あのすみません
その声で後ろを振り返る
自分よりも随分年下な女の子がいた
清潔感のある制服姿で
肩から下げたスクールバッグの肩紐を握りしめ
顔を真っ赤にして自分を見ている
街中のこのシチュエーション
何もない
何も起こらないと言い聞かせながら
自分の心臓が跳ね上がる
はい
唾を飲み込み返事をした
目が合えば女の子が肩で息を吸った
ズボンのお尻が割れてます
女の子はこちらに一礼をして
パタパタと走り去っていった
自分は手にした通勤カバンを
気持ち後ろ気味に持ち直して
駅のトイレまで早歩きした
『小さな勇気』
「わぁ!」
驚いたり、戸惑ったり、笑えたり。
相手の反応が面白くてついつい繰り返してしまう。
声を掛ける前、今回はどんな反応するんだろうと、ワクワクドキドキするのだ。
あ、今日はまだやったことない友達にやってみよう。
フリフリした洋服を身に纏う友達はとても可憐な女の子だ。きっと可愛い反応に違いない。
背後からそろり、そろりと近づいて。
「わぁ!」
「ぎゃーー!! ビックリするじゃねぇか何しやがるんだこの野郎ぶっ飛ばすぞゴラァ!!」
容姿とは相反する男勝りな口調と、その気迫に思わず腰を抜かした。
『終わらない物語』『わぁ!』
目を瞑った君の唇に触れる
柔らかくて瑞々しい唇は肌に吸い付く
数秒待って離れると君の目が開く
至近距離で目が合えば君は恥ずかしそうに笑う
僕は目を細めて見つめる
君にキスをする日は二度とこないだろう
『瞳を閉じて』『やさしい嘘』
私の指針は常にブレブレ
定まりそうで定まらない
ついには諦めてグルグル
思考の迷路から抜け出せない
『羅針盤』
ハードルも石ころもないところで躓いて転ぶし
犬の尻尾を踏んで追いかけ回されるし
水溜まりに踏み込んで泥水を浴びるし
いいことは滅多に起きないけど
見上げた空に虹がかかればそれでいいと思える
『明日に向かって歩く、でも』
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自分を守ろうとするとどうしても視野が狭くなる。
思考が堂々巡りになって偏見まみれの結論になる。
だから外を見ようって話じゃない。
そんな簡単に視野が広がるわけでも一般ウケする結論にも辿りつくわけでもない。
君は今外を見る余裕がない。
これだけ頭の片隅に置いておけばいい。
なに、容量を増やす必要なんてない。
データと違って人の記憶は勝手に剥がれ落ちて忘れていくものだ。
そもそも君は今余裕がほしいのか。
違うだろう。
ありのままを受け入れてくれる環境がほしいのさ。
今君の周りにいる人は君の側面ばかりを見ている。
そんな状況で本音を言えば拒絶されるやもしれない。
拒絶は嫌だ。
だから言わない。
今はそう結論づけていいさ。
でも信頼したい、大切にしたいと人ができたなら本音もちゃんと言ってくれ。
君がそう思えたなら間違いなく受け入れてくれるさ。
今はまだ殻にこもる時期。
殻を破った君が一体どんな変貌を遂げるのか。
もしくは変わらず優しい君のままなのか。
今から楽しみにしておくよ。
『ただひとりの君へ』