お金がなかったから仕方なく公園でデートしていた。当時は高校生だったから仕方ない。北風が身に染みる季節でも、灼熱な日の光を浴びる季節でも、ベンチしかない公園で肩を寄せ合って手を握った。
二人で行けばどこでもデートスポットだった。
お金があっても将来のためにデートでも倹約していた。僕も君も特に文句は出ない。行きたいところも行くし、美味しいものも食べる。でも贅沢をするつもりはない。二人でシェアすればどれも贅沢なご褒美だから。
高校時代を過ごした公園に君から呼び出された。より静かで殺風景な公園のベンチに、君は躊躇わずに座っていた。昔から変わらない仕草と、より一層魅力的な女性になった君に見惚れていた。
はやる気持ちを落ち着かせ、深呼吸してから君の目の前まで歩いた。
跪いて差し出すは四十本の赤いチューリップの花束。
『永遠の花束』
優しくしないで
でも酷くもしないで
冷たくされるととても辛い
だからといってあなたの優しさに触れるたび
とても惨めな思いをするの
ならどうしたらいいか?
ただずっとそばにいて
『やさしくしないで』
成り行きに任せて各地を旅していた時の話
君に出会ったのはネオンが灯る街だった
たった一晩の出来事だった
君と僕はほんの僅かな時間をとても濃密に過ごした
情熱的にお互いを求め合った
まどろみが心地よくて気付けば日が高い位置にいた
君の姿はどこにもいない
やはり一夜だけの関係だった
部屋を出る前にもう一度見渡した
テーブルの下にひらりと揺れる何かがあった
拾い上げれば白いメモ紙に何か一言書いてある
この国の言語なのだろう
僕にはあいにく読めなかった
捨てるのも忍びなくポケットに突っ込んだ
そのうちその紙のことすら忘れて
気がつけば何十年と経っていた
あの言葉はいったい何だったのだろう
それはテレビの異国のアーティストが教えてくれた
「バイバイ」
『隠された手紙』『バイバイ』『旅の途中』
人生約三十年。
様々なことを見て、聞いて、やってみて、知ってみて。
物事を通して自分がどういう人となりなのか、全て理解できている。
いや、理解できていたはずなのだ。
そのはずで間違いないんだけど、新しい物事を始めたり、環境が変化すると自分の新しい一面を思い知るのだ。
まだ知らない自分の一面なんて分かりたくなかった。
私が手先が不器用で足元が鈍臭い人間だったなんて。
もっとスマートに人生を歩んでいると思っていたのに、チョコを降らすような人間だったなんて未だに信じたくない。
もうこれ以上の面白とんでもドジは踏みたくない。
『まだ知らない君』
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
ひんやりとした空気を気持ち良いと感じるか
ジメジメした感触を気持ち悪いと感じるか
暗がりの空間に自ら飛び込むか
境界線から引き込まれるか
どちら側かを気にする私は日陰者
『日陰』
モコモコしたダウンコート
レギンスの上からコーデュロイのズボンを重ね着して
フワフワした履き心地のスノーブーツ
首元にはピンクの毛糸のマフラー
ミトンの手ぶくろも同じピンク色
そして新たに耳元までカバーされる
白いポンポンが頭頂部と左右に垂れ下がった
ピンクのニット帽が仲間入り
「雪だぁ!」
一面真っ白の世界で眩しいのは
降り積もった雪か はしゃぐ我が子か
『帽子かぶって』