夢幻劇

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8/8/2024, 11:27:37 AM

いいよね、あんたは自由で。




現代には珍しい、古臭い家の長女として生まれて17年。
“蝶よ花よ”と、それはそれは甘やかされて生きてきた。
何をねだっても何を嫌がっても、望み通りにしてくれた。

小さい頃はそれでよかった。
好きなことを沢山して、嫌なことを避けて、いい事しかないと思っていた。


だけど、そんな都合のいいことではなかった。



高校生にもなったというのにどこへ行くにもGPSが仕込まれていて把握され、友達との連絡も筒抜け。その友達も両親に言われた人達。バイトも部活もできない。恋愛なんて以ての外。食べる物も、着る服も、全ての私の行動は、あの人達が選ぶ。

― 過保護

この言葉が何度も頭に浮かんだ。




ほんと、うざったい。


枕に顔をうずめて、小さい“つ”にできる限りの力を込めて呟いた。



話はずれるが、私には極々身内の人間だけしか知らない双子の妹がいる。
双子は縁起が悪いだのなんだので、生後間もない頃、当時まだ子供のいなかった叔母夫婦の養子にされたそう。

17回目の誕生日を迎えたのが昨日。
両親宛に届いた叔母夫妻からの手紙をみつけたのが昨晩。
初めてあの人達に内緒で出かけたのが今朝。


スマホはGPSがあるから置いてきた。
幸いにも私達は一卵性双生児で顔がそっくり。
改札を抜け10分程で妹と思わしき人物をみつけた。




そっくりな顔をした女は、楽しそうに、男と手を繋いで、歩いていた。




ぷつん、と何かが切れる音と、鈍器で脳を直接殴られたかのような痛みが走った。


は?え?笑
なんであいつは笑ってるの?


口から漏れ出た「…は?」が自分でも驚くほど震えていた。



ズカズカと歩み寄り、自分と同じ顔をした妹の、ぽかんとした表情を無視して、横にいる男の、止めようとしてくる手を振り払って、憎いこいつの胸ぐらを掴んで、酷く歪んだであろう顔で、叫んだ。



「っあんたなんかだいっきらいっ!!!!」


【蝶よ花よ】

8/7/2024, 8:55:23 PM

            そう
あぁ、なんだ、“最初から決まっていたと”いうことか。
はっ、と自嘲する僕の声が狭い部屋に消えていった。|



そこまで打って手をとめた。
我ながら文才が無いものだ、と改めて痛感するお題だ。

いや、文才だけの問題では無い。
アイデアも、経験も、思考力もなにもかもがたりない。

動かない画面が暗くなり、変わりに醜い自分の姿が映し出された。
髪はボサボサで目元には隈、着ている部屋着はヨレヨレの、
なんとも覇気のない姿に軽く吐き気を覚えた。


―こんなはずじゃなかったのに


偶然にも今の姿が、先程まで綴っていた物語の人物と重なっていた。


これも、最初から決まっていたのかな。なんて



乾いた笑い声をもらし、僕は再び画面と向き合った。



【最初から決まっていた】

8/6/2024, 1:06:40 PM

太陽に近づきすぎた男は翼をもがれ、地に落とされた。


父さんとともに幽閉された僕は
父さんの作った蝋で固めた翼で空を飛び、脱獄した。

牢獄からでることができたことと、空を飛んでいることで高揚した僕は

-太陽に近づいてはいけない。

そんな父さんの忠告を無視して太陽に近づいた。
雲を何度も突き抜け、胸いっぱいに空気を吸う。
翼をバサバサと動かし上へ上へと飛んでいったとき、
「よせ!イカロス!」
そう叫ぶ父さんの声も、もう耳には入ってなかった。

なんって!素晴らしいんだ!!

例えこのまま本当に死んだとしても、構わない。
まるで恋焦がれる少女のように、そう思った。


あと少し、あと少しで太陽に届く!
熱くない、、熱くない!



ジッ



手を伸ばしたとき、短くきこえた。


手など、とうに焼け焦がれていた。

痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い!!!


つい先程まで熱さだって感じなかった。なのになぜだ。なぜ

のどがヒューヒューと音を立てている。


蝋が溶けたのか、背中に激痛が走った。
翼も焦げ落ち、一気に落下していく。

-嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやっー......



ぐぢゃ



なんとも不愉快な、身体が潰れた音を最期に
意識は途絶えた。







目が覚めると、どこをみても白一色の場所で座っていた。
ふいに下をみると、仰々しい本があった。
なにも無い空間になぜ本が?と疑問に思いつつ、引き寄せられるように手にとり、捲ってみた。


―太陽に近づきすぎた英雄、イカロス


俺が?英雄?
はっ、と鼻で笑い、クククとのどを鳴らして呟いた。



「バカばっか」



【太陽】

8/6/2024, 9:04:56 AM

恋に落ちた音がした。


変わり映えのない毎日を退屈に過ごしていたその日、
学校と反対方向に行く電車に間違えて乗った。

どうせ遅刻するなら、休んじゃえ。

頭の中の悪魔囁き、少し迷ったものの従うことにした。
海のほうに行くその電車は、通勤時間から時間がたったのも
あり人が少なかった。

ぼんやりと景色を眺めているとガタン、と車内が揺れた。
と思えば視界いっぱいに海が映り込んできた。

またガタンと揺れ、海は見えなくなった。
変わりに、トンネルに入ったのか窓には私の顔が映っていた。高揚して、目が輝いていた。
そっと頬に手を当てると、少し、熱い気がする。

この高揚を噛み締めるように手を握る。
そして、まるで愛おしいものを見つめるようにみる。

1時間程今まで見たことなかった景色を眺めてるうちに、
終点に着いた。

改札を出てしばらく歩くと、まるで異世界にいるかのように
目に映るもの全てが新鮮で、圧倒された。

ぶらぶらと歩いていると、視界の横でなにかが光った。
なんだろうと目を向けると、熊の木彫りの眼だった。
魚を咥え、こちらに目標を定めたかのように静かに睨んでくるその眼は、覆っている肉体の強さとは裏腹に、とても繊細で儚いもののように感じた。
翠玉のような眼を持つその熊に、自然と手を伸ばしていた。

コツン

けれど手にあたったのは木彫り熊ではなく、ガラスだった。

そのとき初めて、ショーケースに入っている商品だと認識した。
欲しい、そう一度思うと頭から離すことなど到底できなかった。

意をけして店のドアを開くと、カランコロン、という心地の良い鐘の音とともに、店員であろう一人の男性と目が合った。

好きだ

一目惚れとはこれを言うのか。
どこか怪しげな雰囲気を纏うその人に、一瞬で目も、心を奪われた。

その言葉は自然と口から出た。


「け、結婚してください!」


【鐘の音】