Open App

『世界の終わりに君と』
好きな人編。
巨大隕石が地球に迫る。
テレビやネットでも様々な有識者たちがそう言っているので間違いない。どうやら今日で地球はおしまいのようだ。
最期くらい好きな人と一緒に過ごしたいと思った俺は意中のあの人に電話をかけた。
「あ、もしもし…はは、うん、そうそう、なんか今日で地球終わりっぽいね。ところでこれから会えないかな」
「ごめん今日は会えないの。また今度誘ってね」
「あ、うん…そっか、じゃあまた今度…」
「うん、また今度ね、ごめんね」
今日を逃したら今度なんかもう無いというのに断られてしまった。だが、彼女のそういうちょっとヌケたところがチャーミングで好きだったりする。

『世界の終わりに君と』
友人編。
宇宙人の戦闘艦隊が地球に襲来した。
ネットで得た情報によると、彼らは地球の豊富な資源を奪おうと遥か何億光年も先の銀河からやってきた悪い宇宙人たちらしい。
(宇宙人ってやっぱり本当にいたんだな…)
そんなことを考えながら空を見上げる。
空に浮かぶ宇宙人の巨大な戦艦、通称『マザーシップ』は今まさにこの瞬間、大量殺戮兵器の『プラズマチャージキャノン』を地表に向けて発射しようとしていた。
バチバチと火花を散らす緑色の光を見つめて俺は呟いた。
「これで世界も終わりかあ…なんかあっけないな…」
「終わりやな、ほんまあっけないな」
いつの間にか隣に立っていた友人が俺の意見に同意する。
「あのプラズマみたいなのって当たったら痛いのかな」
俺はふと思ったことを友人に聞いてみた。
「たぶん痛いってか、熱いんちゃう? それか痛みすら感じへんかもな」
「ふうん…」
そこで会話は止まり、空から降ってきた光の奔流が俺達を包み込んだ。
友人の言った通り、痛みは無かった。宇宙人のビーム兵器は慈愛に満ちていた。

「はあ……」
ばかばかしい脳内シミュレーションを終了してため息を吐く。
『世界の終わりに君と』、か。
「はあぁ……」
なんでも自分のやりたいようにできる妄想の中ですら物語の主人公になれない、なろうともしない自分に落胆して、もう一度おおきな溜息を吐く俺なのであった。

6/8/2024, 6:46:19 AM