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正月に帰省した。
こんな俺でも地元に帰れば友達がいる。
久しぶりに友人と再会した俺はカラオケやパチスロといった娯楽を大いに楽しんだ。
そして夜も更けてきたところで居酒屋で談笑という運びになった。
酒を酌み交わしながらお互いの近況を改めて報告しあった後、友人が「そういえば…」と切り出した。
長々と聞かされた話を要約すると、今の仕事を辞めて転職するか迷っているという人生相談だった。
いい感じに効いてきた酒のせいで普段と比べて8割増しで気が大きくなっていた俺は、コトワザを例に出して偉そうに友人に説教した。
「そんな簡単に成果なんて出るわけないだろ。もうちょっと頑張ってみろよ、石の上にも三年っていうだろ」って具合に。
そしたら「でもお前は仕事辞めてるやん」と、さらっとつっこまれた。
俺は返す言葉が見つからなくて、無言でムスッとしてビールを飲んで、おつまみの厚焼きたまごをやけ食い気味に頬張った。
俺の機嫌を損ねたことを察したのか、友人は居酒屋の代金を奢ってくれた。さらにその後、行きつけのガールズバーに俺を案内してくれた。やはり持つべきものは親友だ。実に楽しい時間だった。

前置きはここまでにして今日のテーマ『誰にも言えない秘密』
それを語る前に、俺が仕事を辞めた理由について書く。
友達に話す時は「ブラック企業すぎてさ」とか「人間関係がめんどくて」なんて格好つけて説明してるけど、本当はぜんぜん違う。真相はこうだ。
ある日、いつも通り起床して、いつも通り出社しようとした時、急に猛烈な吐き気をもよおした。
体温計で熱を測ってみたところ平熱だったので気にする事なく家を出た。しかし職場に向かう途中で頭痛に見舞われた。
脳がギューと内側から締め付けられているような感覚の激痛に耐えかねて、俺は急いで自宅に引き返すとベッドに倒れこんだ。
少し休むと頭痛は治まったものの今度は冷や汗が出てきて、言いようのない不安感に苛まれた。
仕事をサボってしまった、どうしよう、終わりだ、終わりだ…と、客観的に見ると何も終わっていないのに、あの時の俺の中では世界が終わるくらいの規模で、なにかが一気に崩壊して終わっていきつつあるのが怖くて仕方なかった。
職場からかかってきた電話にも出られず、俺は漠然とした終焉の不安感に慄いて布団を頭からかぶって震えていた。
それから調子が元に戻る日もあったが、基本的には先述した謎の発作に苦しめられて仕事を休む日が続き…俺は半分クビに近い感じで仕事を辞めた。

仕事を辞めた後、しばらくのあいだ貯金で食いつなぎながら、ひたすら眠るだけの生活が続いた。そんな日々を送っていると、体重が10キロ以上落ちてガリガリになってしまった。
いよいよ貯金が底をついた頃、このまま寝たきりで孤独に朽ち果てるか、それとも生きるために働くか選択しなければいけなくなった。
もう何も食わん!と本気で悪い方の選択肢を選びかけたが、結局お腹が空いてスティックパンを泣きながらかじった時に気づいた。悪い選択肢を選ぶ根性は俺には無いと。
なので俺は生きていく為にアルバイトを始めた。
新しい職場は出来立てアツアツのからあげを耐熱性0のゴム手袋をつけただけのほぼ素手の状態で掴んでひたすらパック詰めするという、なんか拷問みたいな仕事だけど、働いているうちに不思議と俺の健康状態とメンタル面は回復しつつある…ように思う。
後になって謎の症状についてネットで調べてみて分かったが、仕事を辞める前と辞めた直後の俺は、うつ状態だったのかもしれない。
うつかもしれないと知って俺は怖くなった。怖かったが、いまさら病院にいって「あなたはうつです」と診断されるのは、もっと怖かった。なので病院にはいまだに行っていない。
もしかしたら俺は、うつといういつまた爆発するか分からない爆弾を抱えたまま生活しているのかもしれない。
これが俺の『誰にも言えない秘密』
誰にも言えないので、何者からも共感や批判が来ないここに、あの時の気持ちを備忘録として残しておく事にした。



6/5/2024, 6:21:22 PM