさくなってきた。断捨離はまた今度にしようと思う。

最後に料理。
正確にいうと料理がしたいと言うよりかは生の野菜を食べたくてしかたなかった。
普段コンビニのおにぎりやカップ麺、スーパーの半額弁当ばかり食べている俺に対してビタミンやミネラルなどの栄養素をしっかり摂れと脳が命令してきているのだろう。
レタス、キャベツ、きゅうり、トマト、それらの野菜をほどよい大きさにカットしてボウルにいれてドレッシングをかけてわしわしと食べたい。
「…………」
これくらいなら出来そうだ。が、やはりというか、サラダの材料をスーパーまで買いに行ったり野菜を刻むことや洗い物のことを考えていたらなんかもうめんどくさくなってきた。
だけど野菜は食べたい。
なので今日バイトが終わったらスーパーに寄って半額弁当と出来合いのサラダボウルを買おうと思う。

ここまでダラダラと書いておいて出た結論の『やりたいこと』がサラダボウルを買うって…
ばかばかしくて笑ってしまった。
けれど、こういうしょうもない『やりたいこと』を一日に一つだけ決めて過ごすのも悪くないかもなぁと思った。

6/8/2024, 1:37:39 PM


専門学生だった頃、俺は学校をサボりながら漫画を描いていた。
その内容は『ディグラー』と呼ばれるトレジャーハンター的な職業を生業としている少女のミウと、『ガーディア』という『ディグラー』を護るボディガードのような職業に就いている少年のトモのボーイミーツガールを主軸とした冒険活劇のような物語の漫画だ。
その長編漫画の終盤、S級クラスの超難関ダンジョンに挑戦しようとする無謀なミウを引き止めてトモは言った。
「やめろ、しぬぞ! 俺は君にしんでほしくないんだ!」
ミウは微笑んだ。
「私もトモにしんでほしくない。だからあなたはここに残って。私は一人で行く…」
アップカットのコマ割りの中、ミウは決め顔で続ける。
「ここで諦めたら、きっとしぬより後悔する人生を送ることになると思うから…!」
集中線で強調された迫真極まるミウの台詞だったが、何年も経ってから黒歴史的な当時の自分の作品を読み返している今の俺には、人生経験の浅い10代少女の言葉など、ちっとも心に響いてこない。
はっきり言って『じゃあ勝手に一人で行けよ、このわからず屋め…』って感じだ。
しかし当時の若く感受性豊かな俺の心境が如実に投影されている主人公の少年トモはミウを優しく抱きしめて言った。
「……やっぱり俺も行く。君を失ったら、きっとしぬより後悔する日が続くことになると思うから」
急にミウを抱きしめたと思ったら、コイツはいったい何を言っているのだろう。今の俺からすると、ツンツン頭にハチマキを巻いて大剣を背負っているトモの心境がまるで理解できなかった。

なんてことを書くとミウとトモが救われないので、描いていた漫画のキャラクターの話はここまでにして…本題に入る。
今日のテーマ『岐路』

専門学生だった頃、俺は迷っていた。
このまま専門学校に通いながら就職活動し、仕事を見つけて無難に働くか、それともミウとトモの物語『ディグ・アンド・トモ』を書き上げて出版社に持ち込んで漫画家として華麗にデビューするか…馬鹿みたいだけど本気で迷っていた。まさしく人生の『岐路』であった。
いや迷っていたと書くと嘘になる。どっちかというと俺の中では漫画家になるという思いのほうに針が振り切れていた。盲信的に漫画家になれると信じて暴走する刹那的な思考回路の若者そのものだった。
現に当時の俺の生活は『ディグ・アンド・トモ』の制作に支配されきっていた。
昼頃に起きると洗顔も歯磨きもせずにパソコンの電源をつけて漫画の制作に勤しんだ。
自律神経の乱れと不摂生により俺の目の下には大きなクマができており、さらに何時間も安物の椅子に座りっぱなしで作業を続けていたせいで腰痛を患い、一日中パソコンのディスプレイやネタをしたためたメモ帳と睨めっこしているので視力もガクンと落ちてしまっていた。
明らかに俺の体はボロボロで休息が必要であったが、それでも構うことなく作業を続けた。疲れを感じないある種のランナーズハイ的なゾーン状態に入っていたのだ。
しかし何時間もぶっ続けで作業していると流石に疲れてくる。
たとえば深夜。いよいよ集中力が切れてくるとコンビニに向かい、エナジードリンク3本と菓子パンひとつを購入し、それらをかっくらって脳に大量のカフェインと糖分を補給すると自分を奮い立たせて漫画を描き、明け方になると疲れ果てて泥のように眠る日々が続いた。
このように荒れ果てた生活を続けていると、やはりというか当たり前だが体にガタがきた。
ある日の夜、なんの前触れもなくやってきた。耐えられないほどの謎の腹痛が…
大量に出てくる脂汗を拭いながら俺は葛藤していた。
(救急車…呼んでいいのかな…)
しかし、そうするのは何だか恥ずかしかった。そこで俺は母親の携帯に電話した。
「あぁ、母さん? いや、ちょっと…なんか、めちゃくちゃ腹が痛くてさ。え、救急車? いや、それはいいや…いや、たぶん大丈夫だけど、ちょっと意識がとびそうで、そんで、もし部屋の中で倒れてそのままになったらアレだからいちおう電話したんだけど…うん、うん、いや…救急車は大丈夫。うん、歩いて病院に行ってくるから…」
電話を切った俺は近くの大学病院の夜間受付のようなところに向かった。
激痛に耐えながらしばらく待たされた後、研修医っぽい若くてイケメンの先生とベテランの貫禄がある看護士の女性が俺を診察してくれた。
いくつかの問答をして血液を抜き取られ、しまいには大仰にレントゲンまで撮られたものの、俺の腹痛は原因不明と診断された。
その後、点滴をうってもらってベッドの上で安静にしていると次第に腹痛は治まっていった。
そしてどうなったかというと、先生いわく『キャベジンみたいなもの』という腹痛に効く頓服を処方され、あとになってまた痛くなるようだったら病院に来てくださいと伝えられて、俺はなにがなんだか分からないまま自宅のアパートに戻って休んだ。
翌日、不穏な連絡を残して音信不通となっていた俺を心配して、父さんと母さんが遠くの田舎から俺の住むアパートに様子を見にきてくれた。
「ちゃんと飯は食っとんのか…大丈夫か…?」
菓子パンとサンドイッチの空き袋、大量のエナジードリンクの空き缶、それらに埋め尽くされた部屋の惨状と、どう見ても健康そうには見えない俺の姿を見て、父さんが最初に発した言葉がそれだった。
「学校が嫌やったら辞めて実家に戻ってき。ゆっくりして体なおさんと…」
母さんは涙声で俺に訴えかけた。
ベツに学校は嫌じゃなかったが、母さんの泣き顔を初めて目にして、俺の心は酷く痛んだ。
「いや大丈夫、俺は大丈夫だから、もうちょいこっちで頑張ってみるよ。ははは…」
ヘラヘラ笑ってその場をやり過ごし、両親が帰った後、部屋を片付けた。
リアルな『岐路』が目の前まで迫ってきていた。俺を心配してくれる人達のためにも、どうにかしなければならなかった。
そこで俺はどうにかすることにした。具体的には漫画家になる夢をすっぱりと諦めて学校に真面目に通って普通に就職した。ついでに悪い気が充満するこの部屋からも引っ越した。

そして現在。
当時あれだけ熱中して描いていた『ディグ・アンド・トモ』を読み返して思う。
この作品はまごうことなき駄作だ、と。
どこかで目にしたことがあるような名シーンのツギハギで構成された物語と、見ていて恥ずかしくなるような登場人物のセリフ回し、それらに加えて致命的なほどに絵がヘタだ。とても人様に見せられるようなモノではない。
今になって思うとこの作品を出版社に持ち込こもうと思っていたかどうかすら怪しい。何かに熱中して現実から逃れようとしていただけのような気もする。
だって、出版社の場所も調べてないし、持ち込みの方法すら知らずにただ描いていたのだから…

二度と更新されることのない自作漫画の最後のページを確認する。
覚悟を決めて最難関ダンジョンに向かうミウとトモの背中に酒場のオヤジが笑顔で声をかけていた。
「がんばれよ!」
人生の『岐路』において漫画家になる道を諦めた俺は、ふぅと息を吐いてオヤジに答えた。
「がんばってみるよ」と

6/8/2024, 6:46:19 AM

『世界の終わりに君と』
好きな人編。
巨大隕石が地球に迫る。
テレビやネットでも様々な有識者たちがそう言っているので間違いない。どうやら今日で地球はおしまいのようだ。
最期くらい好きな人と一緒に過ごしたいと思った俺は意中のあの人に電話をかけた。
「あ、もしもし…はは、うん、そうそう、なんか今日で地球終わりっぽいね。ところでこれから会えないかな」
「ごめん今日は会えないの。また今度誘ってね」
「あ、うん…そっか、じゃあまた今度…」
「うん、また今度ね、ごめんね」
今日を逃したら今度なんかもう無いというのに断られてしまった。だが、彼女のそういうちょっとヌケたところがチャーミングで好きだったりする。

『世界の終わりに君と』
友人編。
宇宙人の戦闘艦隊が地球に襲来した。
ネットで得た情報によると、彼らは地球の豊富な資源を奪おうと遥か何億光年も先の銀河からやってきた悪い宇宙人たちらしい。
(宇宙人ってやっぱり本当にいたんだな…)
そんなことを考えながら空を見上げる。
空に浮かぶ宇宙人の巨大な戦艦、通称『マザーシップ』は今まさにこの瞬間、大量殺戮兵器の『プラズマチャージキャノン』を地表に向けて発射しようとしていた。
バチバチと火花を散らす緑色の光を見つめて俺は呟いた。
「これで世界も終わりかあ…なんかあっけないな…」
「終わりやな、ほんまあっけないな」
いつの間にか隣に立っていた友人が俺の意見に同意する。
「あのプラズマみたいなのって当たったら痛いのかな」
俺はふと思ったことを友人に聞いてみた。
「たぶん痛いってか、熱いんちゃう? それか痛みすら感じへんかもな」
「ふうん…」
そこで会話は止まり、空から降ってきた光の奔流が俺達を包み込んだ。
友人の言った通り、痛みは無かった。宇宙人のビーム兵器は慈愛に満ちていた。

「はあ……」
ばかばかしい脳内シミュレーションを終了してため息を吐く。
『世界の終わりに君と』、か。
「はあぁ……」
なんでも自分のやりたいようにできる妄想の中ですら物語の主人公になれない、なろうともしない自分に落胆して、もう一度おおきな溜息を吐く俺なのであった。

6/5/2024, 6:21:22 PM

正月に帰省した。
こんな俺でも地元に帰れば友達がいる。
久しぶりに友人と再会した俺はカラオケやパチスロといった娯楽を大いに楽しんだ。
そして夜も更けてきたところで居酒屋で談笑という運びになった。
酒を酌み交わしながらお互いの近況を改めて報告しあった後、友人が「そういえば…」と切り出した。
長々と聞かされた話を要約すると、今の仕事を辞めて転職するか迷っているという人生相談だった。
いい感じに効いてきた酒のせいで普段と比べて8割増しで気が大きくなっていた俺は、コトワザを例に出して偉そうに友人に説教した。
「そんな簡単に成果なんて出るわけないだろ。もうちょっと頑張ってみろよ、石の上にも三年っていうだろ」って具合に。
そしたら「でもお前は仕事辞めてるやん」と、さらっとつっこまれた。
俺は返す言葉が見つからなくて、無言でムスッとしてビールを飲んで、おつまみの厚焼きたまごをやけ食い気味に頬張った。
俺の機嫌を損ねたことを察したのか、友人は居酒屋の代金を奢ってくれた。さらにその後、行きつけのガールズバーに俺を案内してくれた。やはり持つべきものは親友だ。実に楽しい時間だった。

前置きはここまでにして今日のテーマ『誰にも言えない秘密』
それを語る前に、俺が仕事を辞めた理由について書く。
友達に話す時は「ブラック企業すぎてさ」とか「人間関係がめんどくて」なんて格好つけて説明してるけど、本当はぜんぜん違う。真相はこうだ。
ある日、いつも通り起床して、いつも通り出社しようとした時、急に猛烈な吐き気をもよおした。
体温計で熱を測ってみたところ平熱だったので気にする事なく家を出た。しかし職場に向かう途中で頭痛に見舞われた。
脳がギューと内側から締め付けられているような感覚の激痛に耐えかねて、俺は急いで自宅に引き返すとベッドに倒れこんだ。
少し休むと頭痛は治まったものの今度は冷や汗が出てきて、言いようのない不安感に苛まれた。
仕事をサボってしまった、どうしよう、終わりだ、終わりだ…と、客観的に見ると何も終わっていないのに、あの時の俺の中では世界が終わるくらいの規模で、なにかが一気に崩壊して終わっていきつつあるのが怖くて仕方なかった。
職場からかかってきた電話にも出られず、俺は漠然とした終焉の不安感に慄いて布団を頭からかぶって震えていた。
それから調子が元に戻る日もあったが、基本的には先述した謎の発作に苦しめられて仕事を休む日が続き…俺は半分クビに近い感じで仕事を辞めた。

仕事を辞めた後、しばらくのあいだ貯金で食いつなぎながら、ひたすら眠るだけの生活が続いた。そんな日々を送っていると、体重が10キロ以上落ちてガリガリになってしまった。
いよいよ貯金が底をついた頃、このまま寝たきりで孤独に朽ち果てるか、それとも生きるために働くか選択しなければいけなくなった。
もう何も食わん!と本気で悪い方の選択肢を選びかけたが、結局お腹が空いてスティックパンを泣きながらかじった時に気づいた。悪い選択肢を選ぶ根性は俺には無いと。
なので俺は生きていく為にアルバイトを始めた。
新しい職場は出来立てアツアツのからあげを耐熱性0のゴム手袋をつけただけのほぼ素手の状態で掴んでひたすらパック詰めするという、なんか拷問みたいな仕事だけど、働いているうちに不思議と俺の健康状態とメンタル面は回復しつつある…ように思う。
後になって謎の症状についてネットで調べてみて分かったが、仕事を辞める前と辞めた直後の俺は、うつ状態だったのかもしれない。
うつかもしれないと知って俺は怖くなった。怖かったが、いまさら病院にいって「あなたはうつです」と診断されるのは、もっと怖かった。なので病院にはいまだに行っていない。
もしかしたら俺は、うつといういつまた爆発するか分からない爆弾を抱えたまま生活しているのかもしれない。
これが俺の『誰にも言えない秘密』
誰にも言えないので、何者からも共感や批判が来ないここに、あの時の気持ちを備忘録として残しておく事にした。



6/4/2024, 8:36:23 PM

今日のテーマは『狭い部屋』らしい。
俺が借りているアパートの部屋にぴったりのお題だ。
いま俺が住んでいる部屋はかなり狭い。
しかも天井も低い。男子平均身長の俺が手をあげると、掌がぴったりと天井についてしまうくらいに。
部屋は狭いし天井も低いしで異様な圧迫感がある独房のような部屋だ。
さらに辺り一面に散乱している脱ぎっぱなしの衣服、ゴミ回収日に出し忘れて放置されたままになっているペットボトルが詰め込まれた袋、無作為に転がっている酒の空き缶、そして100円ショップで買った使いもしない便利グッズの数々…
それらの膨大なゴミに覆われて、ただでさえ狭い部屋は足の踏み場もない状態になっている。
俺はゴミから逃げるようにベッドに避難して、タブレットを使ってこの文章をポチポチ打っている。
「どうしてこんなことに…」
さんさんたる有様の部屋を見回してポツリと呟く。
どうしてこうなったのか、その原因を探るために俺は目を閉じてこれまでの歴史を振り返ってみることにした。

遡る事、数年前。
都会で夢破れた俺は逃げ込むように、家賃の安い田舎にあるこの狭い部屋に引っ越してきた。
あの頃はまだよかった。夢破れはしたが心機一転の心持ちと、ここから這いあがってみせるというハングリー精神が俺の中にあった。
あの頃の俺はタスク管理アプリを活用して朝6時に起床し、それから筋トレ、部屋の掃除をしてヘルシーな朝食を摂り、爽やかな気分で出社……と健康的な生活を送っていた。
部屋も整理整頓されていて、酒の空き缶や100均グッズが入り込む余地などなかったはずだ。
ではなぜ…というか、いつから俺はダメ人間になってしまったのか。いつから部屋はゴミ屋敷になってしまったのか。

閉じていた目を開けて、低い天井を見上げながらボーっと考える。
俺はなぜダメになった…
仕事を辞めたのがきっかけか?
強くなりたくて通っていたキックボクシングジムがわずか4ヶ月で潰れてしまって月謝を持ち逃げされたのが原因か?
スーパー銭湯で水虫をうつされた事に憤慨した時からか?
俺が絶望し、部屋が荒廃するまでに至った原因はいくつか思い浮かんだものの、どれもいまいちしっくりこない。
俺は再び目を閉じて熟考することにした。が、汚部屋の宙を舞っているハウスダストに鼻をくすぐられて、どでかいクシャミと鼻水が出たことにより瞑目はあえなく中断された。
床に転がっていたトイレットペーパーをむしり取って鼻をかむ。
そこで、はたと気がついた。そうか…とピーンときて、ツーンときた。
俺がダメになってしまったのも、部屋がゴミにまみれているのも、その原因は全てトイレットペーパーにあったのだ。
どういう事かというと、現在の俺はトイレットペーパーをティッシュペーパーの代用品として使用している。
つまり、常備していたティッシュペーパーが無くなったのに気付いてるはずなのに、トイレットペーパーがあるからまあいいやで済まそうとする怠惰の極みが悪い気を呼び、その負のオーラに侵食された俺は無気力人間に成り果て、部屋の片付けを後回しにし続けた結果が今の悲惨な現状を作り出しているのだ。
大きな問題の原因を突き詰めていけば、こういう小さな問題こそが解決の鍵を握っていたりする。
なので俺はトイレットペーパーにかけられた我が身の呪縛を解くために、なんとしてもティッシュペーパーを入手しなければならなかった。
「大変だ、こうしちゃいられん!」
俺は数年ぶりにタスク管理アプリを起動すると『今日の夕方6時に起きてドラッグストアに行ってお徳用のティッシュを購入する!』と予定を記入した。

「ふぅ…」
日記代わりの駄文を書き終えて一息つく。
今日のテーマが『狭い部屋』じゃなかったら、この重大な問題を永久に解決できなかったかもしれない。そう考えるとゾッとする。
俺は本日のお題という天啓を与えてくれた『書く習慣』に心の底から感謝して、ゴミだらけの狭い部屋で眠りにつくのだった。

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