『 、 ?』
ぼくには、決められなかった。
どちらをえらんでも取り返しのつかないことになるのだから。
『神様』は言った。お前がえらべと。私にたよりなさいと。かんたんに叶えられると。
ぼくには決められなかった。
決められないけど、今のままではムリなのはわかってしまった。限界だけど、なんとかしたかった。
みんな大事なんだ。みんな。ここですごす全員、ぼくには必要で。
親で、友で、兄弟姉妹(キョウダイ)で。大切な仲間たち。
僕が、守る人達。
まだ大丈夫と、なんとか先送りにして、ずっとずっと見ないふりをしてきた。
神様が舞い降りてきて、こう言った。
『川向こうとこちら、どちらの国民を す?』
…今日は書ききった。もう4時半なので、おやすみなさい
地平線まで見渡せる丘の上で、水を口に含む。
遥か向こうにあるそこを目指し歩き続けてもうひと月になるが、未だ辿り着かない。皮袋に入れてきた水ももう底を尽きそうだった。
足元には小さな花々と、青々とした芝。空は澄んだ空気に満ちていて真っ白な雲がフワリフワリと流れていく。
のどかだ。
このひと月、脅威となる生き物には出会わず清らかな川に恵まれ、天候も荒れることもなく、ただただのんびりと歩を進められている。
食べ物は木の実や川魚が豊富なので困った事がない。野宿にも慣れた。
ここがどこだか分からない事意外は、大した過ごしやすい良い所だった。
鳥かご
気がついたらここにいた。
生まれた時からここにいる気がするし最近ここに来た気もする。曖昧な、モヤがかかったような記憶も歩いているうちに何故か忘れてしまう。
忘れていた事も忘れ、ふと何かの弾みで思い出す。思い出した瞬間は鮮明なそれも、一呼吸ごとにまた薄っすらと忘れていってしまう。
多分こんな事をこのひと月ずっと繰り返している。
…もう4時なので今日はここまで。おやすみなさい
そこは『田舎』の畦道だった。
田舎なんて住んだこともなければ、旅行で行く機会もなく。車で通り過ぎることはあれど、その地を歩いたこともない。
そこに立つ自分自身があまりにも場違いで、すぐにこれは夢なのだと気がついた。
風も匂いも気温も、全てが曖昧な中で一歩踏み出す。ジャリッと鳴った舗装もされてない道は、小石を踏んだ感触が分からなくても新鮮だった。顔を上げれば空は晴れ。日差しも木陰に遮られていて心地よい温もりだけをなんとなく感じさせた。
居たこともない田舎の夢は、なぜか酷く哀愁を誘う。
向こうから小さな子が駆けて来る。赤い着物を着た、女の子。頭には大振りの花飾りが添えられていてとても可愛らしい。パタパタと揺れる大きい丸みのお袖が蝶々みたいで
まだ、夢をみていたい。
…眠たくなったので、今日はここまで。おやすみなさい
キラキラと輝く道をサクリサクリと進めば、向こうで元気に手を振っている二人が見えた。真っ青な晴天と真っ白な雪道、そしてこの時期にしては比較的暖かな陽光が降り注ぐ中、僕達は卒業する。
冬晴れは
麻からできた水色の生地には白い染料で井型と丸模様が大きく描かれている。
六年間着続けたこの制服も今日で着納め。
ところどころが薄汚れたり擦り切れたりしているが、今この瞬間だけは一年生として入学したあの時のようにとてもとても綺麗に見えた。
ここを卒業すれば長く寝食を共に過ごした仲間達とは別れ、違う城で違う制服を着て、違う仕事をする日々が待っている。
入学した当時、井型模様の派手な制服は自分達の学年だけで何をやるにもその派手さが邪魔をするから、闇に紛れやすい他学年の制服をよく、羨んだものだった。
一学年上がるたびに辞めていくクラスメイト。
各学年、数人しか残っていなかった上級生。
癒える前に傷ついていく身体と現実に追いつかない心を持てあませば、仲間同士で慰め励まし笑い、時には朝までみんなで共に過ごして先生方に叱られたりもした。
その甲斐あってか、自分達の学年は記憶にある上級生の人数より片手分ほど多く残った。
学園中が卒業を祝い、在校生や職員がひっきりなしに卒業生に挨拶して回ればやがて拡声器で学園長からの挨拶がはじまっ…
冬晴れは、酷く優しい
…眠たくなったので今日はここまで。おやすみなさい
幸せとは
毎日一度は入浴できることである。
欠けの多々ある古びた陶器の茶碗。そこに、息子がヤカンで沸かした湯をコポポと注げばフワリと上がった湯気に自身の気持ちも自然と上向いた。
元々大層な風呂好きだったが、この身体になってからしばらくは我慢した。それはもう我慢した。仕方のないことだ。この身の丈に、湯船はあまりにも大きすぎた。
「父さん、湯加減はいかがですか?」
愛する妻との間に授かった可愛い息子は、
…明日も早いので今日はここまで。おやすみなさい